第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

身体運動学6

Sat. May 31, 2014 5:35 PM - 6:25 PM 第3会場 (3F 301)

座長:中俣修(文京学院大学保健医療技術学部理学療法学科)

基礎 口述

[1317] 外乱刺激時の立位姿勢制御反応における同時収縮の役割

小栢進也1, 永井宏達2, 沖田祐介3, 岩田晃1, 樋口由美1, 淵岡聡1 (1.大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科, 2.京都橘大学健康科学部理学療法学科, 3.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻)

Keywords:同時収縮, シミュレーション, 外乱刺激

【はじめに,目的】
動筋と拮抗筋が同時に活動する同時収縮は外乱に対応する姿勢制御戦略の一つである。拮抗筋が引き合い同時収縮を生じている状況では,関節が動くと一方の筋は伸張され拮抗する筋は短縮する。筋の長さ-張力・速度-張力の関係性より,筋は伸張されると強い張力を発揮しやすい特性を持つため,伸張された筋の張力は増加し,短縮した筋の張力は低下する。結果として関節が動かされた方向と逆向きに力を発揮して外乱に抗する機能を持つ。このようなメカニズムは知られているものの,外乱刺激後の立位姿勢制御反応は反応時間など様々な要素に影響を受けるため,同時収縮単独の影響を測定することは難しい。そこで,本研究では筋の長さ-張力,速度-張力の関係性を考慮した順動力学シミュレーションモデルを用いて外乱応答における同時収縮の役割を検討した。
【方法】
研究は外乱刺激の動作測定を始めに行い,このデータを元に被験者のモデルを作成して,外乱刺激後の姿勢制御反応をシミュレーショにより解析した。対象者は65歳女性1名として大転子および外果に反射マーカーを張り付け,安静立位の状態から床面が前方に速度15cm/秒,移動距離6cmで動いた際の垂直軸に対する大転子-外果を結んだ線の角度および前脛骨筋とヒラメ筋の筋電図を測定した。シミュレーション解析の立位モデルは足関節が底背屈する1リンクの倒立振り子モデルを想定し,倒立振り子の先端部分に身体重心が位置するとした。筋の長さ-張力,速度-張力の関係を考慮した背屈筋と底屈筋の2筋を足関節に作成した。筋モデルの起始停止,至適筋長,腱の長さは先行研究で用いられているモデルデータを用い,背屈筋は前脛骨筋,底屈筋はヒラメ筋のデータを用いた。また最大筋力に関して,背屈筋は前脛骨筋,長母指伸筋,長趾伸筋の合計値,底屈筋はヒラメ筋,腓腹筋の合計値を用いた。外乱刺激前の安静立位における足関節角度は動作測定データから求め,背屈4.35°とした。安静立位時の同時収縮に三条件を設定し,背屈筋群が活動しない0%条件,背屈筋群が20%,40%活動する条件とした。なお活動量は最大筋力で正規化した。底屈筋は安静立位を保持する活動量として,同時収縮をモデル化した。次に,床面を動作測定時と同様の条件で前方へ動かして,体が後方へ倒れる状況をシミュレーションモデルにより解析した。外乱に対する筋活動反応時間140msecまでは安静立位と同様の筋活動量,140msec以降は外乱に応じた筋活動が生じるとした。外乱に応じた筋活動は神経刺激-筋活動の遅延を考慮して角度,角速度,角加速度から一次微分方程式を用いて求めた。同時収縮の条件を変化させた際の動作変化および筋活動量変化をシミュレーションにて検討し,同時収縮が外乱刺激後の姿勢制御に与える影響を検討した。なお,安静立位の背屈角度と最大底屈角度の差を動揺角度とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者には研究の内容を説明し,同意の下で実施した。なお,本研究は本学の研究倫理委員会で承認されている。
【結果】
外乱刺激前に背屈筋動量を増加させて同時収縮を高めると,小さくゆっくりとした動揺に変化した。動揺角度は0%条件で1.79°,20%条件で1.73°,40%条件で1.62°で同時収縮を高めることで動揺は小さくなった。また,外乱刺激前の足関節角度まで戻る時間は0%条件で0.67秒,20%条件で0.70秒,40%条件で0.74秒と同時収縮が高まるにつれて時間が延長した。さらに,外乱刺激後0.25秒~0.4秒までの最大背屈筋活動量は0%条件で28.0%,20%条件で26.3%,40%条件で22.5%であり,外乱刺激前の同時収縮が強いほど,低い筋活動で外乱に対応できることがわかった。
【考察】
同時収縮を高めると外乱刺激後の筋活動量が低くても,小さくかつゆっくりとした動揺になることが明らかとなった。同時収縮は外乱刺激後の動揺量を小さくする有効な戦略の一つであると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は足関節のみを持つ1関節モデルのため,ヒトの動作を反映できていない要素は多い。しかし同時収縮と姿勢制御の関係性を明確にした初めての研究であり,同時収縮の機能的役割を明らかにする結果である。