[1326] 人工股関節全置換術施行例における腰痛に対する加齢の影響
Keywords:人工股関節全置換術, 腰痛, 加齢
【はじめに】変形性股関節症における腰痛は,MacNabらによりhip-spine syndromeにおけるsecondary hip-spine syndromeに分類されている。前回当学会において,secondary hip-spine syndromeにおける腰痛に対する人工股関節全置換術(THA)施行と術後の理学療法の影響を考察したが,今回は症例を年齢別にわけて,THA施行と術後の理学療法の腰痛に及ぼす影響が年齢によってどのように違うかを検討した。
【方法】当院整形外科において2011年6月から11月にかけてTHAを施行した女性の変形性股関節症患者44名中,65歳未満の26人(45~64歳)をA群,65歳以上の18人(65~78歳)をB群とした。なお男性,リウマチ疾患,脊椎疾患にて下肢のしびれ等の神経症状がある者,ブロック注射や脊椎手術の既往がある者,研究に同意のない例は除外とした。対象症例に対し身体情報(身長,体重,BMI)の比較,および術前,退院時,術後3カ月,術後6カ月に腰痛Visual Analog Scale(VAS),関節可動域(ROM)で股関節屈曲+伸展角度と内転+外転角度,筋力(股関節屈曲Nm/kg 外転Nm/kg)を測定し2群それぞれで経過を検討した。また術前と術後最終観察時(平均観察期間129.5±51.6日)に医師の指示にて放射線技師がX線撮影した立位正面と側面像から,骨盤の矢状面での前後傾斜角を土井口らの方法にて算出した。また腰椎前弯角として第1腰椎上縁と仙骨上縁が成す角度,冠状面の水平骨盤傾斜角として左右の腸骨稜の上縁を結んだ線と水平線との角度,腰椎側弯角として第1腰椎上縁と第5腰椎下縁の成す角度をそれぞれ測定し,A群B群それぞれで術前後での比較を行った。統計学的分析は,術前,退院時,術後3カ月,6カ月の経過の検討に1元配置分散分析,身体情報と術前後の比較にt検定を用いた。1元配置分散分析にはp<0.01,t検定にはp<0.05を統計学的有意水準とした。
【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,対象者に対しては研究の趣旨を説明し,同意を得た。
【結果】身体情報において身長はA群153.4±5.9 cm,B群149.7±6.1 cmとなりA群が有意に高かった。術前/退院時/術後3カ月/術後6カ月の経過においてA群の腰痛VASは2.4±2.5cm/0.5±0.7cm/1.3±1.9cm/0.7±1.5cmとなり,有意な改善が見られたが,B群に改善は見られなかった。股関節屈曲+伸展角度はA群では78.0±16.7度/90.2±11.4度/93.7±11.7度/99.3±8.3度となり有意な改善があったが,B群では改善は見られなかった。股関節外転+内転角度,股関節屈曲筋力,股関節外転筋力では両群とも有意な改善が認められた。骨盤の前後傾斜角は術前/術後でA群で21.6±6.5度/25.9±5.7度,B群で27.8±12.8度/29.2±12.9度,腰椎前弯角は術前/術後でA群で42.7±13.3度/41.8±13.7度,B群で47.0±20.2度/42.9±18.7度,冠状面での水平骨盤傾斜角は術前/術後でA群3.0±2.3度/1.7±1.3度,B群2.7±2.2度/2.0±2.1度,腰椎側弯角は術前/術後でA群5.6±4.1度/2.8±2.0度,B群7.1±5.0度/5.1±4.4度となり,骨盤前後傾斜角,骨盤水平傾斜角,腰椎側弯角ともA群は有意に改善したがB群に改善は見られなかった。腰椎前弯角は両群とも術前後で有意な改善は見られなかった。
【考察】前回発表において,secondary hip-spine syndromeに関連すると思われる腰痛は,THA施行と術後の理学療法によりROMや腰仙部アライメントの改善と並行して回復があったと推察されたが,今回の検討では加齢により腰痛回復に差があると確認された。加齢の影響により身長差に影響する可能性があるほど脊柱に不可逆的な変化が起こっているとすると,THA施行と術後の理学療法により股関節内外転ROMや筋力の回復が見られていても腰仙部アライメントや股関節屈曲拘縮の改善が困難になり,これが高齢者においてTHA施行後も腰痛が残存するという結果になった一因と思われる。また腰椎前弯角に両群とも改善が見られなかったことから,矢状面での骨盤前後傾角度の回復影響はあるものの,腰痛回復には脊椎の冠状面での側弯角度の回復の影響が強い可能性が示唆された。THA施行患者の理学療法としては,高齢者は術前からの腰仙部アライメント評価も考慮に入れ,術後の積極的な可動域へのアプローチと,特に両側罹患例や早期退院例に対しては生活指導や脚長差への補高などの配慮で,腰痛予防も検討されていくべきだということが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】THA施行例におけるsecondary hip-spine syndromeに起因する腰痛の回復に年齢が一因するという結果は,THA施行患者の術後の生活や満足度に影響する因子として考えられ,術後の理学療法介入の一つの視点として重要になってくると思われる。
