[1277] 糖尿病患者における歩行時間,坐位時間に関連する要因の検討
Keywords:2型糖尿病, 歩行時間, 坐位時間
【諸言】
糖尿病療養に於ける運動療法は,糖尿病発症・予防,あるいは糖尿病コントロールを目的に行われ,食事療法と併せて実行された場合の効果は高い。しかしセルフケア行動の実施率では食事療法と同様に実施率は低い。運動行動変容に関連する要因として身体機能に加,心理的要因,環境的要因との関連が多く報告されている。また糖尿病発症には身体活動量の少なさ(坐位時間)が関連することが知られており,坐位時間の長さも糖尿病発症のリスクとされている。これまで歩行時間,坐位時間に関して各要因との関連について諸家らの報告はあるが,同一患者を対象として歩行時間,坐位時間に関する各要因との関連を検討した報告は我々の渉猟の範囲では見当たらない。そこで,本研究では糖尿病教育目的で入院となった患者を対象に,運動時間,坐位時間に関するアンケート調査を行い,それぞれに関連する要因を明らかにすることを目的とする。
【方法】
当院に糖尿病教育目的で入院となった2型糖尿病患者のうち,除外基準と取り込み条件を満たす27名(平均年齢60.5±13.2歳)を対象とした。調査事項は身体活動量として国際標準化身体活動質問票(IPAQ)を用い,心理的要因では自己効力感(SE)として運動SE,身体活動SE,健康関連QOLとしてSF-8TMを用い,心理的負担感として糖尿病問題領域質問票(PAID)を用い,健康統制感として多次元的健康統制感(MHLC)を用い,環境的要因の評価として国際標準化身体活動質問紙環境尺度(IPAQ-E)を用い,ペットの有無を自己記入式で調査した。身体機能として握力,等尺性膝伸展筋力,10m歩行速度を測定した。また患者属性として診療記録から年齢,性別,糖尿病罹病期間,HbA1c値,運動行動変容ステージ,同居家族の有無,仕事内容(座業)を調査した。IPAQはより簡便なshort versionを使用し,運動時間,坐位時間を算出した。各変数は運動SE,PAIDでは合計点,身体活動SE,SF-8 TM,IPAQ-E,MHLCでは下位項目を算出し用いた。各調査項目に準じて4~6段階リッカート式尺度で尋ね,その合計または下位項目単独で比較した。統計学的解析について活動時間と各変数の関連性の検討では,各変数の正規性を確認した後に名義尺度変数にはMann-WhitneyのU検定を,順序・比率・間隔尺度変数にはSpearmanの順位相関分析を用いた。統計解析にはSPSS ver.15.0 Jを使用した。いずれの検定も統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮】
対象者には事前に本研究の趣旨,内容と得られた情報は本研究以外に使用しない事を説明し,書面にて同意を得た。また本研究にあたり周東総合病院倫理委員会の承認(承認番号25-11)を得た。
【結果】
歩行時間と相関を認めた項目は運動SE(rs=0.81),IPAQ-Eの項目「近所で運動したり体を動かしている人を多く見かける」(rs=0.36),飼っている犬の数(rs=0.39),MHLC下位項目の「IHLC」(rs=0.44),等尺性膝伸展筋力(rs=0.41)であり,坐位時間と相関を認めた項目は同居家族の有無(p=0.03),座業(p=0.04),身体活動SE下位項目の下肢活動(rs=0.42),SF8 TMの項目「健康状態」(rs=0.51),IPAQ-Eの項目「日用品を買うためのお店などが自宅から簡単に歩いて行ける範囲にたくさんある」(rs=-0.41),「安価に利用できるレクリエーション施設がいくつかある」(rs=-0.39)であった。
【考察】
本研究の結果,歩行時間と坐位時間に関連する変数が抽出された。同一の変数は抽出されず歩行時間と坐位時間は,それぞれ独立して各変数と関連すると考えられる。歩行時間,坐位時間で機能的要因,心理的要因のみならず自宅近隣に関する環境的要因も抽出された。運動に関連した尺度として運動行動変容ステージと運動SEの関連が示されている。また物理的な環境的要因も関連することが報告され,先行研究を支持する結果となった。また坐位時間に関して先行研究でも自宅近隣のウォーカビリティが低い地域に住む女性のテレビ視聴時間が長いなど環境的要因との関連が報告されている。身体活動のガイドラインで推奨されている中等度強度以上の身体活動量の多寡にかかわらず,座位行動の時間が長いことも糖尿病発症のリスクになるとされ,活動時間のだけではなく坐位時間の短縮も目指して行く必要がある。本研究の限界としてあくまでも自己申告制の歩行時間,坐位時間であるため客観性に欠け,信頼性を検討できていないことが挙げられる。今後は加速度センサ付歩数計を用い客観的に活動量を把握するとともに,症例数を増やし多相関での検討を行いたい。
【理学療法学研究としての意義】
これまで歩行時間,坐位時間との関連する要因は検討されているが,同一患者を対象に各要因を検討した結果,それぞれ異なる変数が抽出された。歩行時間の延長を促すのみでなく,併せて坐位時間の短縮に対しても異なる視点で取り組む必要性があることが示唆された。
