[1301] 足趾筋力が歩行に与える影響
キーワード:足趾筋力, 歩行, 足部荷重率
【はじめに,目的】
足趾筋力が立位,歩行において,重要な役割を果たしていることが知られている。一方で,個人により静止立位時の足部における荷重の状態は多様である。しかし,足部にかかる荷重の割合(以下,荷重率)と足趾筋力の関係について検討を行った報告はみられない。そこで,荷重率と足趾筋力との関係性,さらには足趾筋力と歩行時における足圧中心(以下,COP)との関係性についての検討を行ったので報告する。
【方法】
下肢整形外科的手術の既往がない健常成人36名72脚を対象とした(年齢:21.1±1.0歳,足長23.7±1.2cm)。足趾筋力としては,足趾把持力および足趾圧迫力の測定を行った。足趾把持力の測定には足趾筋力測定器(竹井機器工業,T.K.K.3364)を,足趾圧迫力の筋力測定には徒手筋力計(酒井医療,MT-100)を用いた。これらの測定肢位は,足関節背屈10°の端座位とした。足趾筋力の測定は2回ずつ行い,その平均値を体重にて正規化して個人データとした。
歩行時におけるCOP移動距離の測定には,歩行解析用フォースプレート(FDM system,zebris medical GmbH)を用いた(サンプリング周波数100Hz)。4回の測定を行い,計6歩分のデータから立脚期におけるCOP移動距離(以下,GLL),単脚支持期におけるCOP移動距離(以下,SSL)を算出した。また,GLLからSSLを引いた値を両脚支持期のCOP移動距離(以下,DSL)として定義した。これらの平均値を足長にて正規化し,個人のデータとした。これら3項目を歩行パラメータとした。
また,荷重率の測定にも歩行解析用フォースプレートを使用し,静止立位にて30秒間の測定を行った。ここで得られたデータから,片脚にかかる荷重率が前足部において50%より多い者を前足部荷重群,それ以外の者を後足部荷重群とした。なお,前・後足部の境界は,第5中足骨底を基準とした。
前・後足部荷重群の比較を対応のないt検定により行った。さらには,足趾筋力と歩行パラメータとの関係をPearsonの相関係数にて求めた(有意水準:5%未満)。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,対象者に研究の目的および内容を十分に説明し,同意を得た上で測定を行った。
【結果】
足趾把持力は,後足部荷重群(n=46脚)に比べ前足部荷重群(n=26脚)は有意に高値を示していた。足趾筋力とGLLの関係において相関は認められなかった。しかし,足趾把持力は,SSLと有意な正の相関が認められた(前足部:r=0.443,後足部:r=0.413)。また足趾把持力は,前足部荷重群においてDSLとの間に有意な負の相関(r=-0.585)が認められたが,後足部荷重群において相関は認められなかった。一方の足趾圧迫力は,全ての歩行パラメータと相関は認められなかった。
【考察】
足趾把持力の主動作筋は,長母趾屈筋・長趾屈筋であると報告されている。これらの筋が内的モーメントを産生し,静止立位を維持している。特に,前足部荷重群では日常的に足趾把持力が働いている状態にあることから,後足部荷重群に比べ足趾筋力が高値を示したものと考えられる。
また,歩行時におけるCOP移動距離をみると,前・後足部荷重群ともに足趾把持力が増大するにつれてSSLが延長していた。さらに前足部荷重群においては,足趾把持力が増大するにつれてDSLが短縮していた。SSLの延長には,フォアフットロッカーが大きく関与していることが考えられる。Perryら(2012)は,フォアフットロッカー時において前足部を越えて転がる際に,中足指節間関節の可動性が制限されることが不可欠であると述べている。さらには,長母趾屈筋・長趾屈筋は立脚終期において,活動がピークを迎えるとも報告している。このことから,足趾把持力の増大により支点となる中足骨頭の固定性が向上し,中足骨頭よりも前方にCOPを移動させることが可能になることが示唆される。
また,前遊脚期は「遊脚下肢の前進」を行うために下肢の前進を加速させ,振り出し動作の開始に機能的な役割をもつと報告されている。このことから,足趾把持力が増大することにより前遊脚期にて蹴り出しが行え,下肢を振り出す動作が早期に開始されたことが伺える。したがって,SSL延長にともなったDSL短縮が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果では,足趾把持力が後足部荷重群にて低値を示したため,足趾把持力トレーニングの必要性が伺える。このトレーニングにより足趾把持力が増大することで,単脚支持期中の安定性を向上させることが示唆される。
