第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節16

2014年5月31日(土) 17:35 〜 18:25 第12会場 (5F 502)

座長:中山裕子(新潟中央病院)

運動器 口述

[1328] 骨盤臓器脱手術前後における尿失禁の経時的変化に関する後方視的検討

平川倫恵, 三輪好生, 清水幸子, 野村昌良 (亀田メディカルセンターウロギネコロジーセンター)

キーワード:尿失禁, 骨盤臓器脱, ウィメンズヘルス

【はじめに,目的】膣から膀胱,子宮,直腸などの骨盤内にある臓器が突出する骨盤臓器脱は女性の生活の質を著しく低下させる疾患であり,出産経験のある女性の44%が骨盤臓器脱の症状を有すると報告されている。骨盤臓器脱に対する治療方法の第一選択肢は骨盤底筋群の筋力増強により症状の改善を図る骨盤底筋体操を主とした理学療法であり,近年その有効性が報告されているが,骨盤臓器脱に対する理学療法は本邦においては保険診療の適応となっていないため普及がすすんでいないのが実情である。一方で,ポリプロピレンメッシュを用いたtransvaginal mesh(TVM)手術は本邦においても2010年に保険診療の適応となり,近年急速に普及がすすんでいる。先行研究において骨盤臓器脱患者は高頻度に尿失禁を伴うことが明らかになっているが,尿失禁の種類や重症度がTVM手術の術前後にどのように変化するのか経時的に検討した報告は少ない。そこで本研究ではTVM手術前後における尿失禁の種類や重症度の経時的変化を調査することとした。
【方法】対象は当院ウロギネコロジーセンターにおいて2011年11月から2012年7月までの間にTVM手術を施行した骨盤臓器脱患者105例であった。このうちTVM手術に尿失禁手術を併用した6例,術後1年以内に追加で尿失禁手術を施行した5例は解析から除外した。平均年齢は67.9歳,平均出産回数は2.2回,平均body mass indexは24.7であった。尿失禁疾患特異的質問票であるInternational Consultation on Incontinence questionnaire-short form(ICIQ-SF)を用いて,術前,術後2か月,術後6か月および術後1年における尿失禁の種類や重症度の変化を経時的に調査した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り患者のプライバシーに十分配慮した上で後方視的に実施した。本研究は後方視的研究であり,すでに治療を終了した患者の既存資料のみを用いるものであり,患者に対する直接的な危険性や不利益はない。研究データは連結可能匿名化により厳重に管理し,患者個人のプライバシーが確保されるよう十分配慮した。
【結果】術前,術後2か月,術後6か月および術後1年における尿失禁全体の罹患率はそれぞれ75%,55%,65%,67%であり,術前と比較して術後2か月において尿失禁全体の罹患率は有意に減少した(P=0.003)。尿失禁の種類別に検討すると,術前,術後2か月,術後6か月および術後1年における腹圧性尿失禁の罹患率はそれぞれ41%,28%,47%,48%であり,術前と比較して術後2か月において一過性に減少し,術後6か月,術後1年において再び増加する傾向を示した。一方,切迫性尿失禁の罹患率はそれぞれ47%,23%,16%,23%であり,術前と比較して術後2か月,術後6か月および術後1年において有意に減少した(P=0.0008,P<0.0001,P=0.0008)。さらに,重症度の変化について着目すると,術後1年において腹圧性尿失禁を呈しているもののうちの47%が症状の増悪を示した。一方,術後1年において切迫性尿失禁を呈しているもののうちの多くは症状が改善する傾向を示し,症状の増悪を示したのは32%であった。
【考察】TVM術後において尿失禁は高頻度に残存した。術前と比較し術後において切迫性尿失禁の罹患率は減少し,重症度は軽減される傾向を示した。このことには術後に膀胱や尿道の解剖学的な位置が改善されたことが寄与しているものと推察された。一方,腹圧性尿失禁の罹患率は術後2か月において一過性に減少するものの,その後再び増加する傾向を示した。このことは術後一過性に身体活動量が低下することが関連しているものと推測された。また,術後1年において腹圧性尿失禁を呈するものの約半数が術前と比較し重症度が増悪する傾向にあった。腹圧性尿失禁に対する理学療法の有効性は先行研究において既に明らかになっており,治療の第一選択肢として推奨されている。今後はTVM手術前後における理学療法が術後の尿失禁を改善させるか検証していく必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】骨盤臓器脱手術前後における尿失禁の種類や重症度の経時的変化を調査し,術後に多くの患者が尿失禁を呈している現状を明らかにすることで,理学療法の新たなニーズを提示することができるものと考える。