[1292] 右大腿骨顆部骨折後の膝前内側部痛に対し,足底挿板療法が有効であった一症例
キーワード:大腿骨顆部骨折, 膝関節内側支持組織不安定性, 足底挿板療法
【はじめに,目的】
大腿骨顆部骨折は膝関節内外反または回旋を伴う長軸方向への圧迫外力により発症し,外力の程度によっては関節内骨折に及ぶ。さらに内外反の強い外力により側副靭帯損傷を合併するとされる。膝関節静的安定化機構の破綻を伴う理学療法について関節可動域改善や筋力強化を目的とした報告は散見されるが,膝関節不安定性に対する足底挿板療法についての報告は少ない。今回,右大腿骨顆部骨折を生じ,膝関節内側支持組織の破綻による不安定性が膝前内側部痛を誘発し,足底挿板療法により疼痛が軽減した理学療法を経験した。歩行時における膝関節不安定性に対する足底挿板療法の有効性を示すことを目的とし,若干の考察を加え報告する。
【方法】
症例は70歳台女性,現病歴は,自転車走行中に自動車に右側から衝突され受傷した。他院に救急搬送され,右大腿骨顆部骨折(AO分類type C2)と診断された。受傷後1週で観血的整復固定術を施行し,術後4週にてリハビリ目的で転院,理学療法開始となる。術後4週時の評価で,右膝関節周囲に浮腫,熱感の残存,膝蓋骨可動性低下,術創部である大腿遠位外側部周囲軟部組織に柔軟性低下を認め,圧痛は大腿筋膜張筋,腸脛靭帯,外側広筋,内側側副靭帯(以下,MCL)に認めた。関節可動域(以下,ROM)は屈曲80°,伸展-10°であり部分荷重時に膝前内側部痛を認めた。ober testは陽性で,外反ストレステストは最大伸展位,及び屈曲30°において動揺性と疼痛を認めた。理学療法は術後4週から浮腫管理の徹底,術創部周囲の癒着予防及び剥離目的に膝関節伸展機構の筋収縮を利用した筋伸縮距離の改善を図り,MCLに伸張ストレスが生じないよう下腿外旋,外反に注意して疼痛のない範囲で実施した。術後10週で屈曲120°,伸展0°を獲得したが,歩行時に下腿外旋と外反が生じる不安定性と膝前内側部に疼痛を認めた。まず,テーピングと外反制動装具を併用し下腿内旋誘導と外反制動を図り,膝前内側部痛が軽減することを確認した後,同様の作用を目的とする足底挿板を作製した。治療判定基準には,日本整形外科学会治療成績判定基準(以下,JOA score)を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守したうえで,対象者に十分な説明を行い,同意及び署名を得た。
【結果】
ROMは,術後15週で屈曲140°,伸展0°と改善し,歩行時の膝前内側部痛と外反不安定性も改善された。1年半経過後も膝前内側部痛と外反不安定性は認めず経過は良好であった。JOA scoreは術後4週時の40点から,歩行時,階段昇降時の疼痛項目が改善し,85点となった。
【考察】
本症例は,膝関節長軸及び外反に圧迫力が加わり大腿骨外側関節面と顆上部に骨折を伴う関節内骨折であった。受傷機転と手術所見により,膝蓋上方支持組織,膝関節内側支持組織,術創部の大腿遠位外側部軟部組織の損傷が考えられた。各々の軟部組織に機能解剖を考慮しながら運動療法を実施した結果,ROMは改善したが,歩行時の外反,外旋に伴った膝前内側部痛が残存した。本症例の歩行は,踵骨回外位にて踵接地を行い,立脚中期に足部への荷重移動にて足部が過回内し,下腿外旋,外反してknee in-toe outの異常アライメントを生じていた。その結果,破綻している膝関節内側支持組織のMCLに伸張ストレスが加わり,膝前内側部痛が出現したと推察される。そのため,MCLの損傷,つまり,静的安定化機構の破綻により不安定性が出現しており,荷重動作の中での安定性獲得が重要と考える。正常歩行における荷重に伴う足部アーチの機能変形では,まず,全荷重が距骨にかかり,2/3が踵骨へ回内しながら荷重され,1/3が舟状骨,立方骨,以遠へ伝達荷重するとされる。したがって,本症例への足底挿板療法では,踵接地時に生じる回外位を制御し,同時に立脚中期での足部過回内によって生じる下腿外旋,外反を制御し,下腿内旋を誘導する目的でパッドを貼付した。その結果,下腿外旋及び外反の不安定性とMCLの伸張ストレスが軽減し,膝前内側部痛が改善されたと考えられた。本症例では,術創部の大腿遠位外側部軟部組織の伸張性と滑走性の改善と足底挿板療法を同時に実施したことで,歩行時の異常アライメントが修正され,荷重移動が安定したと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
大腿骨顆部骨折に伴う膝関節内側支持組織不安定性による疼痛に対し,足底挿板療法を併用した理学療法が奏功した一症例を経験した。膝関節不安定性を伴う症例に足底挿板療法を併用することで,より幅広い理学療法を展開できる可能性がある。
