第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

発達障害理学療法5

Sat. May 31, 2014 4:40 PM - 5:30 PM ポスター会場 (神経)

座長:池崎麻美(広島市西部こども療育センター)

神経 ポスター

[1311] ASD児の姿勢保持・制御能力について

柳元俊輔, 宮原慎吾, 岩下大志 (社会福祉法人向陽会やまびこ医療福祉センター)

Keywords:ASD(自閉症スペクトラム), バランス能力, BBT

【はじめに,目的】
当センターは,臨床心理士を中心としたSocial Skill Training(以下SST)を自閉症スペクトラム児(以下,ASD児)を対象に行っている。ASDは社会性の問題を主とする障害群であるがその中で姿勢保持が困難,運動が苦手などの姿勢・運動面に対する訴えが多く,その訴えに対応する形でSSTに理学療法士が介入する契機となった。臨床の現場では,ASD児に「不器用さ」や「ぎこちなさ」を併せ持つ事はよく知られている。これらは,協調運動の稚拙さの一般的な表現であり,バランスや姿勢制御,ボール遊びや縄跳びが苦手といった学校生活を含めた様々な生活場面に影響を与える。運動が苦手である事は,本人の自尊心低下や集団からの孤立など,二次的な心理社会的問題の生起に繋がることもあるとされる。「ASD児は,ボディーイメージが未熟,バランスが悪い」と説明される事が多い。これらの事からもASD児については,協調運動の基礎として必要不可欠である姿勢保持や姿勢制御が困難な事が予測される。しかし,ASD児のバランス能力を捉える際に重要とされる支持基底面と身体重心線,重心移動について言及した研究は少ない。そこで今回は,前述した重要点に視点を置いた評価であるBasic Balance Test(以下BBT)を参考にし,ASD児のバランス能力評価として用い,その過程で得られた所見,評価する上で留意すべき点や課題について考察を加え以下に報告する。
【方法】
対象は,平成25年度4月より現在まで当院SSTに参加している男児4名(平均年齢10歳)。診断名はASDで知的発達に大きな遅れは認められない。BBTを対象者4名に対し2回ずつ同検査者が実施した。検査はSST参加時(月に一度),平成25年9~11月に実施。検査前に検者がデモンストレーションを行い,対象者が模倣出来た後に行った。BBTは全25項目から構成され,領域別として姿勢保持,立ち上がり・着座,端座位での重心移動,開脚立位での重心移動,閉脚位からのステップ動作の5領域で構成される。各項目は0~2の点数配分であり0:不可,1:不安定,2:安定で判定を実施。なお,姿勢保持項目における継足位,片脚立ち位時には,評価の細分化を図る為に上肢の代償を除き,両上肢を胸の前に位置させる事を条件として加えた。その結果に対し,全体総計,領域別総計,各項目に統計学的分析として1元配置の分散分析と多重比較検定を行い危険率は5%とした。なお項目別において2回の最高点数(4点)に対し,各対象者の項目別合計点の比較を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
測定実施に際し,本研究の趣旨を保護者に対し口頭および文章にて説明を行い同意を得た。なお,所属施設における倫理委員会の許可を得た。
【結果】
姿勢保持領域総計,閉眼・片脚立位項目で1元配置の分散分析で有意差を認め,多重比較検定では有意差を認めなかった。その他領域別総計,全体総計,項目別では有意差を認めなかった。項目別では4名に共通して最高点数に対し,各対象者の項目別合計点と比較した結果から閉眼・片脚立位保持,踵立位保持が困難な傾向が見られた。
【考察】
姿勢保持領域総計においては1元配置の分散分析でのみ有意差を認め,最高点数に対し,各対象者の項目別合計点と比較した結果から閉眼・片脚立位保持,踵立位保持が困難な傾向が見られた。松田らは,軽度発達障害児と健常児の立位平衡機能の比較について重心動揺計を用い,静止立位時(開脚)の開眼・閉眼について軽度発達障害児群では重心動揺が大きく,立位姿勢保持が不安定であったとの報告もある。Bernhardtらのバランスに影響する要因を参考にすると,力学的要因として開脚に比べ片脚立位では支持基底面が狭小する事,感覚・認知・注意の要因としては開眼に比べ閉眼でより難易度は高いと判断される。なお,平衡能力の発達は5歳から7歳にかけて体性感覚での制御が優位に働くという報告からも,対象者は体性感覚でなく視覚情報に偏った姿勢保持を行っている可能性が示唆された。有意差こそ認められなかったが,4名全員に共通して踵立位保持が困難な傾向があった。踵立位が困難である事については,対象者に対しX線等の精査を行っていないが見かけ上の扁平足を有しており,その足関節機能(alignment,hypermobility)が姿勢制御に影響を与え不安定さを招く一要因である事が推察された。
【理学療法学研究としての意義】
小児領域の障害を運動機能と認知機能に明確に分けて考える事は容易ではない。その両者の関連性を分析し,障害がどのように形成されるかを把握する事が重要である。我々理学療法士の役割としては運動の基礎となる姿勢保持・制御能力と身体構造・機能面,感覚・認知面との関連性を導き出す事が重要である。