[1315] 股関節屈曲制限の機能障害モデルを用いた運動戦略の選択基準に関する研究
キーワード:歩行再建, エネルギーコスト, 機能障害モデル
【はじめに,目的】歩行は,移動のために最も自動化された運動であり,定型性を示すことで知られ,エネルギーコスト(以下,EC)が最小となるよう運動戦略が形成されると考えられている。歩行の定型性が強固なことから,わずかな機能障害を有しても,容易に異常歩行が発現する。健常者において機能障害モデルを用いた研究としては,足関節に着目した高橋らの研究があり,運動戦略の選択基準としてEC最小が優位であることが報告されている。しかし,この研究以外に,運動戦略の選択基準とECの関係性について検討している研究は我々の知る限りにおいて見当たらない。我々は,他の機能障害を有する場合においてもEC最小が優先されると考えており,そのことを検討する必要性を感じている。そこで,本研究では股関節運動の機能障害モデルを用い,歩行における運動戦略の選択基準でのECの優位性を明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は,健常若年男性20名(身長171.7±6.8cm,体重62.3±6.3kg,年齢20.5±1.1歳,BMI21.1±1.4)とし,整形外科的疾患,神経障害,呼吸・循環器障害を有する者を除外した。歩行は,トレッドミルにて行い,呼気ガス分析装置(ミナト医科学社製,AE-2805)を用いて酸素摂取量(以下VO2)を測定した。機能障害モデルは,股関節屈曲制限0°となるよう自作ベルトを用いて調整した。歩容条件は,機能障害モデルでの運動パターン4種類(指定なし・後傾型・回旋型・揃え型)と,通常歩行の計5種類とした。速度条件は,10,20,30,40,50,60m/minとし,低速度から順に各速度3分間の歩行を行わせた。測定順序は,最初に指定なしの歩行,次に後傾型・回旋型・揃え型をランダムに実施し,最後に通常歩行を行わせた。なお,各運動パターンの歩行実施後,十分な休息時間を設けた。運動パターンの分析のため,対象者の矢状面・後上方よりカメラ二台にて歩行を撮影した。VO2の代表値は,各速度終了前30秒間の平均値とした。また,運動パターンの分類は,歩幅が足長未満のものを揃え型,足長以上かつ骨盤の後傾がみられるものを後傾型,骨盤の回旋と股関節の外転がみられるものを回旋型とした。統計解析は,従属変数をVO2,独立変数を運動パターン(5水準)・速度条件(7水準)とした二元配置分散分析を行い,事後検定にBonferroniの多重比較検定を用いた。なお,これらの統計学的有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り,全対象者へ本研究の趣旨を十分に説明し,書面にて同意を得た。また,対象者が未成年の場合には保護者からの同意も得た。なお,本研究は東北文化学園大学倫理委員会(承認番号;文大倫第13-05号)にて承認されている。
【結果】自由歩行の運動戦略は,10m/minで揃え型10名,後傾型10名であった。また,速度の上昇に伴い後傾型が増加し,60m/minで揃え型1名,後傾型19名であった。更に,全速度で回旋型はみられなかった。VO2について,分散分析の結果,運動パターンと歩行速度に主効果が認められ,交互作用が有意であった。平均値でみると,全速度で通常歩行が最小値を示した。10m/minでは,後傾型,指定なし,揃え型,回旋型の順で大きく,後傾型と回旋型・揃え型,回旋型と通常歩行間のみに有意差が認められた。また,20m/min~50m/minでは,後傾型・指定なし・回旋型・揃え型の順であり,速度の上昇に伴い,それぞれの間に有意差が認められ,差が大きくなった。さらに,60m/minは,指定なしと後傾型の順は逆転した。しかし,この二つの運動パターンの間に全速度で有意差はみられなかった。
