[1319] 運動後の下腿圧迫が循環器系指標に及ぼす影響
Keywords:弾性ソックス, 下腿浴, 心臓副交感神経系活動
【はじめに,目的】医療現場において,弾性ソックスは下肢の慢性静脈不全症やリンパ浮腫の予防・治療の一環として使用されている。弾性ソックスは末梢から中枢にむけて段階的に圧迫圧を減少させることで筋ポンプ作用の増強と微小循環の改善を促すとされているが,浸水によっても段階的に静水圧が加わることが知られている。浸水すると水圧により様々な循環系調節が引き起こされることが報告されており,これらの調節反応は,運動後の回復期においてはクーリングダウンと同様な循環応答をもたらすと考えられている。しかし,運動後の弾性ソックス着用および下腿浴による効果についての報告は少なく,さらに着圧および静水圧の2者による効果を比較検討した報告は少ない。そこで,本研究の目的は,運動後の下腿圧迫が筋活動および心臓自律神経系活動に及ぼす影響を明らかにし,圧迫方法の違いによる効果について比較検討することとした。
【方法】対象は,下肢に愁訴のない健常若年男子学生10名(年齢22.1±1.1歳,身長171.3±6.9cm,体重65.9±10.0kg,体脂肪率16.2±6.0%)である。運動課題は,片脚カーフレイズ2セットとした。メトロノームのリズムに合わせて2秒間に1回の割合で運動を継続して行わせ,床から踵までの高さが最大挙上高の60%以下となった時を運動終了とした。対象者は,初めに5分間の座位安静をとり,続いて1セット目の運動を行った。その後10分間のインターバルを設け,2セット目の運動を行った。続いて30分間の回復を設けた。このインターバル時および回復時に,弾性ソックスを着用させる(CG)条件,下腿を33~34℃の水に着水させる(W)条件,下腿圧迫を実施しない(CON)条件の3条件を設定し,ランダムに実施した。測定項目は,下腿周径,大腿周径,自覚的疲労度,運動継続時間,運動側の腓腹筋内側頭およびヒラメ筋の筋電図波形による積分値(RMS),周波数(MPF),心拍数,心臓副交感神経系活動(HF)とした。下腿周径,大腿周径は安静時の値を100とし%下腿周径および%大腿周径を求めた。運動継続時間,RMSおよびMPFは1セット目の値を100としたときの2セット目の値をそれぞれ%運動継続時間,%RMS,%MPF,とした。心臓副交感神経系活動は自然対数(lnHF)を求めた。
【倫理的配慮,説明と同意】なお,対象者には口頭および書面にて研究の目的,内容,危険性などを十分に説明し,書面にて同意を得た後に実施した。本研究は神戸大学大学院保健学研究科倫理委員会の承認を得た。
【結果】1セット目のRMS,MPF,自覚的疲労度,運動継続時間において条件間で有意差はみられなかった。%RMSおよび%MPF,自覚的疲労度,%運動継続時間に条件間で有意差はみられなかった。%下腿周径は全ての条件において安静時と比較し1セット目後および2セット目後に有意に増加し,インターバル後および回復後に有意に減少した。CON条件と比較しインターバル後のCG条件およびW条件,回復後のCG条件が有意に低値を示した。%大腿周径に条件間に有意差はみられなかったが,CON条件と比較しCG条件およびW条件において低値を示す傾向にあった。心拍数はW条件において安静時と比較し回復25分時に有意に低値を示した。lnHFはW条件において安静時と比較し回復15分時,25分時に有意に高値を示し,CG条件においては安静時と比較し回復30分時に有意に高値を示した。
【考察】筋活動量,自覚的疲労度,運動継続時間において条件間で有意差はみられなかったことから,運動負荷が大きいにも関わらず弾性ソックス着用時間が短かったことおよび水位が低かったことにより,明らかな効果が得られなかったと考えられた。弾性ソックス着用および下腿浴により周径が減少したことから,いずれの下腿圧迫方法においても静脈還流が促進し,下腿浮腫の軽減効果が得られたと考えられた。弾性ソックス着用および下腿浴により心臓副交感神経系活動が亢進し,下腿浴においては心拍数が減少した。静脈還流が増加すると右房圧および血圧が増加し,その内圧上昇を是正するために副交感神経系活動の亢進が誘発される。本研究において心臓副交感神経系活動の亢進がみられたことから,下腿圧迫により静脈還流が促進されたと考えられた。また,下腿浴において弾性ソックス着用と比較し迅速に心臓副交感神経系活動の亢進を誘発することが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】運動後に弾性ソックスの着用または下腿を不感温水に着水させることで,静脈還流を促進させ循環器系の負担を軽減させる可能性が示唆された。運動療法時および日常生活において弾性ストッキング着用が困難な症例および水中運動が困難な症例であっても,運動後に弾性ソックス着用または下腿浴を行うことで手軽に循環器系の回復が促進する可能性が示唆された。
