[1329] 産後腰痛への分節安定性トレーニング応用に向けた基礎的検討
キーワード:分節安定性トレーニング, 呼気負荷強度, 腹横筋
【はじめに】
妊娠期,腰痛を経験している女性は50~80%に及ぶ。そして,産後も症状が残存する場合,体幹筋機能不全が生じている可能性がある。分節安定性トレーニング(segmental stabilization training:以下SST)はこのような機能不全に対する運動療法として用いられ,難度は3段階に分類されている(SST1:局所的分節コントロール,SST2:閉運動鎖分節コントロール,SST3:開運動鎖分節コントロール)。先行研究では,正常な筋収縮パターンを学習する為,全ての段階で安静呼吸が用いられている。しかし,深層筋だけでなく多関節筋も機能するSST3では,無意識的な深層筋収縮維持が必要となる為,呼気負荷を用いる事でより深層筋収縮を得られるのではないかと考えた。そこで産後腰痛治療に応用する為の基礎的研究として,本研究ではSST3に最も適する呼気負荷強度を検討する事を目的とし体幹深層筋・表層筋の筋活動量を比較・検討した。
【方法】
対象は未産婦の健常女性25名(平均年齢20.8±1.4歳)とした。まず,各対象者の呼気負荷強度を設定する為,口腔内圧計(ミナト医科学社製Autospiro)にて最大呼気口腔内圧(Maximal Expiratory Pressure:以下PEmax)を測定した。運動課題は,背臥位(頚部・骨盤中間位)で両股関節70度屈曲位とし,左下肢は床面に接地したまま対側の踵を床面より約5cm挙上させ完全伸展した後元に戻す事とした(SST3)。事前に対象者の上前腸骨棘と腸骨稜の頂点をマーキングし骨盤中間位で課題を行う事を学習させ,課題中の骨盤位置をビデオにて確認した。上記課題を,安静呼吸と10,20,30%PEmaxの呼気負荷強度でそれぞれ実施し,課題中の腹横筋筋厚と腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋の筋活動量を測定した。筋厚及び筋活動の測定は体幹右側で行い,呼気終末期に統一した。また,メトロノームにて1課題3秒間とし十分な休息を設け3回ずつ測定した。腹横筋筋厚測定には超音波画像診断装置(GE Healthcare Japan社製LOGIQ Book XP,B-mode,10Hz)を使用した。測定部位は右中腋窩線上における肋骨辺縁と腸骨稜の中央部とし,筋走行と垂直になる筋膜間の距離を計測した。腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋の筋活動量は表面筋電計(U.S.A.社製Noraxon,サンプリング周波数1500Hz)を使用した。各筋の皮膚処理後,腹直筋は臍2~3cm外側で筋線維走行に平行に,外腹斜筋は第8肋骨外側下で筋線維走行に平行に,内腹斜筋は上前腸骨棘を結んだ線の2cm下方で水平に電極を設置した。そして,Danielsらの徒手筋力検査法5の筋活動を基準として正規化を行い,強度別課題の%EMGを求めた。筋厚測定の検者内信頼性は安静臥位と課題時の級内相関係数(Intraclass Correlation Coeffcient:以下ICC)を算出した。腹横筋筋厚では呼気負荷強度を要因とする1元配置分散分析を行い,筋電学的検討では腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋筋活動と呼気負荷強度を要因とする2元配置分散分析を行った。その後両者に多重比較検定(Tukey法)を実施した。統計解析はSPSSver22を使用し,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮】
本研究は本大学倫理審査委員会の承認を受け(第12020号),対象者には研究の主旨を十分に説明し,文書による同意を得て実施した。
【結果】
筋厚測定の検者内信頼性ICC(1,1)は,安静臥位0.97,課題運動時0.95であり高い信頼性を認めた。腹横筋筋厚変化は,安静呼吸3.31±0.6mm,10%PEmax 5.34±0.9mm,20%PEmax 5.96±0.9mm,30%PEmax 5.21±0.8mmであり,安静呼吸と10,20,30%間に有意な差を認めた(p<0.01)。また30%PEmaxは20%PEmaxに比べ有意に低値であった(P=0.016)。筋電学的検討では,腹直筋は各強度間に有意な差は認められず,外腹斜筋,内腹斜筋は安静呼吸と10,20,30%PEmax間に有意な差を認めた(p<0.01)。しかし10,20,30%PEmaxの間には全ての筋に有意差は認めなかった。
【考察】
筋電学的検討では10~30%PEmaxの体幹表層筋活動が一定であった事から強度による差異は認められなかった。しかし,腹横筋筋厚は30%PEmaxで減少した事から,対象者にとって過度な呼気強度となり,骨盤中間位保持を行う腹横筋収縮が困難であった事が考えられる。Sapsfordらは,低強度負荷によって体幹表層筋活動とは分離した腹横筋活動の増加を報告している事から,腹横筋が最も収縮し易い負荷強度を設定する必要がある。本研究の結果から,健常女性では10~20%PEmaxでの分節安定性トレーニングが体幹筋機能不全や産後腰痛への運動療法として最適ではないかと考えた。
【理学療法学研究としての意義】
分節的な深層筋収縮を獲得し段階的な治療を進めた後,10~20%呼気負荷を伴うトレーニングを行う事は,表層筋収縮を維持した上で深層筋収縮を増加させる事ができる為,より効果的な介入となる可能性が示唆された。
