[1297] 内側縦アーチ高率が重心動揺および下腿筋活動に及ぼす影響
Keywords:扁平足, 重心動揺, 筋活動
【はじめに,目的】
立位バランスにおいて足底は地面と接する唯一の部位であり,重心を制御する際に足底と床面との関係を考察することは重要である。そこで我々は2点の仮説を立てた。1つは内側縦アーチが低い扁平足では重心動揺において,健常者に比べて動揺が大きくなる。もう1つは,その代償としてCOPを制御するために足関節周囲の筋出力が増加すると考えた。その結果,筋へのストレスも増加し,足底腱膜炎や後脛骨筋炎等の傷害とも結びつくと考え,扁平群と健常群の重心動揺と筋出力との関係を比較検討することを目的として本研究を行った。
【方法】
内側縦アーチ高率の測定は,足長に対する舟状骨粗面高の割合を算出する大久保らの足アーチ高測定方法を用いた。その結果より,アーチ高率が11.0%以下を扁平群,11.1%以上を健常群と設定し,片脚立位時の総軌跡長,外周面積,実効値面積,XY方向動揺平均中心変位,XY方向パワースペクトル(以下,XPW・YPW)をユニメック社の重心動揺計JK-101II(sampling rate:20Hz)を用いて計測した。同時に,日本光電工業社の筋電計 多チャネルテレメータシステムWEB-7000(sampling rate:Lo Cut 30Hz,Hi Cut 500Hz)を用いて,軸足の前脛骨筋,長腓骨筋,腓腹筋外側頭,腓腹筋内側頭の4か所を,Aldoの筋電図測定方法を参考にして測定した。また,筋活動は最大筋力発揮時の筋活動量に対する相対値を用いた。課題設定は両上肢を胸の前で組んだ軸足での片脚立位とし,開眼・閉眼で行った。開眼での計測時は3m前方につけた印を注視させた。それぞれ片脚立位を20秒間できるだけ安定した姿勢を保持するよう指示し,各3回施行した上で平均値を算出した。
扁平群-健常群間の総軌跡長,外周面積,実効値面積,XY方向動揺平均中心変位,XPW・YPWの比較においては対応のないt検定を行った。アーチ高率-開眼・閉眼総軌跡長の関係性はSpearmanの順位相関係数を用いて処理を行った。なお,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則り実施した。全対象者に事前に本研究内容を書面および口頭で十分な説明を行い,署名にて同意を得た。
【結果】
対象は,下肢の手術歴がなく,1年以内に病院を受診するほどの外傷のない若年健常者男女8名ずつ計16名,平均年齢21.6±0.89歳とした。
総軌跡長は,開眼時で扁平群495.7±85.7 mm,健常群415.8±44.7 mm,閉眼時で扁平群875.8±131.5 mm,健常群721.4±68.8 mmであり,開眼・閉眼ともに扁平群で有意な増加を認めた(p<0.05)。実効値面積では,開眼時のみ扁平群275.6±88.8 mm2,健常群409.4±145.9 mm2であり,扁平群で有意な減少を認めた(p<0.05)。開眼・閉眼ともに,アーチ高率-総軌跡長間に負の相関を認めた(開眼r=-0.57,閉眼r=-0.78)。XPWにおける高周波数帯域面積比では,健常群に対して扁平群で有意な高値を,YPWにおける低周波数帯域面積比では,健常群に対して扁平群で有意な低値を示した(p<0.05)。筋電計の結果については有意差が認められなかった。
【考察】
今回,我々が着目した内側縦アーチは,足部内在筋や下腿深層筋による能動的構造と骨や靭帯による受動的構造の2つの安定化構造からなると言われている。しかし,表層の4筋について筋電計にて計測を行ったが,いずれも有意差が認められなかった。したがって,片脚立位における内側縦アーチの安定性には,受動的構造に加え,足部内在筋や下腿深層筋による能動的構造が関与しているのではないかと考える。また,総軌跡長においては仮説通りの増加が認められたが,実効値面積においては仮説と異なり扁平群で有意に減少した。その原因を追究するためXPW・YPWの解析を行った。
これらの結果から,扁平群は健常群に比べて構造的に脆弱であるため,大きな重心動揺が生じる前に早期に修正しようとし,特にX軸方向において速く細かいCOP制御が顕著となったと考える。さらに,Y軸方向においては高周波数帯域面積比で有意差は得られなかったが,p=0.07であったためX軸方向と同様の傾向となったと考える。
【理学療法学研究としての意義】
今回の結果より,アーチの低い扁平足では健常者と比べて異なったCOP制御を行っていることが示唆された。また,バランス能力としては,一般的に総軌跡長と実効値面積に相関があるとされるが,今回のように異なった結果が出たことは興味深い点である。
