[1293] 両側TKA患者における術後膝関節機能に与える術前因子の検討
キーワード:両側TKA患者, 膝関節機能, 術前リハビリテーション
【はじめに,目的】
人工膝関節全置換術(以下,TKA)後のリハビリテーションは多くの病院でクリニカルパスが導入され,理学療法士によって治療方針が大きく異なることは少ない。しかし,術前のリハビリテーション(以下,術前リハ)においてはその治療目的も曖昧で,理学療法士によって治療方針が様々であることが考えられる。そのため,本研究の目的は当院で行われている両側同時TKA患者を対象に,術後の膝関節機能に影響を与える術前因子について検討し,術前リハ選択の一助とすることとした。
【方法】
対象は平成25年4月から8月の間に当院にて両側同時TKA術を施行した女性患者9名18肢(平均年齢75.1±7.8歳)とし,測定は術前,術後の2回実施した。術前測定は手術1~3日前,術後測定は退院時(平均術後59.1±10.7日)とした。測定項目は身長,体重,疼痛(安静時痛,荷重時痛,歩行時痛,階段昇降時痛),Range Of Motion(以下,ROM),最大等尺性下肢筋力(以下,下肢筋力)とした。疼痛評価はそれぞれの場面を再現し,その時の疼痛の程度をNumeric Rating Scaleにて0(痛みなし)から10(これまで経験した痛みの中で一番痛い痛み)の11段階で調査した。ROM測定は股関節伸展・内旋,膝関節屈曲・伸展,足関節背屈についてゴニオメーターを用いて測定した。下肢筋力測定にはハンドヘルドダイナモメーター(μ-TAS FI,アニマ社製)を使用し,股関節外転,膝関節伸展・屈曲筋力を測定した。測定姿勢は股関節外転は背臥位,膝関節伸展は端座位,屈曲は腹臥位とした。対象者は十分な練習の後,抵抗に抗して5秒間最大等尺性運動を行った。各運動3回測定し,最大値を代表値,単位はkgfとした。
統計学的解析は,各測定項目の術前後の比較にはWilcoxonの符号付き順位検定を用いて検討した。また,各測定項目の術前後の関係,術前の膝関節機能(膝関節屈曲・伸展ROM,最大等尺性膝関節伸展筋力,疼痛)以外の測定項目と術後の膝関節機能の測定項目の関係をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。統計学的処理にはSPSS Statistics Ver.21を使用し,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者全員に対して,測定前に本研究の内容と対象者の有する権利,データの取り扱いについて口頭と紙面にて十分な説明を行い,参加の同意を得た上で行った。
【結果】
術前後の比較において,荷重時痛は術前3.4±3.1,術後0.1±0.5(p<0.01),歩行時痛は術前2.7±2.8,術後0.6±1.3(p<0.05),階段昇降時痛は術前5.4±3.4,術後2.3±2.0(p<0.01)と術後で有意な減少がみられた。各測定項目の術前後の関係では,股関節伸展ROM(r=0.58,p<0.05),膝関節屈曲筋力(r=0.78,p<0.01),股関節外転筋力(r=0.73,p<0.01)において有意に強い正の相関がみられ,膝関節屈曲ROM(r=0.44),膝関節伸展筋力(r=0.44)では有意ではないものの,中等度の正の相関を示した。また,術前の膝関節機能以外の項目と術後の膝関節機能の項目の関係では,術前股関節外転筋力と術後膝関節屈曲ROM(r=0.52,p<0.05),術前股関節外転筋力と術後膝関節伸展ROM(r=0.47,p<0.05)で中等度の有意な正の相関がみられた。術前足関節背屈ROMと術後階段昇降時痛(r=-0.69,p<0.01)においても有意に強い負の相関がみられた。
【考察】
膝関節ROMや膝関節伸展筋力では術前後で中等度の正の相関がみられたものの,有意ではなかった。これより術後の膝関節機能においては術前の状態だけでなく,術侵襲などの他因子の影響があることが示唆されたが,本研究ではそれについて検討していない。また,股関節ROMや股関節外転筋力では術前後で強い正の相関がみられ,術前股関節外転筋力と術後膝関節機能に中等度の正の相関がみられた。さらに術前足関節背屈ROMと術後の階段昇降時痛で強い負の相関がみられた。このことからも,術前の膝関節の隣接関節である股関節や足関節の機能が術後の膝関節機能に影響を与えることが示唆され,術前より隣接関節へのアプローチも並行して行っていく必要性が示唆された。しかし,本研究の問題点として対象者数が少ないことや測定項目が膝関節機能を反映しにくい項目であった可能性が考えられる。そのため,今後の課題としては対象者数を増やし,両側TKA患者の中で術後の膝関節機能の問題が退院時に残存する者を対象にすることや,測定項目について再検討し,術後の膝関節機能や疼痛改善のための術前リハの方針について考察していく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,術前リハにおいて隣接関節へのアプローチも並行して行っていく必要性が示唆された。このことは術前に理学療法介入を行う際の治療方針を決定する際の一助となる有用な結果であると考える。