【考察】本研究の結果において,VO2が最小であったことから後傾型が最も効率が良いことが明らかとなった。また,指定なしの運動パターンの選択では,速度の上昇に伴い後傾型が増加したことから,運動選択の選択基準におけるECの優位性が確認された。このことから,先行研究の結果と合わせて考えると,機能障害を有する場合の歩行の運動戦略では,EC最小が重要な選択基準になっていることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】理学療法において,歩行の再建は健常者の歩容を目標として運動パターンを指導することが多い。しかし,本来ならば患者の意向を考慮に入れ,残存機能を基に最適性の指標となる歩行速度,EC最小等に着目して運動パターンを検討する必要がある。本研究から,運動戦略の選択基準はEC最小が優位であることから,それを第一選択として歩行の再建にあたることが重要であると考えている。
【方法】対象は,健常若年男性20名(身長171.7±6.8cm,体重62.3±6.3kg,年齢20.5±1.1歳,BMI21.1±1.4)とし,整形外科的疾患,神経障害,呼吸・循環器障害を有する者を除外した。歩行は,トレッドミルにて行い,呼気ガス分析装置(ミナト医科学社製,AE-2805)を用いて酸素摂取量(以下VO2)を測定した。機能障害モデルは,股関節屈曲制限0°となるよう自作ベルトを用いて調整した。歩容条件は,機能障害モデルでの運動パターン4種類(指定なし・後傾型・回旋型・揃え型)と,通常歩行の計5種類とした。速度条件は,10,20,30,40,50,60m/minとし,低速度から順に各速度3分間の歩行を行わせた。測定順序は,最初に指定なしの歩行,次に後傾型・回旋型・揃え型をランダムに実施し,最後に通常歩行を行わせた。なお,各運動パターンの歩行実施後,十分な休息時間を設けた。運動パターンの分析のため,対象者の矢状面・後上方よりカメラ二台にて歩行を撮影した。VO2の代表値は,各速度終了前30秒間の平均値とした。また,運動パターンの分類は,歩幅が足長未満のものを揃え型,足長以上かつ骨盤の後傾がみられるものを後傾型,骨盤の回旋と股関節の外転がみられるものを回旋型とした。統計解析は,従属変数をVO2,独立変数を運動パターン(5水準)・速度条件(7水準)とした二元配置分散分析を行い,事後検定にBonferroniの多重比較検定を用いた。なお,これらの統計学的有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り,全対象者へ本研究の趣旨を十分に説明し,書面にて同意を得た。また,対象者が未成年の場合には保護者からの同意も得た。なお,本研究は東北文化学園大学倫理委員会(承認番号;文大倫第13-05号)にて承認されている。
【結果】自由歩行の運動戦略は,10m/minで揃え型10名,後傾型10名であった。また,速度の上昇に伴い後傾型が増加し,60m/minで揃え型1名,後傾型19名であった。更に,全速度で回旋型はみられなかった。VO2について,分散分析の結果,運動パターンと歩行速度に主効果が認められ,交互作用が有意であった。平均値でみると,全速度で通常歩行が最小値を示した。10m/minでは,後傾型,指定なし,揃え型,回旋型の順で大きく,後傾型と回旋型・揃え型,回旋型と通常歩行間のみに有意差が認められた。また,20m/min~50m/minでは,後傾型・指定なし・回旋型・揃え型の順であり,速度の上昇に伴い,それぞれの間に有意差が認められ,差が大きくなった。さらに,60m/minは,指定なしと後傾型の順は逆転した。しかし,この二つの運動パターンの間に全速度で有意差はみられなかった。
【考察】本研究の結果において,VO2が最小であったことから後傾型が最も効率が良いことが明らかとなった。また,指定なしの運動パターンの選択では,速度の上昇に伴い後傾型が増加したことから,運動選択の選択基準におけるECの優位性が確認された。このことから,先行研究の結果と合わせて考えると,機能障害を有する場合の歩行の運動戦略では,EC最小が重要な選択基準になっていることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】理学療法において,歩行の再建は健常者の歩容を目標として運動パターンを指導することが多い。しかし,本来ならば患者の意向を考慮に入れ,残存機能を基に最適性の指標となる歩行速度,EC最小等に着目して運動パターンを検討する必要がある。本研究から,運動戦略の選択基準はEC最小が優位であることから,それを第一選択として歩行の再建にあたることが重要であると考えている。