足趾筋力が立位,歩行において,重要な役割を果たしていることが知られている。一方で,個人により静止立位時の足部における荷重の状態は多様である。しかし,足部にかかる荷重の割合(以下,荷重率)と足趾筋力の関係について検討を行った報告はみられない。そこで,荷重率と足趾筋力との関係性,さらには足趾筋力と歩行時における足圧中心(以下,COP)との関係性についての検討を行ったので報告する。
【方法】
下肢整形外科的手術の既往がない健常成人36名72脚を対象とした(年齢:21.1±1.0歳,足長23.7±1.2cm)。足趾筋力としては,足趾把持力および足趾圧迫力の測定を行った。足趾把持力の測定には足趾筋力測定器(竹井機器工業,T.K.K.3364)を,足趾圧迫力の筋力測定には徒手筋力計(酒井医療,MT-100)を用いた。これらの測定肢位は,足関節背屈10°の端座位とした。足趾筋力の測定は2回ずつ行い,その平均値を体重にて正規化して個人データとした。
歩行時におけるCOP移動距離の測定には,歩行解析用フォースプレート(FDM system,zebris medical GmbH)を用いた(サンプリング周波数100Hz)。4回の測定を行い,計6歩分のデータから立脚期におけるCOP移動距離(以下,GLL),単脚支持期におけるCOP移動距離(以下,SSL)を算出した。また,GLLからSSLを引いた値を両脚支持期のCOP移動距離(以下,DSL)として定義した。これらの平均値を足長にて正規化し,個人のデータとした。これら3項目を歩行パラメータとした。
また,荷重率の測定にも歩行解析用フォースプレートを使用し,静止立位にて30秒間の測定を行った。ここで得られたデータから,片脚にかかる荷重率が前足部において50%より多い者を前足部荷重群,それ以外の者を後足部荷重群とした。なお,前・後足部の境界は,第5中足骨底を基準とした。
前・後足部荷重群の比較を対応のないt検定により行った。さらには,足趾筋力と歩行パラメータとの関係をPearsonの相関係数にて求めた(有意水準:5%未満)。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,対象者に研究の目的および内容を十分に説明し,同意を得た上で測定を行った。
【結果】
足趾把持力は,後足部荷重群(n=46脚)に比べ前足部荷重群(n=26脚)は有意に高値を示していた。足趾筋力とGLLの関係において相関は認められなかった。しかし,足趾把持力は,SSLと有意な正の相関が認められた(前足部:r=0.443,後足部:r=0.413)。また足趾把持力は,前足部荷重群においてDSLとの間に有意な負の相関(r=-0.585)が認められたが,後足部荷重群において相関は認められなかった。一方の足趾圧迫力は,全ての歩行パラメータと相関は認められなかった。
【考察】
足趾把持力の主動作筋は,長母趾屈筋・長趾屈筋であると報告されている。これらの筋が内的モーメントを産生し,静止立位を維持している。特に,前足部荷重群では日常的に足趾把持力が働いている状態にあることから,後足部荷重群に比べ足趾筋力が高値を示したものと考えられる。
また,歩行時におけるCOP移動距離をみると,前・後足部荷重群ともに足趾把持力が増大するにつれてSSLが延長していた。さらに前足部荷重群においては,足趾把持力が増大するにつれてDSLが短縮していた。SSLの延長には,フォアフットロッカーが大きく関与していることが考えられる。Perryら(2012)は,フォアフットロッカー時において前足部を越えて転がる際に,中足指節間関節の可動性が制限されることが不可欠であると述べている。さらには,長母趾屈筋・長趾屈筋は立脚終期において,活動がピークを迎えるとも報告している。このことから,足趾把持力の増大により支点となる中足骨頭の固定性が向上し,中足骨頭よりも前方にCOPを移動させることが可能になることが示唆される。
また,前遊脚期は「遊脚下肢の前進」を行うために下肢の前進を加速させ,振り出し動作の開始に機能的な役割をもつと報告されている。このことから,足趾把持力が増大することにより前遊脚期にて蹴り出しが行え,下肢を振り出す動作が早期に開始されたことが伺える。したがって,SSL延長にともなったDSL短縮が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果では,足趾把持力が後足部荷重群にて低値を示したため,足趾把持力トレーニングの必要性が伺える。このトレーニングにより足趾把持力が増大することで,単脚支持期中の安定性を向上させることが示唆される。