人工膝関節全置換術(以下,TKA)後のリハビリテーションは多くの病院でクリニカルパスが導入され,理学療法士によって治療方針が大きく異なることは少ない。しかし,術前のリハビリテーション(以下,術前リハ)においてはその治療目的も曖昧で,理学療法士によって治療方針が様々であることが考えられる。そのため,本研究の目的は当院で行われている両側同時TKA患者を対象に,術後の膝関節機能に影響を与える術前因子について検討し,術前リハ選択の一助とすることとした。
【方法】
対象は平成25年4月から8月の間に当院にて両側同時TKA術を施行した女性患者9名18肢(平均年齢75.1±7.8歳)とし,測定は術前,術後の2回実施した。術前測定は手術1~3日前,術後測定は退院時(平均術後59.1±10.7日)とした。測定項目は身長,体重,疼痛(安静時痛,荷重時痛,歩行時痛,階段昇降時痛),Range Of Motion(以下,ROM),最大等尺性下肢筋力(以下,下肢筋力)とした。疼痛評価はそれぞれの場面を再現し,その時の疼痛の程度をNumeric Rating Scaleにて0(痛みなし)から10(これまで経験した痛みの中で一番痛い痛み)の11段階で調査した。ROM測定は股関節伸展・内旋,膝関節屈曲・伸展,足関節背屈についてゴニオメーターを用いて測定した。下肢筋力測定にはハンドヘルドダイナモメーター(μ-TAS FI,アニマ社製)を使用し,股関節外転,膝関節伸展・屈曲筋力を測定した。測定姿勢は股関節外転は背臥位,膝関節伸展は端座位,屈曲は腹臥位とした。対象者は十分な練習の後,抵抗に抗して5秒間最大等尺性運動を行った。各運動3回測定し,最大値を代表値,単位はkgfとした。
統計学的解析は,各測定項目の術前後の比較にはWilcoxonの符号付き順位検定を用いて検討した。また,各測定項目の術前後の関係,術前の膝関節機能(膝関節屈曲・伸展ROM,最大等尺性膝関節伸展筋力,疼痛)以外の測定項目と術後の膝関節機能の測定項目の関係をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。統計学的処理にはSPSS Statistics Ver.21を使用し,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者全員に対して,測定前に本研究の内容と対象者の有する権利,データの取り扱いについて口頭と紙面にて十分な説明を行い,参加の同意を得た上で行った。
【結果】
術前後の比較において,荷重時痛は術前3.4±3.1,術後0.1±0.5(p<0.01),歩行時痛は術前2.7±2.8,術後0.6±1.3(p<0.05),階段昇降時痛は術前5.4±3.4,術後2.3±2.0(p<0.01)と術後で有意な減少がみられた。各測定項目の術前後の関係では,股関節伸展ROM(r=0.58,p<0.05),膝関節屈曲筋力(r=0.78,p<0.01),股関節外転筋力(r=0.73,p<0.01)において有意に強い正の相関がみられ,膝関節屈曲ROM(r=0.44),膝関節伸展筋力(r=0.44)では有意ではないものの,中等度の正の相関を示した。また,術前の膝関節機能以外の項目と術後の膝関節機能の項目の関係では,術前股関節外転筋力と術後膝関節屈曲ROM(r=0.52,p<0.05),術前股関節外転筋力と術後膝関節伸展ROM(r=0.47,p<0.05)で中等度の有意な正の相関がみられた。術前足関節背屈ROMと術後階段昇降時痛(r=-0.69,p<0.01)においても有意に強い負の相関がみられた。
【考察】
膝関節ROMや膝関節伸展筋力では術前後で中等度の正の相関がみられたものの,有意ではなかった。これより術後の膝関節機能においては術前の状態だけでなく,術侵襲などの他因子の影響があることが示唆されたが,本研究ではそれについて検討していない。また,股関節ROMや股関節外転筋力では術前後で強い正の相関がみられ,術前股関節外転筋力と術後膝関節機能に中等度の正の相関がみられた。さらに術前足関節背屈ROMと術後の階段昇降時痛で強い負の相関がみられた。このことからも,術前の膝関節の隣接関節である股関節や足関節の機能が術後の膝関節機能に影響を与えることが示唆され,術前より隣接関節へのアプローチも並行して行っていく必要性が示唆された。しかし,本研究の問題点として対象者数が少ないことや測定項目が膝関節機能を反映しにくい項目であった可能性が考えられる。そのため,今後の課題としては対象者数を増やし,両側TKA患者の中で術後の膝関節機能の問題が退院時に残存する者を対象にすることや,測定項目について再検討し,術後の膝関節機能や疼痛改善のための術前リハの方針について考察していく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,術前リハにおいて隣接関節へのアプローチも並行して行っていく必要性が示唆された。このことは術前に理学療法介入を行う際の治療方針を決定する際の一助となる有用な結果であると考える。