第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

発達障害理学療法5

2014年5月31日(土) 16:40 〜 17:30 ポスター会場 (神経)

座長:池崎麻美(広島市西部こども療育センター)

神経 ポスター

[1309] GMFCSとGMFM66を用いての粗大運動機能レベルの層別化と検証

塩屋雄一, 岩下大志 (社会福祉法人向陽会やまびこ医療福祉センター)

キーワード:粗大運動機能, 層別化, 予後予測

【目的】
近年,脳性麻痺児・者の機能的状態像を表す尺度としてGMFCSを用いられるようになってきた。
当施設の利用者においてもGMFCSにて層別化を行った。またHannaらによるGMFCSレベルごとのGMFM66スコアを記載した論文を参考に利用者にも実施・評価を行った。その際,GMFCSレベルIIIと判別された13名には,移動が歩行群と車椅子群の2群が見られ,またGMFM66においては,さらに2群内で,レベルIIIとIVへと層別される利用者が数名みられた。これらについて検証・考察を行い,現状の把握や予後予測の糧を得るために,ここにまとめたので報告する。
【方法】
まず①GMFCSの12~18歳に該当する利用者で,各レベルの説明文を箇条書きにし,それぞれチェックする形式をとった。その際,レベルIIIのチェックが多く該当し,判別された方(13名)を選出する。次に②13名に対しGMFM66を施行し,レベルIIIとIVへ層別する。さらに③レベルIIIとIVの中でも移動が歩行群と車椅子群へと類別した中で,歩行群のレベルIII:4名(33.25歳)を歩行A群,レベルIV:3名,42.3歳を歩行B群とし,車椅子群のレベルIII:3名(31歳)を車椅子C群,レベルIV:3名(30.1歳)を車椅子D群とする。そして④GMFMの5領域間や領域内の項目について1元配置分散分析を用いて検証した。なお危険率は5%とした。
【説明と同意】
評価や報告内容についての説明を家族に行い同意を得ることができた。また当施設における倫理委員会においても承諾を得られた。
【結果】
GMFCSにおいては,日常生活場面にて移乗・移動時に軽介助にて立位保持や歩行を行っている方,また車椅子で自立に近い能力を持っている方はレベルIIIの説明文のチェックが多く該当し,歩行A群と車椅子C群と判別された。GMFM66における立位と歩行の領域において歩行A・B群と車椅子C・D群に有意差が見られた(P<0.01)。また立位と歩行の領域内にある項目ごとにて統計処理を行った結果,歩行A・B群にてしゃがみ動作や階段昇降,横歩き,ボールを蹴る項目に有意差が見られた(P<0.01)。車椅子C・D群では,支持ありでの立位保持や片足拳上,横歩き,介助歩行の項目に有意差が見られた(P<0.01)。
【考察】
GMFCSやGMFM66の獲得された項目を照らすと,歩行群は,体幹の支持性の下,四肢の分離運動が求められる階段や横歩きといった動作にて有意差が見られた。実際の日常生活場面においても,歩行B群は,歩行の持久性が低下しており,介助や休息が必要な場合が多く見られる。立ち上がりや座る動作においても可能ではあるが,遠心性の筋収縮が乏しく,急にしゃがみ込んだり,崩れ落ちるようなリスクを伴っている。車椅子群においては,支持面や身体的介助があることで,立位保持や歩行が少しでも可能な方に関しては,レベルIIIの運動能力が見られた。車椅子D群は,車椅子などへの移乗時に,自力でよじ登ることで可能としている。しかし,支持面ありでの3秒間立位保持する事が困難であり,下肢の随意性や支持性も大きく関係していると推測される。歩行A・B群,車椅子C・D群のいずれにおいても,GMFM66の立位や歩行の領域に有意差が見られた。その理由として挙げられるのは幼少期から成長期における立位,歩行領域の不十分な運動学習やHannaらによる粗大運動曲線で見られるような運動機能の低下をきたしてきているのではないかと考えられる。よってこれらの領域がレベルIIIの運動機能を左右する要因ではないかと推測された。しかし症例の過去の粗大運動能力や現在に至るまでの変化についてはデータもないため後方視的観点から立証することは難しい。よって今後,縦断的な評価と他の年齢群においても合わせて行うことで予後予測の糧となり得るのではないかと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
GMFCSは,粗大運動機能を層別化するだけでなく,予後予測のための指標ともなり得る。今回はGMFCSとGMFM66を用いて歩行群と車椅子群のレベルIII・IVの検証を行った。HannaらによるとGMFCSレベルIII~Vは6~8歳くらいまでが運動機能能力のピークとされ,その後は低下していく傾向にあると報告されている。またレベルIIIとIVのGMFM66スコアの差も約20%あると明記されている。これらを踏まえ,レベルIIIとIVの相関性や今回の検証から推測された立位や歩行の領域が機能低下をきたす要因であるか,また日常生活場面とどのような関連があるのかなどを検証していく必要性があると思われる。よって今回の評価・検証を糧に早期から年齢別ごとに縦断的・横断的に評価を実施・調査し,利用者の運動機能の向上や予後予測,そしてGMFCSが重視しているICF概念を視点に置きながら,日常生活や地域社会への参加を実現するために努力していきたいと考える。