第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節16

Sat. May 31, 2014 5:35 PM - 6:25 PM 第12会場 (5F 502)

座長:中山裕子(新潟中央病院)

運動器 口述

[1331] ひとこぶ楽だを使用した運動療法の有効性の検討

川本晃平1, 浦辺幸夫2, 白川泰山3, 小川龍太郎4, 松野修三4 (1.マッターホルンリハビリテーション病院リハビリテーション部, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究科, 3.マッターホルンリハビリテーション病院整形外科, 4.株式会社ミカサ研究センター)

Keywords:ひとこぶ楽だ, 高齢者, 運動療法

【はじめに,目的】
高齢者が健康増進や介護予防のために運動療法を継続して行うことは重要であり,これらを目的とした多種多様な健康器具や運動装置が開発され,広く普及している。筆者らは高齢者が自宅でも簡便に運動療法が実施できるように,ボールを専用のベルトで体幹に固定し,空気圧を用いて筋力トレーニングやストレッチングなどを行うことができる運動装置を考案した。この運動装置は(株)ミカサと広島大学ならびに広島大学発ベンチャー企業(株)スポーツ・リハビリテーション・システムが共同で製作し,「ひとこぶ楽だ」と名付けた(特許申請済)。本研究では,ひとこぶ楽だを用いた運動療法の介入により高齢者の運動機能が改善するか明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は現在,腰部に疼痛がみられず,慢性的な整形外科疾患を有する70歳以上の高齢者14名(男性2名,女性12名,平均年齢77.5±4.5歳)とした。対象をひとこぶ楽だを用いて運動療法を行う群(EX群)とコントロール群(C群)の2群に分けた。EX群は7名(男性1名,女性6名,平均年齢78.8±5.0歳),C群は7名(男性1名,女性6名,平均年齢76.2±4.0歳)であった。介入方法はEX群,C群とも通常実施している整形外科疾患に応じた運動療法を20分間,週2回,3ヶ月間行った。EX群は運動療法に加え,ひとこぶ楽だを使用した運動療法を実施した。ひとこぶ楽だを使用した運動療法は,ひとこぶ楽だ取扱説明書の基本トレーニング方法を参考に背筋トレーニング2種類,腹筋トレーニング2種類,体幹ストレッチング2種類の合計6種類のメニューを各対象の運動能力に見合った難易度で作成し,10分間で行えるものとした。運動療法は理学療法士の指導のもとで実施し,運動中には疼痛や極度の疲労が出現しないようにした。
効果判定には体幹筋力の指標として伸展筋力,屈曲筋力をHHD(徒手筋力計モービィMT-100,酒井医療株式会社製)を用いて,遠藤ら(2012)の方法を参考に測定した。体幹伸展筋力は骨盤中間位で壁面を圧迫する方法,屈曲筋力は骨盤後傾位で徒手的に圧迫する方法にて3回測定し,平均値を求めた。
柔軟性の指標として,上体反らしと指床間距離(FFD)を行った。上体反らしは対象に腹臥位をとらせ,骨盤を固定し,両側上肢にて他動的に体幹伸展運動を実施させ,下顎との距離を求めた。FFDは20cmの台に乗り,立位姿勢から膝伸展位にて反動をつけないようにゆっくりと体幹を前屈させ,最大前屈時の第三指先端から台上までの距離を採用した。
統計学的分析は各群での検査項目について,介入前後の平均値の差の比較に対応のあるt検定を用い,各群間の改善率の比較には対応のないt検定を用いた。危険率は5%未満を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象にはあらかじめ本研究の趣旨,および測定時のリスクを十分に説明したうえで同意を得た。本研究は,医療法人エム・エム会マッターホルンリハビリテーション病院倫理委員会の承認を得て行った(承認番号MRH130002)。
【結果】
実施前後での各評価項目について,EX群では体幹伸展筋力,体幹屈曲筋力(p<0.01),上体反らし,FFD(p<0.05)で有意に改善がみられた。C群では体幹屈曲筋力,FFDのみ有意に改善がみられ(p<0.05),体幹伸展筋力,上体反らしでは変化がみられなかった。各群の改善率の比較では,特に体幹伸展筋力が有意に改善がみられた(p<0.01)。また体幹屈曲筋力,上体反らし,FFDにおいても改善がみられ(p<0.05),4項目全てにおいてEX群がC群に比べて有意に改善した。
【考察】
本研究では,ひとこぶ楽だを使用した運動療法の効果の有効性の検討を行った。EX群は週2回,3ヶ月間の介入によって体幹筋力および柔軟性の改善がみられた。その中でも特に体幹伸展筋力の改善がみられていた。ひとこぶ楽だを使用した体幹伸展運動時の腰部脊柱起立筋の筋活動量はウエイトタック式の背筋トレーニングマシン,トーソEXT/FLEX(酒井医療株式会社)の15kg負荷でのエクササイズとほぼ同等であることから(川本ら,2011),本研究で行ったひとこぶ楽だを使用した運動療法は高齢者が筋力を向上させるのに十分な負荷を与えることができたと考える。
【理学療法学研究としての意義】
ひとこぶ楽だは軽量なため持ち運びが可能であり,装着も容易であることから,病院やリハビリテーション施設のみでなく自宅でも簡便に運動療法を実施することが可能な装置である。トレーニングの種類も豊富に考えられ,筋力トレーニング,ストレッチング,バランストレーニングなど様々な効果が期待できる。
このことから,高齢者の運動機能の維持および向上のための有用な手段の一つになり,理学療法士が運動療法を行うための新たなツールとして提案できる点で意義があると考える。