立位バランスにおいて足底は地面と接する唯一の部位であり,重心を制御する際に足底と床面との関係を考察することは重要である。そこで我々は2点の仮説を立てた。1つは内側縦アーチが低い扁平足では重心動揺において,健常者に比べて動揺が大きくなる。もう1つは,その代償としてCOPを制御するために足関節周囲の筋出力が増加すると考えた。その結果,筋へのストレスも増加し,足底腱膜炎や後脛骨筋炎等の傷害とも結びつくと考え,扁平群と健常群の重心動揺と筋出力との関係を比較検討することを目的として本研究を行った。
【方法】
内側縦アーチ高率の測定は,足長に対する舟状骨粗面高の割合を算出する大久保らの足アーチ高測定方法を用いた。その結果より,アーチ高率が11.0%以下を扁平群,11.1%以上を健常群と設定し,片脚立位時の総軌跡長,外周面積,実効値面積,XY方向動揺平均中心変位,XY方向パワースペクトル(以下,XPW・YPW)をユニメック社の重心動揺計JK-101II(sampling rate:20Hz)を用いて計測した。同時に,日本光電工業社の筋電計 多チャネルテレメータシステムWEB-7000(sampling rate:Lo Cut 30Hz,Hi Cut 500Hz)を用いて,軸足の前脛骨筋,長腓骨筋,腓腹筋外側頭,腓腹筋内側頭の4か所を,Aldoの筋電図測定方法を参考にして測定した。また,筋活動は最大筋力発揮時の筋活動量に対する相対値を用いた。課題設定は両上肢を胸の前で組んだ軸足での片脚立位とし,開眼・閉眼で行った。開眼での計測時は3m前方につけた印を注視させた。それぞれ片脚立位を20秒間できるだけ安定した姿勢を保持するよう指示し,各3回施行した上で平均値を算出した。
扁平群-健常群間の総軌跡長,外周面積,実効値面積,XY方向動揺平均中心変位,XPW・YPWの比較においては対応のないt検定を行った。アーチ高率-開眼・閉眼総軌跡長の関係性はSpearmanの順位相関係数を用いて処理を行った。なお,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則り実施した。全対象者に事前に本研究内容を書面および口頭で十分な説明を行い,署名にて同意を得た。
【結果】
対象は,下肢の手術歴がなく,1年以内に病院を受診するほどの外傷のない若年健常者男女8名ずつ計16名,平均年齢21.6±0.89歳とした。
総軌跡長は,開眼時で扁平群495.7±85.7 mm,健常群415.8±44.7 mm,閉眼時で扁平群875.8±131.5 mm,健常群721.4±68.8 mmであり,開眼・閉眼ともに扁平群で有意な増加を認めた(p<0.05)。実効値面積では,開眼時のみ扁平群275.6±88.8 mm2,健常群409.4±145.9 mm2であり,扁平群で有意な減少を認めた(p<0.05)。開眼・閉眼ともに,アーチ高率-総軌跡長間に負の相関を認めた(開眼r=-0.57,閉眼r=-0.78)。XPWにおける高周波数帯域面積比では,健常群に対して扁平群で有意な高値を,YPWにおける低周波数帯域面積比では,健常群に対して扁平群で有意な低値を示した(p<0.05)。筋電計の結果については有意差が認められなかった。
【考察】
今回,我々が着目した内側縦アーチは,足部内在筋や下腿深層筋による能動的構造と骨や靭帯による受動的構造の2つの安定化構造からなると言われている。しかし,表層の4筋について筋電計にて計測を行ったが,いずれも有意差が認められなかった。したがって,片脚立位における内側縦アーチの安定性には,受動的構造に加え,足部内在筋や下腿深層筋による能動的構造が関与しているのではないかと考える。また,総軌跡長においては仮説通りの増加が認められたが,実効値面積においては仮説と異なり扁平群で有意に減少した。その原因を追究するためXPW・YPWの解析を行った。
これらの結果から,扁平群は健常群に比べて構造的に脆弱であるため,大きな重心動揺が生じる前に早期に修正しようとし,特にX軸方向において速く細かいCOP制御が顕著となったと考える。さらに,Y軸方向においては高周波数帯域面積比で有意差は得られなかったが,p=0.07であったためX軸方向と同様の傾向となったと考える。
【理学療法学研究としての意義】
今回の結果より,アーチの低い扁平足では健常者と比べて異なったCOP制御を行っていることが示唆された。また,バランス能力としては,一般的に総軌跡長と実効値面積に相関があるとされるが,今回のように異なった結果が出たことは興味深い点である。