大腿骨顆部骨折は膝関節内外反または回旋を伴う長軸方向への圧迫外力により発症し,外力の程度によっては関節内骨折に及ぶ。さらに内外反の強い外力により側副靭帯損傷を合併するとされる。膝関節静的安定化機構の破綻を伴う理学療法について関節可動域改善や筋力強化を目的とした報告は散見されるが,膝関節不安定性に対する足底挿板療法についての報告は少ない。今回,右大腿骨顆部骨折を生じ,膝関節内側支持組織の破綻による不安定性が膝前内側部痛を誘発し,足底挿板療法により疼痛が軽減した理学療法を経験した。歩行時における膝関節不安定性に対する足底挿板療法の有効性を示すことを目的とし,若干の考察を加え報告する。
【方法】
症例は70歳台女性,現病歴は,自転車走行中に自動車に右側から衝突され受傷した。他院に救急搬送され,右大腿骨顆部骨折(AO分類type C2)と診断された。受傷後1週で観血的整復固定術を施行し,術後4週にてリハビリ目的で転院,理学療法開始となる。術後4週時の評価で,右膝関節周囲に浮腫,熱感の残存,膝蓋骨可動性低下,術創部である大腿遠位外側部周囲軟部組織に柔軟性低下を認め,圧痛は大腿筋膜張筋,腸脛靭帯,外側広筋,内側側副靭帯(以下,MCL)に認めた。関節可動域(以下,ROM)は屈曲80°,伸展-10°であり部分荷重時に膝前内側部痛を認めた。ober testは陽性で,外反ストレステストは最大伸展位,及び屈曲30°において動揺性と疼痛を認めた。理学療法は術後4週から浮腫管理の徹底,術創部周囲の癒着予防及び剥離目的に膝関節伸展機構の筋収縮を利用した筋伸縮距離の改善を図り,MCLに伸張ストレスが生じないよう下腿外旋,外反に注意して疼痛のない範囲で実施した。術後10週で屈曲120°,伸展0°を獲得したが,歩行時に下腿外旋と外反が生じる不安定性と膝前内側部に疼痛を認めた。まず,テーピングと外反制動装具を併用し下腿内旋誘導と外反制動を図り,膝前内側部痛が軽減することを確認した後,同様の作用を目的とする足底挿板を作製した。治療判定基準には,日本整形外科学会治療成績判定基準(以下,JOA score)を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守したうえで,対象者に十分な説明を行い,同意及び署名を得た。
【結果】
ROMは,術後15週で屈曲140°,伸展0°と改善し,歩行時の膝前内側部痛と外反不安定性も改善された。1年半経過後も膝前内側部痛と外反不安定性は認めず経過は良好であった。JOA scoreは術後4週時の40点から,歩行時,階段昇降時の疼痛項目が改善し,85点となった。
【考察】
本症例は,膝関節長軸及び外反に圧迫力が加わり大腿骨外側関節面と顆上部に骨折を伴う関節内骨折であった。受傷機転と手術所見により,膝蓋上方支持組織,膝関節内側支持組織,術創部の大腿遠位外側部軟部組織の損傷が考えられた。各々の軟部組織に機能解剖を考慮しながら運動療法を実施した結果,ROMは改善したが,歩行時の外反,外旋に伴った膝前内側部痛が残存した。本症例の歩行は,踵骨回外位にて踵接地を行い,立脚中期に足部への荷重移動にて足部が過回内し,下腿外旋,外反してknee in-toe outの異常アライメントを生じていた。その結果,破綻している膝関節内側支持組織のMCLに伸張ストレスが加わり,膝前内側部痛が出現したと推察される。そのため,MCLの損傷,つまり,静的安定化機構の破綻により不安定性が出現しており,荷重動作の中での安定性獲得が重要と考える。正常歩行における荷重に伴う足部アーチの機能変形では,まず,全荷重が距骨にかかり,2/3が踵骨へ回内しながら荷重され,1/3が舟状骨,立方骨,以遠へ伝達荷重するとされる。したがって,本症例への足底挿板療法では,踵接地時に生じる回外位を制御し,同時に立脚中期での足部過回内によって生じる下腿外旋,外反を制御し,下腿内旋を誘導する目的でパッドを貼付した。その結果,下腿外旋及び外反の不安定性とMCLの伸張ストレスが軽減し,膝前内側部痛が改善されたと考えられた。本症例では,術創部の大腿遠位外側部軟部組織の伸張性と滑走性の改善と足底挿板療法を同時に実施したことで,歩行時の異常アライメントが修正され,荷重移動が安定したと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
大腿骨顆部骨折に伴う膝関節内側支持組織不安定性による疼痛に対し,足底挿板療法を併用した理学療法が奏功した一症例を経験した。膝関節不安定性を伴う症例に足底挿板療法を併用することで,より幅広い理学療法を展開できる可能性がある。