糖尿病療養に於ける運動療法は,糖尿病発症・予防,あるいは糖尿病コントロールを目的に行われ,食事療法と併せて実行された場合の効果は高い。しかしセルフケア行動の実施率では食事療法と同様に実施率は低い。運動行動変容に関連する要因として身体機能に加,心理的要因,環境的要因との関連が多く報告されている。また糖尿病発症には身体活動量の少なさ(坐位時間)が関連することが知られており,坐位時間の長さも糖尿病発症のリスクとされている。これまで歩行時間,坐位時間に関して各要因との関連について諸家らの報告はあるが,同一患者を対象として歩行時間,坐位時間に関する各要因との関連を検討した報告は我々の渉猟の範囲では見当たらない。そこで,本研究では糖尿病教育目的で入院となった患者を対象に,運動時間,坐位時間に関するアンケート調査を行い,それぞれに関連する要因を明らかにすることを目的とする。
【方法】
当院に糖尿病教育目的で入院となった2型糖尿病患者のうち,除外基準と取り込み条件を満たす27名(平均年齢60.5±13.2歳)を対象とした。調査事項は身体活動量として国際標準化身体活動質問票(IPAQ)を用い,心理的要因では自己効力感(SE)として運動SE,身体活動SE,健康関連QOLとしてSF-8TMを用い,心理的負担感として糖尿病問題領域質問票(PAID)を用い,健康統制感として多次元的健康統制感(MHLC)を用い,環境的要因の評価として国際標準化身体活動質問紙環境尺度(IPAQ-E)を用い,ペットの有無を自己記入式で調査した。身体機能として握力,等尺性膝伸展筋力,10m歩行速度を測定した。また患者属性として診療記録から年齢,性別,糖尿病罹病期間,HbA1c値,運動行動変容ステージ,同居家族の有無,仕事内容(座業)を調査した。IPAQはより簡便なshort versionを使用し,運動時間,坐位時間を算出した。各変数は運動SE,PAIDでは合計点,身体活動SE,SF-8 TM,IPAQ-E,MHLCでは下位項目を算出し用いた。各調査項目に準じて4~6段階リッカート式尺度で尋ね,その合計または下位項目単独で比較した。統計学的解析について活動時間と各変数の関連性の検討では,各変数の正規性を確認した後に名義尺度変数にはMann-WhitneyのU検定を,順序・比率・間隔尺度変数にはSpearmanの順位相関分析を用いた。統計解析にはSPSS ver.15.0 Jを使用した。いずれの検定も統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮】
対象者には事前に本研究の趣旨,内容と得られた情報は本研究以外に使用しない事を説明し,書面にて同意を得た。また本研究にあたり周東総合病院倫理委員会の承認(承認番号25-11)を得た。
【結果】
歩行時間と相関を認めた項目は運動SE(rs=0.81),IPAQ-Eの項目「近所で運動したり体を動かしている人を多く見かける」(rs=0.36),飼っている犬の数(rs=0.39),MHLC下位項目の「IHLC」(rs=0.44),等尺性膝伸展筋力(rs=0.41)であり,坐位時間と相関を認めた項目は同居家族の有無(p=0.03),座業(p=0.04),身体活動SE下位項目の下肢活動(rs=0.42),SF8 TMの項目「健康状態」(rs=0.51),IPAQ-Eの項目「日用品を買うためのお店などが自宅から簡単に歩いて行ける範囲にたくさんある」(rs=-0.41),「安価に利用できるレクリエーション施設がいくつかある」(rs=-0.39)であった。
【考察】
本研究の結果,歩行時間と坐位時間に関連する変数が抽出された。同一の変数は抽出されず歩行時間と坐位時間は,それぞれ独立して各変数と関連すると考えられる。歩行時間,坐位時間で機能的要因,心理的要因のみならず自宅近隣に関する環境的要因も抽出された。運動に関連した尺度として運動行動変容ステージと運動SEの関連が示されている。また物理的な環境的要因も関連することが報告され,先行研究を支持する結果となった。また坐位時間に関して先行研究でも自宅近隣のウォーカビリティが低い地域に住む女性のテレビ視聴時間が長いなど環境的要因との関連が報告されている。身体活動のガイドラインで推奨されている中等度強度以上の身体活動量の多寡にかかわらず,座位行動の時間が長いことも糖尿病発症のリスクになるとされ,活動時間のだけではなく坐位時間の短縮も目指して行く必要がある。本研究の限界としてあくまでも自己申告制の歩行時間,坐位時間であるため客観性に欠け,信頼性を検討できていないことが挙げられる。今後は加速度センサ付歩数計を用い客観的に活動量を把握するとともに,症例数を増やし多相関での検討を行いたい。
【理学療法学研究としての意義】
これまで歩行時間,坐位時間との関連する要因は検討されているが,同一患者を対象に各要因を検討した結果,それぞれ異なる変数が抽出された。歩行時間の延長を促すのみでなく,併せて坐位時間の短縮に対しても異なる視点で取り組む必要性があることが示唆された。