[1335] パーキンソン病患者における移動能力の3年間における予後と関連要因の検討
Keywords:パーキンソン病, 移動能力予後, 関連要因
【はじめに,目的】
パーキンソン病(PD)は理学療法における主要な対象疾患であり,近年では超高齢社会の進展に伴い増加傾向にある。PDは慢性進行性疾患であり,理学療法では適切な予後判断に基づく介入が不可欠であるが,脳卒中等と比較して臨床疫学的な知見は乏しい。PDの長期予後について検討した報告は少数例が多く,また生命予後やHoehn&Yahr重症度分類を指標とした検討に留まり,理学療法の主要な介入対象である移動能力の長期的予後や関連要因について検討した報告はほとんどみられない。本研究は,PD患者における移動能力の予後,そして関連要因について探索的に検討することを目的としている。
【方法】
調査対象は,平成20年から平成25年までに岡山県内1カ所の病院において神経内科を受診しPDと診断された症例389名であり,診療録より後方視的に調査を実施した。集計対象は,診療録からのデータ収集不能,測定開始時年齢が65歳未満の者,発症後期間が20年以上の者,初回測定時にUnified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)の歩行項目の判定で4点(介助があっても歩行不能)の者を除外した120名とした。調査内容は,基本的属性・医学的属性,PDの一次障害として振戦,指タップ,筋固縮,姿勢,立位の安定性,そして日内変動,ジスキネジア,精神症状,認知症の有無とした。移動能力の指標についてはUPDRSの歩行項目を用いた。
調査は追跡期間3年に設定し,最終測定時より3年前に遡った時点までのデータを記録した。統計処理は,PDの発症時期より初回測定時までの期間を発症後期間とし,集団を発症後期間5年未満の群54名と5年以上の群66名の2群に分けて実施した。そして3年間における移動能力予後の関連要因を検討するため,集団それぞれで初回評価時から最終評価時までの3年間で移動能力を維持した群を「維持群」,低下した群を「低下群」に分け従属変数に設定し,各調査項目を説明変数とした二項ロジステック回帰分析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は吉備国際大学倫理審査委員会の承認(受理番号13-05)を得て実施し,指針の下に診療録の個人情報を目的達成に必要な範囲を越えて取り扱わず匿名データで検討した。
【結果】
集計対象120名の属性は,年齢75.8±5.6歳,男性41名,女性79名。発症後期間は7.1±4.7年,Hoehn&Yahrの重症度分類はIII94名,IV24名,V2名であった。移動能力の3年間における予後として,発症後期間5年未満の群については15名(27.8%),5年以上の群については26名(39.4%)で低下が認められた。移動能力の予後を従属変数とした二項ロジステック回帰分析の結果,発症後5年未満群では合併症である「脳卒中」「圧迫骨折」「心疾患」「呼吸器疾患」「糖尿病」の有無,そして「指タップ」「姿勢」「認知症」「振戦」「精神症状」の項目で統計的に有意な関連を認めた。発症後5年以上群では,合併症は統計的に有意な関連を示さず,「年齢」「発症後期間」,そして「認知症」「姿勢」「立位の安定性」の項目で有意な関連を認めた。
【考察】
3年間における移動能力の予後に関して,発症後5年以上の集団において低下割合が多いことが明らかにされた。移動能力予後の関連要因についての検討において,発症後5年未満の群についてのみ合併症との関連を示したことは,移動能力が比較的保たれる発症後早期の時期であり,PD以外に低下させる要因として合併症が関連を示したものと推測される。またこの時期において発症後5年以上の集団と比較して多くのPD症状が関連したことは,PDの一次障害が本来軽度であるにも関わらず重度な状態であることが,発症後早期の移動能力低下者の特徴であることを示唆するものと考える。
一方,発症後5年以上の群に関してのみ年齢と発症後期間との関連を示していたのは,加齢や廃用の影響を反映するものとして時間的要素が関連を示していたものと思われる。またこの時期以降の集団は,そのほとんどがPD症状の進行により移動能力が低水準の状態にあり,PD症状よりも姿勢や立位の安定性に関する変数が関連を示したものと推測される。
【理学療法学研究としての意義】
