第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節15

Sat. May 31, 2014 5:35 PM - 6:25 PM 第11会場 (5F 501)

座長:奥村晃司(社会医療法人玄真堂川嶌整形外科病院リハビリテーション科)

運動器 口述

[1324] 人工股関節全置換術後患者における下部体幹筋収縮の有無が股関節自動伸展運動軸に与える影響

西村圭二1, 南部利明1, 北村淳1, 後藤公志2, 杉本正幸2, 山﨑敦3 (1.市立長浜病院リハビリテーション技術科, 2.市立長浜病院整形外科, 3.文京学院大学保健医療技術学部理学療法学科)

Keywords:股関節伸展, 瞬間中心, 下部体幹筋

【はじめに】
変形性股関節症患者の歩行では,立脚中期から後期において股関節伸展に伴う腰椎の代償を生じる場合があることを臨床上経験する。この原因として,股関節伸展可動域の制限,殿筋の筋力低下,下部体幹筋の安定性低下が挙げられる。代償軽減を目的とした運動の一つに,腹臥位での股関節自動伸展がある。この際の運動軸位置について瞬間中心に着目し検討した先行研究において,健常成人では下部体幹筋の収縮により腹臥位での股関節自動伸展運動軸が解剖学的な股関節運動軸に近づくことを報告した。そこで今回は,人工股関節全置換術(以下THA)後患者の股関節自動伸展運動軸について検討したので報告する。
【方法】
対象は変形性股関節症によりTHAを施行した術後3週間後の患者10名(平均年齢64.6±11.1歳)で,術側を計測肢(10肢)とした。日本整形外科学会が定める改訂関節可動域表示ならびに測定法に準じて股関節伸展可動域を他動にて測定し,可動域が8°以上であり(10.1±2.1°),徒手筋力検査では大殿筋の筋力が4以上である者(4.5±0.5)とした。計測肢位は,大腿外側部にマーカーを任意に2個と大転子の頭側に1個取り付けた矢状面における腹臥位とし,一側股関節自動伸展を任意の状態および下部体幹筋収縮状態で各々実施し,デジタルビデオカメラ(SONY社製)にて撮影した。計測前に3回練習を行った。下部体幹筋の収縮は骨盤底筋の収縮に伴う腹横筋の活動を検者が触診にて確認し指導した。撮影動画より,股関節自動伸展における瞬間中心(運動軸)を求めた。2個のマーカーの各々の始点と終点を結ぶ線の垂直二等分線が直交する点をDartFish Software(ダートフィッシュジャパン)にてパソコン上で求め,大転子の頭側のマーカー(解剖学的な股関節運動軸)と瞬間中心との距離を比較した。距離は座標として左右方向(X)と上下方向(Y),実際距離を絶対値として算出した。統計処理は対応のあるt検定を用い,危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
厚生労働省が定める「医療,介護関係事業における個人情報の適切な取り扱いのためのガイドライン」に基づき,対象者に本研究の趣旨を書面にて十分に説明し同意を得た。
【結果】
Xは任意38.5±14.0cm,下部体幹筋収縮29.5±15.8cmと減少した(p<0.01)。Yは任意4.4±3.4cm,下部体幹筋収縮4.2±3.5cmと減少したが有意差はなかった。実際距離は任意38.9±14.0cm,下部体幹筋収縮30.1±15.8cmと減少した(p<0.01)。
【考察】
先行研究と同様に,THA後患者においても下部体幹筋収縮により股関節自動伸展の運動軸が解剖学的な位置に近づくことが本研究にて明らかとなった。任意で股関節自動伸展すると可動域や筋力が改善傾向であっても術前の運動パターンが残存しているため,骨盤前傾および腰椎前弯増強や下部体幹の回旋にて股関節伸展を代償する傾向が見受けられた。これにより運動軸は股関節よりも頭側方向に偏位したといえる。これに対し下部体幹筋を収縮すると,腹腔内圧が高まり腰椎および骨盤帯の安定化作用が得られ,腰椎および骨盤の代償を抑制することができ,より解剖学的な股関節運動軸に近い位置での運動が可能になったことが推察される。しかし,術後3週間後(退院時)であり短期間の介入であるため,股関節伸展可動域や股関節周囲筋力,下部体幹筋力の改善が十分ではないことから,運動軸は先行研究の健常成人よりも頭側に位置していたと考える。以上のことから,股関節伸展可動域および筋力の獲得は当然であるが,下部体幹筋のトレーニングも実施することで腰椎および骨盤による代償を抑制でき,歩容改善一助となる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
股関節疾患は不良姿勢を伴うことが多く,手術を施行しても術前の歩行パターンを改善するのに時間を要する。特に変形性股関節症ではTHA後に理学療法を実施し,疼痛や可動域,筋力は改善しても立脚中期から後期における股関節伸展を腰椎および骨盤にて代償する症例を臨床上経験する。この場合,歩行における股関節伸展の運動軸が胸腰椎部付近に位置していることが示唆される。腰椎骨盤による代償を抑制するために,患者自身が自主トレーニングとして容易に行える方法の一つとして腹臥位での股関節自動伸展が挙げられる。本研究の結果から,任意の運動では代償をさらに助長してしまう可能性が考えられるため,セラピストが下部体幹筋の収縮方法を十分に指導し,腰椎および骨盤の安定化が得られた状態で股関節運動を行うことが,より正確且つ効果的な運動に繋がり,歩容改善の一助となるといえる。