[1308] 重症心身障害児(者)における骨指標間距離を用いたCobb角の推定
キーワード:重症心身障害, 身体計測, 脊柱側弯
【はじめに,目的】重症心身障害児(者)においては脊柱側弯を呈することが多く,その程度を評価する方法としてCobb角の計測が一般的に行われている。しかし,Cobb角を計測するためにはレントゲン撮影を行う必要があるため,在宅での理学療法時などレントゲン撮影が不可能な環境下では実施できないという限界が存在する。またレントゲン撮影には被曝を伴うことなどから頻回な計測を行うことは配慮を要するものであり,進行予防を目的とした理学療法介入の短期的な効果判定を行うための評価方法にはなりにくい。そこで本研究では脊柱側弯に伴う骨指標間距離の変化に着目し,体表上から計測した骨指標間距離の左右比とCobb角との関係について検討を行い,骨指標間距離からCobb角を推定することが可能か明らかにすることを目的とした。
【方法】対象者の取り込み基準は,脳性麻痺の診断を有するものおよび生後1年以内に生じた脳の器質的病変に基づく中枢神経障害を呈し痙性麻痺を有すること,および粗大運動能力が臥位レベルまたは座位レベルであることの両者を満たすこととした。除外基準はS字の脊柱側弯を呈することとした。以上の条件を満たす施設入所の重症心身障害児(者)55名(男性34名,女性21名,年齢36.6±16.9歳,身長144.9±12.8cm,体重31.5±7.7kg)を対象とした。Cobb角については,医学検査目的で撮影されたレントゲン画像を二次的に使用して計測を行った。なお,使用したレントゲン画像は背臥位で撮影されたもので統一した。骨指標間距離については,マルチン式触角計を用いて胸骨剣状突起部から両側の上前腸骨棘までの距離を計測した。計測時の被検者の姿勢は膝関節70度屈曲(できない場合は可能な限り屈曲)位で足底を床面に接地した背臥位とし,被検者の頭頂部,両側の坐骨結節の中間部,両踵骨の内側面接触部が一直線上に位置するように統一した。右側の計測値を左側の計測値で除した値を骨指標間距離左右比として算出した。統計処理にはCobb角を従属変数,骨指標間距離左右比を独立変数とした回帰分析を行い有意なモデルが得られるか検討を行った。なお,Cobb角については左凸のものを負の値,右凸のものを正の値とした。統計処理にはIBM SPSS Statistics 19を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究の内容については研究実施施設の倫理委員会による承認を得ており,対象者の家族に対して口頭または書面による説明を行い,書面による同意を得た。
【結果】Cobb角の平均値は46.5±38.7度(以下,最小―最大;0度―140度)であった。骨指標間距離について左側の平均値は23.0±4.6cm(9.2cm―30.5cm),右側の平均値は24.1±4.5cm(11.6cm―33.8cm)であった。骨指標間距離左右比の平均値は0.98±0.24(0.42―1.89)であった。Cobb角を従属変数,骨指標間距離左右比を独立変数として回帰分析を行った結果,有意なモデルが得られた(y=-213.093+209.398x,p<0.0005,R2=0.701)。
【考察】結果より,Cobb角と骨指標間距離左右比との間に有意なモデルが得られ,またモデルの予測精度については決定係数R2が0.701であることから良好であると考えられた。以上のことから骨指標間距離左右比からCobb角を推定することが可能であることが示唆された。本研究では空間における任意の2点間の直線距離が計測できるマルチン式触角計を使用した。このことはメジャーを用いて骨指標間距離を計測する上で障壁となる体表面の凹凸の影響を取り除くことに大きく寄与し,有意なモデルが得られた要因のひとつと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】レントゲン撮影を行わなければ計測できなかったCobb角について,胸骨剣状突起部から両側の上前腸骨棘までの距離の計測により推定可能であることが示唆された。このことから脊柱側弯の程度について,レントゲン撮影を行うことができない環境下でも理学療法士による簡易かつ非侵襲的な評価が可能であり,脊柱側弯の変化を捉えうる方法を提案できたことが本研究の臨床的意義として考えられた。また,マルチン式触角計が手に入らない場合であっても体表面が干渉しないノギスなどでも代用可能と考えられ,汎用性は高いと考えられた。
【方法】対象者の取り込み基準は,脳性麻痺の診断を有するものおよび生後1年以内に生じた脳の器質的病変に基づく中枢神経障害を呈し痙性麻痺を有すること,および粗大運動能力が臥位レベルまたは座位レベルであることの両者を満たすこととした。除外基準はS字の脊柱側弯を呈することとした。以上の条件を満たす施設入所の重症心身障害児(者)55名(男性34名,女性21名,年齢36.6±16.9歳,身長144.9±12.8cm,体重31.5±7.7kg)を対象とした。Cobb角については,医学検査目的で撮影されたレントゲン画像を二次的に使用して計測を行った。なお,使用したレントゲン画像は背臥位で撮影されたもので統一した。骨指標間距離については,マルチン式触角計を用いて胸骨剣状突起部から両側の上前腸骨棘までの距離を計測した。計測時の被検者の姿勢は膝関節70度屈曲(できない場合は可能な限り屈曲)位で足底を床面に接地した背臥位とし,被検者の頭頂部,両側の坐骨結節の中間部,両踵骨の内側面接触部が一直線上に位置するように統一した。右側の計測値を左側の計測値で除した値を骨指標間距離左右比として算出した。統計処理にはCobb角を従属変数,骨指標間距離左右比を独立変数とした回帰分析を行い有意なモデルが得られるか検討を行った。なお,Cobb角については左凸のものを負の値,右凸のものを正の値とした。統計処理にはIBM SPSS Statistics 19を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究の内容については研究実施施設の倫理委員会による承認を得ており,対象者の家族に対して口頭または書面による説明を行い,書面による同意を得た。
【結果】Cobb角の平均値は46.5±38.7度(以下,最小―最大;0度―140度)であった。骨指標間距離について左側の平均値は23.0±4.6cm(9.2cm―30.5cm),右側の平均値は24.1±4.5cm(11.6cm―33.8cm)であった。骨指標間距離左右比の平均値は0.98±0.24(0.42―1.89)であった。Cobb角を従属変数,骨指標間距離左右比を独立変数として回帰分析を行った結果,有意なモデルが得られた(y=-213.093+209.398x,p<0.0005,R2=0.701)。
【考察】結果より,Cobb角と骨指標間距離左右比との間に有意なモデルが得られ,またモデルの予測精度については決定係数R2が0.701であることから良好であると考えられた。以上のことから骨指標間距離左右比からCobb角を推定することが可能であることが示唆された。本研究では空間における任意の2点間の直線距離が計測できるマルチン式触角計を使用した。このことはメジャーを用いて骨指標間距離を計測する上で障壁となる体表面の凹凸の影響を取り除くことに大きく寄与し,有意なモデルが得られた要因のひとつと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】レントゲン撮影を行わなければ計測できなかったCobb角について,胸骨剣状突起部から両側の上前腸骨棘までの距離の計測により推定可能であることが示唆された。このことから脊柱側弯の程度について,レントゲン撮影を行うことができない環境下でも理学療法士による簡易かつ非侵襲的な評価が可能であり,脊柱側弯の変化を捉えうる方法を提案できたことが本研究の臨床的意義として考えられた。また,マルチン式触角計が手に入らない場合であっても体表面が干渉しないノギスなどでも代用可能と考えられ,汎用性は高いと考えられた。