[1322] 暑熱負荷は頚髄損傷者の血圧上昇を誘発する
キーワード:頚髄損傷, 循環応答, 皮膚交感神経
【はじめに,目的】
リハビリテーションの課題の1つに,社会復帰を果たした障害者の健康維持増進があげられる。生活習慣病対策のためには身体活動量・運動量を確保するための運動習慣獲得が重要とされている。車いすを用いた障害者では,その運動習慣獲得が困難であるため,我々は障害者のスポーツ参加の推進が急務であると考えている。体育館やスポーツ競技場などは環境温度の設定が困難であり,夏場などでは強い暑熱環境下に曝されることになる。我々は温度や湿度のような環境条件の違いによる身体への影響を理解しておくこともリスクを回避するうえで重要である。
これまで健常者を対象とした暑熱負荷時の循環応答に関する報告は散見されるが,頚髄損傷者を対象とした報告はない。今回,頚髄損傷者を対象に,水循環服を使用した暑熱負荷時の循環応答の測定を行い,健常者と比較することで若干の知見を得たので報告する。
【方法】
被検者はASIA分類Aの頚髄損傷者9名と,コントロール群として健常男性10名とした。プロトコールは実験室に到着後,深部体温である食道温測定用の食道温センサーを経鼻的に挿入し,心電図電極を貼付した後,33℃の温水を循環した水循環服を着用した。背臥位で30分以上の安静の後,暑熱負荷として,深部体温が1℃上昇するまで50℃の温水を循環した。
測定項目は血圧,心拍出量,一回心拍出量,心拍数とし,血圧は連続血圧計Portapres(Finapres Medical Systems),心拍数はベッドサイドモニターBSM-2401(NIHON KOUDEN),心拍出量は呼気ガス分析装置ARCO-2000(ARCO SYSTEM)を用いて炭酸ガス再呼吸法で測定した。一回心拍出量は,心拍出量を心拍数で除して算出した。心拍出量は暑熱負荷前および暑熱負荷終了直前に測定し,血圧および心拍数も炭酸ガス再呼吸法実施直前の1分間の平均値を使用した。なお血圧については平均血圧を使用した。また安静時に有意差が生じた項目は⊿値も算出し検討した。
統計は群間の比較にはANOVAを行いpost hocテストしてTukey-Kramerを使用した。また各群の暑熱負荷前後の比較にはT-testを実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
県立医科大学倫理委員会の承認を得た上で,口頭および紙面で説明し,同意を得て実験を行った。
【結果】
健常者の平均血圧は,暑熱負荷中に変化を示さなかったが,頚髄損傷者では暑熱負荷によって有意な上昇が認められた。
心拍出量は両群で暑熱負荷により有意に上昇し,群間比較では安静時,暑熱負荷後とも頚髄損傷者が健常者よりも有意に低値であった。また心拍出量の⊿値での比較においては頚髄損傷者が健常者よりも暑熱負荷による上昇反応が有意に抑制されていた。
一回心拍出量は両群ともに暑熱負荷による変化は生じず,群間比較においても有意差は認められなかった。
心拍数は両群ともに暑熱負荷において有意な上昇を認めた。また安静時の群間比較では有意差はなかったが,頚髄損傷者は健常者よりも暑熱負荷による上昇反応が有意に抑制されていた。
【考察】
人が暑熱ストレスに暴露されると,深部体温の上昇に伴って交感神経活動は上昇し,迷走神経反射は減少するため心拍数は増加する。熱放散のために皮膚血管が能動的に拡張し,総末梢血管抵抗は低下,静脈還流量も減少する。しかし一回心拍出量は交感神経亢進による心収縮力増加によって維持されるため心拍出量は増加する。このため,健常者では血圧は維持されると考えられており,今回も健常者において血圧低下は起こらなかった。
頚髄損傷者では,暑熱負荷時の心拍数,心拍出量ともに上昇したが,健常者に比べ低値を示した。頚髄損傷者では,心臓交感神経障害により心収縮力は増大できず,心拍数上昇応答は迷走神経活動の抑制に依存するため,健常者に比べ上昇反応が低く,心拍出量の増加量も少なかったと考えられる。しかし,心拍出量の増加量が少なかったにも関わらず血圧は有意な上昇を認めた。頚髄損傷者では皮膚交感神経障害により臓器などの血流量低下もほとんどないと思われるが,健常者のような暑熱暴露時の総末梢血管抵抗を大きく低下させる能動的な皮膚血管の拡張が生じず,さらに総血管床の低下などによって,僅かな心拍出量の上昇でも血圧上昇を引き起こした可能性が考えられる。また暑熱負荷時においても血圧変動は圧受容器反射によって制御されるが,交感神経障害がこれらに影響した可能性も考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
暑熱環境下において,頚髄損傷者は体温調整に気を配られているが,今回の結果,深部体温が上昇すると,頚髄損傷者の血圧上昇にも留意する必要性が示唆された。
