[1284] 通所リハビリテーション利用者における栄養状態とその関連因子
Keywords:リハビリテーション栄養, MNA, 通所リハビリテーション
【はじめに,目的】
高齢者では,老年症候群に関連した疾患・障害因子,老々介護や独居などの社会的因子,多剤投与や薬剤副作用の薬剤要因などのために,低栄養を認めることが多い。昨今では栄養をリハビリテーションの視点から捉え,低栄養が身体機能の低下を引き起こし,その結果ADL能力の低下を引き起こしていることも明らかになっている。そこで今回,当通所リハビリテーション(以下,通リハ)における栄養状態の把握と,身体機能・認知機能との関連について調査し,栄養状態が利用者に与える影響について検証を行い,対応策を検討した。
【方法】
対象は当院通リハ利用者122名(男性38名,女性84名,平均年齢82.6±7.8歳,平均介護度1.5±1.1)。測定項目は,MNA-SF(簡易栄養状態評価表),BMI,FIM,HDS-R,10m歩行時間,握力,下肢筋力とした。下肢筋力に関しては下肢筋力測定器ロコモスキャン(アルケア社製)を使用して測定肢位が安全にとれる者のみ測定した。また,10m歩行に関しても自力(歩行補助具可)での歩行が可能な者のみ測定した。測定結果よりMNA-SFとの相関関係を検証し,さらにMNA-SFの点数により栄養状態良好群(12-14点)(以下,良好群),低栄養のリスクあり群(8-11点)(以下,リスク群),低栄養群(0-7点)の3群に分けて比較検討を行った。統計処理はSPSSを用いて行い,有意水準は危険率1%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究について十分に説明を行い,同意が得られた者,もしくは家族に承諾が得られた者のみ対象者とした。
【結果】
各測定項目の平均±SDはMNA-SF 10.1±2.5点,BMI 22.4±3.7Kg/m2,FIM 101.5±15.4点,HDS-R 22.9±6.6点,10m歩行時間13.0±7.9秒,握力(右)17.6±7.3Kg,握力(左)15.8±6.9Kg,下肢筋力(右)265.7±77.6N,下肢筋力(左)265.7±82.7Nであった。MNA-SFはBMI(r=0.498,p<0.01),FIM(r=0.464,p<0.01),HDS-R(r=0.368,p<0.01),握力(右)(r=0.315,p<0.01),(左)(r=0.389,p<0.01)との間に有意な相関を認めた。10m歩行時間,下肢筋力に関しては測定項目と有意な相関は認めなかった。また,MNA-SFにてスコア別に3群に分類した結果,良好群37名(30.3%),リスク群67名(54.9%),低栄養群18名(14.8%)であった。3群間の比較では,BMIは3群間全てに有意差を認め(p<0.01),FIM,HDS-R,握力,介護度は良好群とリスク群,良好群と低栄養群との間に有意差を認めた(p<0.01)。10m歩行時間,下肢筋力に関しては3群間に有意差は認めなかった。
【考察】
MNA-SFは高齢者の栄養状態を評価する簡便かつ実用的なツールである。特徴としては高齢者を対象とし,認知症や寝たきりの質問が入っており,施設や在宅などでも使用可能な点である。今回の測定では,MNA-SFは10.1±2.5点となり,平均ではリスク群に属する結果となった。また,リスク群と低栄養群を合わせると全体の69.7%を占めており,当通リハ利用者の約7割が何らかの栄養障害の可能性があることが考えられる。MNA-SFと他測定値との関連については,BMI,FIM,HDS-R,握力と有意な相関を認めており,体格面,ADL面,認知面,筋力面と全体的に関与しているスクリーニングであった。10m歩行時間と下肢筋力との相関はないことから,栄養状態の把握には利用者の動作面を観察するだけでなく,定期的な評価が必要であると考察する。良好群・リスク群・低栄養群の比較では,BMI,FIM,HDS-R,握力,介護度において良好群とその他の群との間に有意差があり,栄養状態にはこれらの評価項目の低下が影響している可能性がある。また,これらの評価項目の低下が栄養障害の始まりである可能性も示唆される。低栄養への対応策としては,MNA-SFでスコア別に分類した3群の内,低栄養群とリスク群(体重減少あり)に対して栄養補助食品の摂取を試みて,モニタリングを行うという活動を行っている。しかし,介護保険施設では血液検査等のデータが取れないなど,栄養管理に不十分な点も多く,かかり付け医療機関との連携の必要性を感じる。リハビリテーション栄養の周知に向けて今後も活動を行っていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
栄養を考慮せずに機能改善を目指した筋力増強運動や持久力増強運動を行うと筋力や持久力はむしろ低下することがあるため,リハビリテーションを行う上で身体機能,認知機能の評価と共に栄養状態の評価も必要である。
