[1314] 筋-骨格モデリングソフトを用いた頸髄症患者の歩行時における膝関節周囲の動的筋機能解析
キーワード:頸髄症, 歩行, 動的筋機能
【はじめに,目的】先行研究において,我々は頸髄症重症例を3次元動作解析にて歩行時における膝関節周囲機能を検討した結果,立脚期における二重膝作用の消失,膝関節の過伸展の出現,そして膝伸展モーメントの2峰性の消失を示したと報告した。また,立脚初期にあたる制動時と遊脚移行期に相当する駆動時における膝関節のモーメントとパワーの関係性を検討した結果,各期ともに重症例は健常者とは異なる収縮形態を示したと報告した。このように,二重膝作用の消失や膝過伸展の出現などの要因として,膝関節周囲モーメントの方向性の変化といった質的変化が関与すると考えられる。しかしながら,歩行時における膝関節周囲の各筋の筋腱長や筋腱速度などの動的筋機能まで検討した報告はない。今回,頸髄症患者の歩行時に生じる膝関節周囲機能の質的変化を,筋-骨格モデリングソフトを用いて頸髄症患者の歩行時における膝関節周囲筋の動的筋機能を検討し具体化する。
【方法】下肢に手術の既往,外傷,重度な変性疾患または脳血管障害などを認めない頸髄症患者42例(男性27例,女性15例,69.7±7.6歳)(CM群)を対象とした。疾患の内訳は頸椎症性脊髄症29例,頸椎後縦靱帯骨化症10例,頸椎椎間板ヘルニア3例であった。Maezawaらの判定基準(Japan Orthopaedic Association scoreにおける上肢機能を除いた11点満点)を使用し,下肢の重症度を分類した結果,10点以上の軽症群は12例(男性7例,女性5例,66.3±8.0歳),7-9点の中等度群は17例(男性11例,女性6例,68.0±9.6歳),そして6点以下の重症群は13例(男性9例,女性4例,67.4±8.3歳)であった。対照群として同年代の健常高齢者15名(男性9名,女性6名,67.6±9.1歳)とした。歩行動作は,個人の快適な速度である自由歩行とし,4枚の生体力学用大型床反力計(AMTI社)と6台のカメラ(Motion Analysis社)を同期した3次元動作解析装置VICON system 370(ViconPeak社)を用いて測定した。解析には解析ソフトVICON Clinical Manager(VCM:Oxford metrics社)を用いて時間距離的,運動学的および運動力学的因子を含むGait cycle data(GCD)を算出した。次に,VCMから得られたGCDファイルを,筋-骨格モデリングソフトウェアSIMM/Gait(Musculo Graphics社)を用いて動作データを書き込むmotionファイルに変換し,歩行動作時の大腿直筋と大腿二頭筋長頭の経時的な筋腱長(MTL)を推定した。また,(MTL/身長)の微分である筋腱速度を算出し,統計学的に各群間で比較検討した。危険率5%未満を有意水準とした。
【説明と同意】全ての対象に対し,評価,治療および研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た。
【結果】各群の一歩行周期におけるMTL/身長は,遊脚移行期にて大腿二頭筋長頭が最小,大腿直筋が最大を示した。各群のMTL/身長の波形は,両筋ともに各期において類似した波形を示したが,CM群は重症度が増すに伴いMTL/身長の幅が有意に低下していた。各群の一歩行周期における大腿直筋の筋腱速度は,立脚初期と遊脚移行期に最高速となる正の方向における2峰性の波形を示したが,CM群は重症後が増すに伴い筋腱速度範囲が有意に狭かった。対照群,CM軽症群および中等度群の一歩行周期における大腿二頭筋長頭の筋腱速度は,立脚初期と遊脚移行期に最低速となる負の方向における2峰性の波形を示したが,重症群の立脚期では2峰性の波形が消失していた。
【考察】我々の先行研究において,頸髄症患者の歩行時における二重膝作用の消失や膝過伸展の出現などの要因として,膝関節周囲モーメントの方向性の変化といった質的変化が関与すると報告した。今回,動的筋機能面から大腿直筋における収縮もしくは伸張形態の変化の軽度な低下と,特に大腿二頭筋長頭における立脚初期と遊脚移行期の部分的な異常収縮もしくは異常伸張形態が,二重膝作用の消失や膝過伸展の発生に関与している可能性が考えられる。先行研究における関節モーメントの方向性の質的変化に加え,今回の動的筋機能の結果から立脚期における二重膝作用の消失や膝過伸展が生じる際の大腿直筋と大腿二頭筋長頭の役割が具体化された。したがって,頸髄症患者の歩行時における二重膝作用や膝過伸展の改善を図る理学療法として,特に各期における大腿二頭筋の収縮もしくは伸張形態や速度を考慮した促通や歩行トレーニングを介入することが必要である可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】頸髄症の歩行動作を動的筋機能から検討することで,歩行時に生じる二重膝作用の消失や膝過伸展の出現における膝関節周囲筋の役割をより具体化することができ,理学療法治療への発展の可能性が考えられる。