妊娠期,腰痛を経験している女性は50~80%に及ぶ。そして,産後も症状が残存する場合,体幹筋機能不全が生じている可能性がある。分節安定性トレーニング(segmental stabilization training:以下SST)はこのような機能不全に対する運動療法として用いられ,難度は3段階に分類されている(SST1:局所的分節コントロール,SST2:閉運動鎖分節コントロール,SST3:開運動鎖分節コントロール)。先行研究では,正常な筋収縮パターンを学習する為,全ての段階で安静呼吸が用いられている。しかし,深層筋だけでなく多関節筋も機能するSST3では,無意識的な深層筋収縮維持が必要となる為,呼気負荷を用いる事でより深層筋収縮を得られるのではないかと考えた。そこで産後腰痛治療に応用する為の基礎的研究として,本研究ではSST3に最も適する呼気負荷強度を検討する事を目的とし体幹深層筋・表層筋の筋活動量を比較・検討した。
【方法】
対象は未産婦の健常女性25名(平均年齢20.8±1.4歳)とした。まず,各対象者の呼気負荷強度を設定する為,口腔内圧計(ミナト医科学社製Autospiro)にて最大呼気口腔内圧(Maximal Expiratory Pressure:以下PEmax)を測定した。運動課題は,背臥位(頚部・骨盤中間位)で両股関節70度屈曲位とし,左下肢は床面に接地したまま対側の踵を床面より約5cm挙上させ完全伸展した後元に戻す事とした(SST3)。事前に対象者の上前腸骨棘と腸骨稜の頂点をマーキングし骨盤中間位で課題を行う事を学習させ,課題中の骨盤位置をビデオにて確認した。上記課題を,安静呼吸と10,20,30%PEmaxの呼気負荷強度でそれぞれ実施し,課題中の腹横筋筋厚と腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋の筋活動量を測定した。筋厚及び筋活動の測定は体幹右側で行い,呼気終末期に統一した。また,メトロノームにて1課題3秒間とし十分な休息を設け3回ずつ測定した。腹横筋筋厚測定には超音波画像診断装置(GE Healthcare Japan社製LOGIQ Book XP,B-mode,10Hz)を使用した。測定部位は右中腋窩線上における肋骨辺縁と腸骨稜の中央部とし,筋走行と垂直になる筋膜間の距離を計測した。腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋の筋活動量は表面筋電計(U.S.A.社製Noraxon,サンプリング周波数1500Hz)を使用した。各筋の皮膚処理後,腹直筋は臍2~3cm外側で筋線維走行に平行に,外腹斜筋は第8肋骨外側下で筋線維走行に平行に,内腹斜筋は上前腸骨棘を結んだ線の2cm下方で水平に電極を設置した。そして,Danielsらの徒手筋力検査法5の筋活動を基準として正規化を行い,強度別課題の%EMGを求めた。筋厚測定の検者内信頼性は安静臥位と課題時の級内相関係数(Intraclass Correlation Coeffcient:以下ICC)を算出した。腹横筋筋厚では呼気負荷強度を要因とする1元配置分散分析を行い,筋電学的検討では腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋筋活動と呼気負荷強度を要因とする2元配置分散分析を行った。その後両者に多重比較検定(Tukey法)を実施した。統計解析はSPSSver22を使用し,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮】
本研究は本大学倫理審査委員会の承認を受け(第12020号),対象者には研究の主旨を十分に説明し,文書による同意を得て実施した。
【結果】
筋厚測定の検者内信頼性ICC(1,1)は,安静臥位0.97,課題運動時0.95であり高い信頼性を認めた。腹横筋筋厚変化は,安静呼吸3.31±0.6mm,10%PEmax 5.34±0.9mm,20%PEmax 5.96±0.9mm,30%PEmax 5.21±0.8mmであり,安静呼吸と10,20,30%間に有意な差を認めた(p<0.01)。また30%PEmaxは20%PEmaxに比べ有意に低値であった(P=0.016)。筋電学的検討では,腹直筋は各強度間に有意な差は認められず,外腹斜筋,内腹斜筋は安静呼吸と10,20,30%PEmax間に有意な差を認めた(p<0.01)。しかし10,20,30%PEmaxの間には全ての筋に有意差は認めなかった。
【考察】
筋電学的検討では10~30%PEmaxの体幹表層筋活動が一定であった事から強度による差異は認められなかった。しかし,腹横筋筋厚は30%PEmaxで減少した事から,対象者にとって過度な呼気強度となり,骨盤中間位保持を行う腹横筋収縮が困難であった事が考えられる。Sapsfordらは,低強度負荷によって体幹表層筋活動とは分離した腹横筋活動の増加を報告している事から,腹横筋が最も収縮し易い負荷強度を設定する必要がある。本研究の結果から,健常女性では10~20%PEmaxでの分節安定性トレーニングが体幹筋機能不全や産後腰痛への運動療法として最適ではないかと考えた。
【理学療法学研究としての意義】
分節的な深層筋収縮を獲得し段階的な治療を進めた後,10~20%呼気負荷を伴うトレーニングを行う事は,表層筋収縮を維持した上で深層筋収縮を増加させる事ができる為,より効果的な介入となる可能性が示唆された。