移動能力の長期予後に関する研究が殆ど存在しない中で,本研究の知見は慢性進行性疾患であるPDに対する介護予防的視座に立った理学療法確立に向けた基礎資料になり得る。
パーキンソン病(PD)は理学療法における主要な対象疾患であり,近年では超高齢社会の進展に伴い増加傾向にある。PDは慢性進行性疾患であり,理学療法では適切な予後判断に基づく介入が不可欠であるが,脳卒中等と比較して臨床疫学的な知見は乏しい。PDの長期予後について検討した報告は少数例が多く,また生命予後やHoehn&Yahr重症度分類を指標とした検討に留まり,理学療法の主要な介入対象である移動能力の長期的予後や関連要因について検討した報告はほとんどみられない。本研究は,PD患者における移動能力の予後,そして関連要因について探索的に検討することを目的としている。
【方法】
調査対象は,平成20年から平成25年までに岡山県内1カ所の病院において神経内科を受診しPDと診断された症例389名であり,診療録より後方視的に調査を実施した。集計対象は,診療録からのデータ収集不能,測定開始時年齢が65歳未満の者,発症後期間が20年以上の者,初回測定時にUnified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)の歩行項目の判定で4点(介助があっても歩行不能)の者を除外した120名とした。調査内容は,基本的属性・医学的属性,PDの一次障害として振戦,指タップ,筋固縮,姿勢,立位の安定性,そして日内変動,ジスキネジア,精神症状,認知症の有無とした。移動能力の指標についてはUPDRSの歩行項目を用いた。
調査は追跡期間3年に設定し,最終測定時より3年前に遡った時点までのデータを記録した。統計処理は,PDの発症時期より初回測定時までの期間を発症後期間とし,集団を発症後期間5年未満の群54名と5年以上の群66名の2群に分けて実施した。そして3年間における移動能力予後の関連要因を検討するため,集団それぞれで初回評価時から最終評価時までの3年間で移動能力を維持した群を「維持群」,低下した群を「低下群」に分け従属変数に設定し,各調査項目を説明変数とした二項ロジステック回帰分析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は吉備国際大学倫理審査委員会の承認(受理番号13-05)を得て実施し,指針の下に診療録の個人情報を目的達成に必要な範囲を越えて取り扱わず匿名データで検討した。
【結果】
集計対象120名の属性は,年齢75.8±5.6歳,男性41名,女性79名。発症後期間は7.1±4.7年,Hoehn&Yahrの重症度分類はIII94名,IV24名,V2名であった。移動能力の3年間における予後として,発症後期間5年未満の群については15名(27.8%),5年以上の群については26名(39.4%)で低下が認められた。移動能力の予後を従属変数とした二項ロジステック回帰分析の結果,発症後5年未満群では合併症である「脳卒中」「圧迫骨折」「心疾患」「呼吸器疾患」「糖尿病」の有無,そして「指タップ」「姿勢」「認知症」「振戦」「精神症状」の項目で統計的に有意な関連を認めた。発症後5年以上群では,合併症は統計的に有意な関連を示さず,「年齢」「発症後期間」,そして「認知症」「姿勢」「立位の安定性」の項目で有意な関連を認めた。
【考察】
3年間における移動能力の予後に関して,発症後5年以上の集団において低下割合が多いことが明らかにされた。移動能力予後の関連要因についての検討において,発症後5年未満の群についてのみ合併症との関連を示したことは,移動能力が比較的保たれる発症後早期の時期であり,PD以外に低下させる要因として合併症が関連を示したものと推測される。またこの時期において発症後5年以上の集団と比較して多くのPD症状が関連したことは,PDの一次障害が本来軽度であるにも関わらず重度な状態であることが,発症後早期の移動能力低下者の特徴であることを示唆するものと考える。
一方,発症後5年以上の群に関してのみ年齢と発症後期間との関連を示していたのは,加齢や廃用の影響を反映するものとして時間的要素が関連を示していたものと思われる。またこの時期以降の集団は,そのほとんどがPD症状の進行により移動能力が低水準の状態にあり,PD症状よりも姿勢や立位の安定性に関する変数が関連を示したものと推測される。
【理学療法学研究としての意義】
移動能力の長期予後に関する研究が殆ど存在しない中で,本研究の知見は慢性進行性疾患であるPDに対する介護予防的視座に立った理学療法確立に向けた基礎資料になり得る。