【方法】下肢に手術の既往,外傷,重度な変性疾患または脳血管障害などを認めない頸髄症患者42例(男性27例,女性15例,69.7±7.6歳)(CM群)を対象とした。疾患の内訳は頸椎症性脊髄症29例,頸椎後縦靱帯骨化症10例,頸椎椎間板ヘルニア3例であった。Maezawaらの判定基準(Japan Orthopaedic Association scoreにおける上肢機能を除いた11点満点)を使用し,下肢の重症度を分類した結果,10点以上の軽症群は12例(男性7例,女性5例,66.3±8.0歳),7-9点の中等度群は17例(男性11例,女性6例,68.0±9.6歳),そして6点以下の重症群は13例(男性9例,女性4例,67.4±8.3歳)であった。対照群として同年代の健常高齢者15名(男性9名,女性6名,67.6±9.1歳)とした。歩行動作は,個人の快適な速度である自由歩行とし,4枚の生体力学用大型床反力計(AMTI社)と6台のカメラ(Motion Analysis社)を同期した3次元動作解析装置VICON system 370(ViconPeak社)を用いて測定した。解析には解析ソフトVICON Clinical Manager(VCM:Oxford metrics社)を用いて時間距離的,運動学的および運動力学的因子を含むGait cycle data(GCD)を算出した。次に,VCMから得られたGCDファイルを,筋-骨格モデリングソフトウェアSIMM/Gait(Musculo Graphics社)を用いて動作データを書き込むmotionファイルに変換し,歩行動作時の大腿直筋と大腿二頭筋長頭の経時的な筋腱長(MTL)を推定した。また,(MTL/身長)の微分である筋腱速度を算出し,統計学的に各群間で比較検討した。危険率5%未満を有意水準とした。
【説明と同意】全ての対象に対し,評価,治療および研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た。
【結果】各群の一歩行周期におけるMTL/身長は,遊脚移行期にて大腿二頭筋長頭が最小,大腿直筋が最大を示した。各群のMTL/身長の波形は,両筋ともに各期において類似した波形を示したが,CM群は重症度が増すに伴いMTL/身長の幅が有意に低下していた。各群の一歩行周期における大腿直筋の筋腱速度は,立脚初期と遊脚移行期に最高速となる正の方向における2峰性の波形を示したが,CM群は重症後が増すに伴い筋腱速度範囲が有意に狭かった。対照群,CM軽症群および中等度群の一歩行周期における大腿二頭筋長頭の筋腱速度は,立脚初期と遊脚移行期に最低速となる負の方向における2峰性の波形を示したが,重症群の立脚期では2峰性の波形が消失していた。
【考察】我々の先行研究において,頸髄症患者の歩行時における二重膝作用の消失や膝過伸展の出現などの要因として,膝関節周囲モーメントの方向性の変化といった質的変化が関与すると報告した。今回,動的筋機能面から大腿直筋における収縮もしくは伸張形態の変化の軽度な低下と,特に大腿二頭筋長頭における立脚初期と遊脚移行期の部分的な異常収縮もしくは異常伸張形態が,二重膝作用の消失や膝過伸展の発生に関与している可能性が考えられる。先行研究における関節モーメントの方向性の質的変化に加え,今回の動的筋機能の結果から立脚期における二重膝作用の消失や膝過伸展が生じる際の大腿直筋と大腿二頭筋長頭の役割が具体化された。したがって,頸髄症患者の歩行時における二重膝作用や膝過伸展の改善を図る理学療法として,特に各期における大腿二頭筋の収縮もしくは伸張形態や速度を考慮した促通や歩行トレーニングを介入することが必要である可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】頸髄症の歩行動作を動的筋機能から検討することで,歩行時に生じる二重膝作用の消失や膝過伸展の出現における膝関節周囲筋の役割をより具体化することができ,理学療法治療への発展の可能性が考えられる。