【方法】対象は,下肢に愁訴のない健常若年男子学生10名(年齢22.1±1.1歳,身長171.3±6.9cm,体重65.9±10.0kg,体脂肪率16.2±6.0%)である。運動課題は,片脚カーフレイズ2セットとした。メトロノームのリズムに合わせて2秒間に1回の割合で運動を継続して行わせ,床から踵までの高さが最大挙上高の60%以下となった時を運動終了とした。対象者は,初めに5分間の座位安静をとり,続いて1セット目の運動を行った。その後10分間のインターバルを設け,2セット目の運動を行った。続いて30分間の回復を設けた。このインターバル時および回復時に,弾性ソックスを着用させる(CG)条件,下腿を33~34℃の水に着水させる(W)条件,下腿圧迫を実施しない(CON)条件の3条件を設定し,ランダムに実施した。測定項目は,下腿周径,大腿周径,自覚的疲労度,運動継続時間,運動側の腓腹筋内側頭およびヒラメ筋の筋電図波形による積分値(RMS),周波数(MPF),心拍数,心臓副交感神経系活動(HF)とした。下腿周径,大腿周径は安静時の値を100とし%下腿周径および%大腿周径を求めた。運動継続時間,RMSおよびMPFは1セット目の値を100としたときの2セット目の値をそれぞれ%運動継続時間,%RMS,%MPF,とした。心臓副交感神経系活動は自然対数(lnHF)を求めた。
【倫理的配慮,説明と同意】なお,対象者には口頭および書面にて研究の目的,内容,危険性などを十分に説明し,書面にて同意を得た後に実施した。本研究は神戸大学大学院保健学研究科倫理委員会の承認を得た。
【結果】1セット目のRMS,MPF,自覚的疲労度,運動継続時間において条件間で有意差はみられなかった。%RMSおよび%MPF,自覚的疲労度,%運動継続時間に条件間で有意差はみられなかった。%下腿周径は全ての条件において安静時と比較し1セット目後および2セット目後に有意に増加し,インターバル後および回復後に有意に減少した。CON条件と比較しインターバル後のCG条件およびW条件,回復後のCG条件が有意に低値を示した。%大腿周径に条件間に有意差はみられなかったが,CON条件と比較しCG条件およびW条件において低値を示す傾向にあった。心拍数はW条件において安静時と比較し回復25分時に有意に低値を示した。lnHFはW条件において安静時と比較し回復15分時,25分時に有意に高値を示し,CG条件においては安静時と比較し回復30分時に有意に高値を示した。
【考察】筋活動量,自覚的疲労度,運動継続時間において条件間で有意差はみられなかったことから,運動負荷が大きいにも関わらず弾性ソックス着用時間が短かったことおよび水位が低かったことにより,明らかな効果が得られなかったと考えられた。弾性ソックス着用および下腿浴により周径が減少したことから,いずれの下腿圧迫方法においても静脈還流が促進し,下腿浮腫の軽減効果が得られたと考えられた。弾性ソックス着用および下腿浴により心臓副交感神経系活動が亢進し,下腿浴においては心拍数が減少した。静脈還流が増加すると右房圧および血圧が増加し,その内圧上昇を是正するために副交感神経系活動の亢進が誘発される。本研究において心臓副交感神経系活動の亢進がみられたことから,下腿圧迫により静脈還流が促進されたと考えられた。また,下腿浴において弾性ソックス着用と比較し迅速に心臓副交感神経系活動の亢進を誘発することが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】運動後に弾性ソックスの着用または下腿を不感温水に着水させることで,静脈還流を促進させ循環器系の負担を軽減させる可能性が示唆された。運動療法時および日常生活において弾性ストッキング着用が困難な症例および水中運動が困難な症例であっても,運動後に弾性ソックス着用または下腿浴を行うことで手軽に循環器系の回復が促進する可能性が示唆された。