【方法】当院整形外科において2011年6月から11月にかけてTHAを施行した女性の変形性股関節症患者44名中,65歳未満の26人(45~64歳)をA群,65歳以上の18人(65~78歳)をB群とした。なお男性,リウマチ疾患,脊椎疾患にて下肢のしびれ等の神経症状がある者,ブロック注射や脊椎手術の既往がある者,研究に同意のない例は除外とした。対象症例に対し身体情報(身長,体重,BMI)の比較,および術前,退院時,術後3カ月,術後6カ月に腰痛Visual Analog Scale(VAS),関節可動域(ROM)で股関節屈曲+伸展角度と内転+外転角度,筋力(股関節屈曲Nm/kg 外転Nm/kg)を測定し2群それぞれで経過を検討した。また術前と術後最終観察時(平均観察期間129.5±51.6日)に医師の指示にて放射線技師がX線撮影した立位正面と側面像から,骨盤の矢状面での前後傾斜角を土井口らの方法にて算出した。また腰椎前弯角として第1腰椎上縁と仙骨上縁が成す角度,冠状面の水平骨盤傾斜角として左右の腸骨稜の上縁を結んだ線と水平線との角度,腰椎側弯角として第1腰椎上縁と第5腰椎下縁の成す角度をそれぞれ測定し,A群B群それぞれで術前後での比較を行った。統計学的分析は,術前,退院時,術後3カ月,6カ月の経過の検討に1元配置分散分析,身体情報と術前後の比較にt検定を用いた。1元配置分散分析にはp<0.01,t検定にはp<0.05を統計学的有意水準とした。
【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,対象者に対しては研究の趣旨を説明し,同意を得た。
【結果】身体情報において身長はA群153.4±5.9 cm,B群149.7±6.1 cmとなりA群が有意に高かった。術前/退院時/術後3カ月/術後6カ月の経過においてA群の腰痛VASは2.4±2.5cm/0.5±0.7cm/1.3±1.9cm/0.7±1.5cmとなり,有意な改善が見られたが,B群に改善は見られなかった。股関節屈曲+伸展角度はA群では78.0±16.7度/90.2±11.4度/93.7±11.7度/99.3±8.3度となり有意な改善があったが,B群では改善は見られなかった。股関節外転+内転角度,股関節屈曲筋力,股関節外転筋力では両群とも有意な改善が認められた。骨盤の前後傾斜角は術前/術後でA群で21.6±6.5度/25.9±5.7度,B群で27.8±12.8度/29.2±12.9度,腰椎前弯角は術前/術後でA群で42.7±13.3度/41.8±13.7度,B群で47.0±20.2度/42.9±18.7度,冠状面での水平骨盤傾斜角は術前/術後でA群3.0±2.3度/1.7±1.3度,B群2.7±2.2度/2.0±2.1度,腰椎側弯角は術前/術後でA群5.6±4.1度/2.8±2.0度,B群7.1±5.0度/5.1±4.4度となり,骨盤前後傾斜角,骨盤水平傾斜角,腰椎側弯角ともA群は有意に改善したがB群に改善は見られなかった。腰椎前弯角は両群とも術前後で有意な改善は見られなかった。
【考察】前回発表において,secondary hip-spine syndromeに関連すると思われる腰痛は,THA施行と術後の理学療法によりROMや腰仙部アライメントの改善と並行して回復があったと推察されたが,今回の検討では加齢により腰痛回復に差があると確認された。加齢の影響により身長差に影響する可能性があるほど脊柱に不可逆的な変化が起こっているとすると,THA施行と術後の理学療法により股関節内外転ROMや筋力の回復が見られていても腰仙部アライメントや股関節屈曲拘縮の改善が困難になり,これが高齢者においてTHA施行後も腰痛が残存するという結果になった一因と思われる。また腰椎前弯角に両群とも改善が見られなかったことから,矢状面での骨盤前後傾角度の回復影響はあるものの,腰痛回復には脊椎の冠状面での側弯角度の回復の影響が強い可能性が示唆された。THA施行患者の理学療法としては,高齢者は術前からの腰仙部アライメント評価も考慮に入れ,術後の積極的な可動域へのアプローチと,特に両側罹患例や早期退院例に対しては生活指導や脚長差への補高などの配慮で,腰痛予防も検討されていくべきだということが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】THA施行例におけるsecondary hip-spine syndromeに起因する腰痛の回復に年齢が一因するという結果は,THA施行患者の術後の生活や満足度に影響する因子として考えられ,術後の理学療法介入の一つの視点として重要になってくると思われる。