高齢者では,老年症候群に関連した疾患・障害因子,老々介護や独居などの社会的因子,多剤投与や薬剤副作用の薬剤要因などのために,低栄養を認めることが多い。昨今では栄養をリハビリテーションの視点から捉え,低栄養が身体機能の低下を引き起こし,その結果ADL能力の低下を引き起こしていることも明らかになっている。そこで今回,当通所リハビリテーション(以下,通リハ)における栄養状態の把握と,身体機能・認知機能との関連について調査し,栄養状態が利用者に与える影響について検証を行い,対応策を検討した。
【方法】
対象は当院通リハ利用者122名(男性38名,女性84名,平均年齢82.6±7.8歳,平均介護度1.5±1.1)。測定項目は,MNA-SF(簡易栄養状態評価表),BMI,FIM,HDS-R,10m歩行時間,握力,下肢筋力とした。下肢筋力に関しては下肢筋力測定器ロコモスキャン(アルケア社製)を使用して測定肢位が安全にとれる者のみ測定した。また,10m歩行に関しても自力(歩行補助具可)での歩行が可能な者のみ測定した。測定結果よりMNA-SFとの相関関係を検証し,さらにMNA-SFの点数により栄養状態良好群(12-14点)(以下,良好群),低栄養のリスクあり群(8-11点)(以下,リスク群),低栄養群(0-7点)の3群に分けて比較検討を行った。統計処理はSPSSを用いて行い,有意水準は危険率1%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究について十分に説明を行い,同意が得られた者,もしくは家族に承諾が得られた者のみ対象者とした。
【結果】
各測定項目の平均±SDはMNA-SF 10.1±2.5点,BMI 22.4±3.7Kg/m2,FIM 101.5±15.4点,HDS-R 22.9±6.6点,10m歩行時間13.0±7.9秒,握力(右)17.6±7.3Kg,握力(左)15.8±6.9Kg,下肢筋力(右)265.7±77.6N,下肢筋力(左)265.7±82.7Nであった。MNA-SFはBMI(r=0.498,p<0.01),FIM(r=0.464,p<0.01),HDS-R(r=0.368,p<0.01),握力(右)(r=0.315,p<0.01),(左)(r=0.389,p<0.01)との間に有意な相関を認めた。10m歩行時間,下肢筋力に関しては測定項目と有意な相関は認めなかった。また,MNA-SFにてスコア別に3群に分類した結果,良好群37名(30.3%),リスク群67名(54.9%),低栄養群18名(14.8%)であった。3群間の比較では,BMIは3群間全てに有意差を認め(p<0.01),FIM,HDS-R,握力,介護度は良好群とリスク群,良好群と低栄養群との間に有意差を認めた(p<0.01)。10m歩行時間,下肢筋力に関しては3群間に有意差は認めなかった。
【考察】
MNA-SFは高齢者の栄養状態を評価する簡便かつ実用的なツールである。特徴としては高齢者を対象とし,認知症や寝たきりの質問が入っており,施設や在宅などでも使用可能な点である。今回の測定では,MNA-SFは10.1±2.5点となり,平均ではリスク群に属する結果となった。また,リスク群と低栄養群を合わせると全体の69.7%を占めており,当通リハ利用者の約7割が何らかの栄養障害の可能性があることが考えられる。MNA-SFと他測定値との関連については,BMI,FIM,HDS-R,握力と有意な相関を認めており,体格面,ADL面,認知面,筋力面と全体的に関与しているスクリーニングであった。10m歩行時間と下肢筋力との相関はないことから,栄養状態の把握には利用者の動作面を観察するだけでなく,定期的な評価が必要であると考察する。良好群・リスク群・低栄養群の比較では,BMI,FIM,HDS-R,握力,介護度において良好群とその他の群との間に有意差があり,栄養状態にはこれらの評価項目の低下が影響している可能性がある。また,これらの評価項目の低下が栄養障害の始まりである可能性も示唆される。低栄養への対応策としては,MNA-SFでスコア別に分類した3群の内,低栄養群とリスク群(体重減少あり)に対して栄養補助食品の摂取を試みて,モニタリングを行うという活動を行っている。しかし,介護保険施設では血液検査等のデータが取れないなど,栄養管理に不十分な点も多く,かかり付け医療機関との連携の必要性を感じる。リハビリテーション栄養の周知に向けて今後も活動を行っていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
栄養を考慮せずに機能改善を目指した筋力増強運動や持久力増強運動を行うと筋力や持久力はむしろ低下することがあるため,リハビリテーションを行う上で身体機能,認知機能の評価と共に栄養状態の評価も必要である。