第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

身体運動学6

Sat. May 31, 2014 5:35 PM - 6:25 PM 第3会場 (3F 301)

座長:中俣修(文京学院大学保健医療技術学部理学療法学科)

基礎 口述

[1313] 筋骨格モデルを用いた前向き降段と後ろ向き降段における膝関節間力の算出

高林知也1, 稲井卓真1, 徳永由太2, 久保雅義3 (1.新潟医療福祉大学大学院医療福祉学研究科, 2.医療法人愛広会新潟リハビリテーション病院, 3.新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所)

Keywords:後ろ向き降段, 筋張力, 関節間力

【はじめに,目的】
変形性膝関節症(KOA)は階段降段動作が障害されやすく,関節負荷を軽減する目的で前向きでの2足1段降段動作が指導されている。これに対し,安全かつより少ない関節負荷で降段する方法として後ろ向き降段が注目されている。しかし,2つの階段降段方法の違いが関節負荷へ与える影響は明らかになっていない。階段降段時の関節モーメントを解析した報告は多いが,関節モーメントは正味の筋活動を示す指標であり,関節面に生じる負荷と必ずしも一致していない。関節面の負荷を推察するためのもう1つの指標として,関節面への圧迫力を示す関節間力がある。関節間力は外力や筋張力を基に決定され,筋張力は数学的手法を用いて非侵襲的に推定することが可能である。
本研究では,既に妥当性が確認されている筋電図情報を取り入れた最適化手法(EAO)を用いて,2つの階段降段方法における筋張力及び膝関節間力を算出し,階段降段指導の一助とすることを目的とした。
【方法】
対象者は健常成人男性6名とした。課題動作は前向きと後ろ向きにおける2足1段降段動作とし,バリアフリー法の基準に準じた5段階段(1段あたりの高さ160mm,奥行300mm)を使用した。動作解析にはCCDカメラ11台を含む3次元動作解析装置(VICON MX:Oxford Metrics Inc),床反力計(OR6-6-6 2000:AMTI)6台,反射マーカー39個を使用した。CCDカメラは100Hz,床反力計は1000Hzのサンプリング周波数にて計測した。表面筋電図(EMG)は大腿直筋,内側広筋,半腱様筋,大腿二頭筋長頭,前脛骨筋,腓腹筋,ヒラメ筋の7筋より導出し,サンプリング周波数1000Hzにて運動学データと同期し計測した。計測されたマーカー座標及び床反力より,データ処理ソフトBody Builder(OMG plc.UK)にて運動学・運動力学データを算出した。数値計算ソフトScilab(Inria.RF)にて運動学・運動力学データに雑音除去を施した。EMGには雑音除去,全波整流及び平滑化を施し,最大随意性等尺性収縮にて正規化した。運動学・運動力学データ及びEMGを基に,EAOにて生理学的な特性を考慮した筋張力の推定を行い,下肢9筋による矢状面筋骨格モデルにて膝関節間力を算出した。なお,膝関節間力は膝関節に関与する筋群の筋張力を基に算出された。解析区画は先行脚における爪先接地から同側爪先接地までの1歩行周期とし,時間の100%正規化を行った。統計処理は,関節モーメントの最大値,推定筋張力の最大値及び膝関節間力の最大値にウィルコクソン符号順位和検定,推定筋張力とEMGにピアソンの相関係数の検定を用いた。なお,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は倫理審査委員会の承認を得た上で,対象者に本研究の内容を書面及び口頭にて説明し,同意を得て行った。
【結果】
前向き降段と後ろ向き降段の膝関節伸展モーメント,膝関節伸展筋張力及び膝関節間力は立脚初期に最大値を示した。膝関節伸展モーメントの最大値において,後ろ向き降段(12.5±7.0N/kg)が前向き降段(24.3±9.4N/kg)に対して有意に低値を示した(p<0.05)。大腿直筋及び広筋群の筋張力の最大値において,後ろ向き降段(各々4.0±1.2N/kg,5.7±1.4N/kg)が前向き降段(各々9.6±3.0N/kg,8.6±1.8N/kg)に対して有意に低値を示した(p<0.05)。膝関節間力の最大値において,前向き降段(41.3±9.6N/kg)と後ろ向き降段(44.6±11.4N/kg)は有意な差が見られなかった。前向き降段と後ろ向き降段の推定筋張力はEMGと正の相関関係が見られ,有意な相関関係を示した(p<0.05)。
【考察】
2つの階段降段方法において膝関節伸展モーメントは有意な差を示したが,関節モーメントは主動筋と拮抗筋によりもたらされる回転の作用であり,正味の筋活動を示す指標である。これに対し,関節間力は関節面に生じている負荷を反映している。KOAは,繰り返される関節への過負荷により痛みが惹起され,動作遂行が困難となる。したがって,動作時の膝関節間力は,KOAに対する運動処方を考える上で有益な基礎情報となることが考えられる。
本研究より,前向き降段と後ろ向き降段は関節負荷としては同様の階段降段方法であった。しかし,膝関節間力に寄与する筋張力が異なっていたことから,階段降段の遂行を考慮した場合,後ろ向き降段は大腿四頭筋が筋力低下している疾患に有用であることが考えられた。また,推定筋張力の妥当性を評価する指標はEMGとの一致度から判断することが適当であり,本研究で推定された筋張力は妥当性を支持していると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
KOAは従来から大腿四頭筋の筋力低下が起こると報告されている。したがって,階段降段が困難なKOAに対し,後ろ向き降段は降段動作を可能とする方法であることが示唆された。