リハビリテーションの課題の1つに,社会復帰を果たした障害者の健康維持増進があげられる。生活習慣病対策のためには身体活動量・運動量を確保するための運動習慣獲得が重要とされている。車いすを用いた障害者では,その運動習慣獲得が困難であるため,我々は障害者のスポーツ参加の推進が急務であると考えている。体育館やスポーツ競技場などは環境温度の設定が困難であり,夏場などでは強い暑熱環境下に曝されることになる。我々は温度や湿度のような環境条件の違いによる身体への影響を理解しておくこともリスクを回避するうえで重要である。
これまで健常者を対象とした暑熱負荷時の循環応答に関する報告は散見されるが,頚髄損傷者を対象とした報告はない。今回,頚髄損傷者を対象に,水循環服を使用した暑熱負荷時の循環応答の測定を行い,健常者と比較することで若干の知見を得たので報告する。
【方法】
被検者はASIA分類Aの頚髄損傷者9名と,コントロール群として健常男性10名とした。プロトコールは実験室に到着後,深部体温である食道温測定用の食道温センサーを経鼻的に挿入し,心電図電極を貼付した後,33℃の温水を循環した水循環服を着用した。背臥位で30分以上の安静の後,暑熱負荷として,深部体温が1℃上昇するまで50℃の温水を循環した。
測定項目は血圧,心拍出量,一回心拍出量,心拍数とし,血圧は連続血圧計Portapres(Finapres Medical Systems),心拍数はベッドサイドモニターBSM-2401(NIHON KOUDEN),心拍出量は呼気ガス分析装置ARCO-2000(ARCO SYSTEM)を用いて炭酸ガス再呼吸法で測定した。一回心拍出量は,心拍出量を心拍数で除して算出した。心拍出量は暑熱負荷前および暑熱負荷終了直前に測定し,血圧および心拍数も炭酸ガス再呼吸法実施直前の1分間の平均値を使用した。なお血圧については平均血圧を使用した。また安静時に有意差が生じた項目は⊿値も算出し検討した。
統計は群間の比較にはANOVAを行いpost hocテストしてTukey-Kramerを使用した。また各群の暑熱負荷前後の比較にはT-testを実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
県立医科大学倫理委員会の承認を得た上で,口頭および紙面で説明し,同意を得て実験を行った。
【結果】
健常者の平均血圧は,暑熱負荷中に変化を示さなかったが,頚髄損傷者では暑熱負荷によって有意な上昇が認められた。
心拍出量は両群で暑熱負荷により有意に上昇し,群間比較では安静時,暑熱負荷後とも頚髄損傷者が健常者よりも有意に低値であった。また心拍出量の⊿値での比較においては頚髄損傷者が健常者よりも暑熱負荷による上昇反応が有意に抑制されていた。
一回心拍出量は両群ともに暑熱負荷による変化は生じず,群間比較においても有意差は認められなかった。
心拍数は両群ともに暑熱負荷において有意な上昇を認めた。また安静時の群間比較では有意差はなかったが,頚髄損傷者は健常者よりも暑熱負荷による上昇反応が有意に抑制されていた。
【考察】
人が暑熱ストレスに暴露されると,深部体温の上昇に伴って交感神経活動は上昇し,迷走神経反射は減少するため心拍数は増加する。熱放散のために皮膚血管が能動的に拡張し,総末梢血管抵抗は低下,静脈還流量も減少する。しかし一回心拍出量は交感神経亢進による心収縮力増加によって維持されるため心拍出量は増加する。このため,健常者では血圧は維持されると考えられており,今回も健常者において血圧低下は起こらなかった。
頚髄損傷者では,暑熱負荷時の心拍数,心拍出量ともに上昇したが,健常者に比べ低値を示した。頚髄損傷者では,心臓交感神経障害により心収縮力は増大できず,心拍数上昇応答は迷走神経活動の抑制に依存するため,健常者に比べ上昇反応が低く,心拍出量の増加量も少なかったと考えられる。しかし,心拍出量の増加量が少なかったにも関わらず血圧は有意な上昇を認めた。頚髄損傷者では皮膚交感神経障害により臓器などの血流量低下もほとんどないと思われるが,健常者のような暑熱暴露時の総末梢血管抵抗を大きく低下させる能動的な皮膚血管の拡張が生じず,さらに総血管床の低下などによって,僅かな心拍出量の上昇でも血圧上昇を引き起こした可能性が考えられる。また暑熱負荷時においても血圧変動は圧受容器反射によって制御されるが,交感神経障害がこれらに影響した可能性も考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
暑熱環境下において,頚髄損傷者は体温調整に気を配られているが,今回の結果,深部体温が上昇すると,頚髄損傷者の血圧上昇にも留意する必要性が示唆された。