[1337] 恐怖条件下における重心動揺,下腿筋同時活動への視覚指標距離の影響
キーワード:恐怖, 視覚指標距離, 重心動揺
【はじめに,目的】
恐怖条件下では足関節を固定する戦略をとること(Carpenter et al.1999)や,足圧中心動揺の実効値面積(RMS)が減少し平均パワー周波数(MPF)が増大するという狭い範囲内での姿勢制御戦略となること(Taylor et al.2012)が報告されている。しかし,恐怖条件下において姿勢制御戦略を安定化させる試みは未だ報告されていない。
視覚視標距離を近くすることは姿勢制御の安定化を促すとの研究結果(Kapoula Z,et al.2006,2008)があり,恐怖条件下においても視覚視標距離を近くすることで,姿勢制御の安定化を促すことができる可能性が考えられる。本研究の目的は,恐怖条件下における視覚指標距離の変化が重心動揺,下腿筋同時活動,VASに与える影響を調べることとした。
【方法】
若年健常者8名(男性4名,女性4名,平均年齢23.3±3.9歳)を対象とした。実験条件は,平地での静止立位保持(恐怖なし条件)と高さ110cmの台上での静止立位保持(恐怖条件)の2条件とし,開眼,閉脚,両上肢は体側下垂位とした。また,視覚指標距離は目線の高さから40cm前方の注視点を見る条件(近位条件)と,300cm前方の注視点を見る条件(遠位条件)の2条件とした。恐怖なし条件,恐怖条件の順に測定し,視覚指標距離の近位,遠位条件は被験者により順序を無作為とした。4条件とも2回連続で測定を実施した。
重心動揺は,重心動揺計G-6100(ANIMA社製)を用いて,sampling周波数100Hz,測定時間は30秒で測定した。重心動揺の指標として総軌跡長,矩形面積を用いた。筋活動は,表面筋電計sx230(DKH株式会社製)を用いsampling周波数1000Hzで,測定筋は,利き足側の前脛骨筋,内側腓腹筋を測定した。得られた筋電図信号から,同時活動の指標であるco-contraction index(CI)をFalconerら(Falconer et al.1985)の推奨する手法で求めた。恐怖の程度はvisual analogue scale(VAS)にて評価した。VASは左端を全く恐く感じない,右端を最大の恐怖と規定し,各条件中の主観的な恐怖の程度を測定した。
統計解析には,4条件(静止立位2条件×視覚指標距離2条件)の2回の平均値のVAS,総軌跡長,矩形面積,CIを比較するために,二元配置分散分析[静止立位条件(恐怖なし条件,恐怖条件)×視覚指標距離(近位条件,遠位条件)]を実施した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に遵守して実施した。全ての被験者に対して,研究内容を紙面および口頭にて説明し同意を得た。なお,本研究は本学研究倫理委員会にて承認されている(H25-24)。
【結果】
VASは,恐怖の要因のみ有意な主効果(F1,7=6.40,P=0.03)を認め,交互作用(F1,7=0.31,P=0.59)を認めなかった。総軌跡長は,視覚指標距離の要因のみ有意な主効果(F1,7=21.21,P=0.0025)を認め,交互作用(F1,7=0.73,P=0.41)を認めなかった。矩形面積は,恐怖の要因の主効果(F1,7=0.04,P=0.84),視覚指標距離の要因の主効果(F1,7=2.16,P=0.18),交互作用(F1,7=0.12,P=0.73)共に認めなかった。CIは恐怖の要因の主効果(F1,7=0.07,P=0.79),視覚指標距離の要因の主効果(F1,7=2.18,P=0.18)を認めず,交互作用(F1,7=5.65,P=0.049)のみ認めた。後検定の結果,恐怖条件においてのみ遠位条件より近位条件で有意な増加を認めた(F1,7=14.83,P<0.01)。
【考察】
本研究の結果より,VASにおいて恐怖の要因で主効果を認めたことから,本実験の恐怖条件は被験者の恐怖を誘発していたと考えられる。視覚指標距離は,恐怖条件においても,平地条件と同様に近位条件で総軌跡長が減少し,矩形面積は変化を認めなかった。これにより,恐怖条件下においても視覚指標距離を近くに設定することは,姿勢動揺の範囲には影響しないが,姿勢動揺の減少を促す可能性が示された。また,VASは視覚指標距離が近くなることで変化を認めないが,総軌跡長が有意に減少したことから,視覚指標距離の変化は対象者の主観的な恐怖を直接的に変化させないが,姿勢動揺を減少させる可能性があることが示唆された。また,恐怖条件において,CIは視覚指標距離が近くなることで増加したことから,下腿筋の同時活動の増加が姿勢制御の減少に貢献したことが考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,恐怖条件において視覚指標距離を近くすることで姿勢が安定し,その背景として筋活動の変化があることを示した。この結果は,恐怖により姿勢制御が不安定化している対象者に対する介入可能性の一助になると考える。
恐怖条件下では足関節を固定する戦略をとること(Carpenter et al.1999)や,足圧中心動揺の実効値面積(RMS)が減少し平均パワー周波数(MPF)が増大するという狭い範囲内での姿勢制御戦略となること(Taylor et al.2012)が報告されている。しかし,恐怖条件下において姿勢制御戦略を安定化させる試みは未だ報告されていない。
視覚視標距離を近くすることは姿勢制御の安定化を促すとの研究結果(Kapoula Z,et al.2006,2008)があり,恐怖条件下においても視覚視標距離を近くすることで,姿勢制御の安定化を促すことができる可能性が考えられる。本研究の目的は,恐怖条件下における視覚指標距離の変化が重心動揺,下腿筋同時活動,VASに与える影響を調べることとした。
【方法】
若年健常者8名(男性4名,女性4名,平均年齢23.3±3.9歳)を対象とした。実験条件は,平地での静止立位保持(恐怖なし条件)と高さ110cmの台上での静止立位保持(恐怖条件)の2条件とし,開眼,閉脚,両上肢は体側下垂位とした。また,視覚指標距離は目線の高さから40cm前方の注視点を見る条件(近位条件)と,300cm前方の注視点を見る条件(遠位条件)の2条件とした。恐怖なし条件,恐怖条件の順に測定し,視覚指標距離の近位,遠位条件は被験者により順序を無作為とした。4条件とも2回連続で測定を実施した。
重心動揺は,重心動揺計G-6100(ANIMA社製)を用いて,sampling周波数100Hz,測定時間は30秒で測定した。重心動揺の指標として総軌跡長,矩形面積を用いた。筋活動は,表面筋電計sx230(DKH株式会社製)を用いsampling周波数1000Hzで,測定筋は,利き足側の前脛骨筋,内側腓腹筋を測定した。得られた筋電図信号から,同時活動の指標であるco-contraction index(CI)をFalconerら(Falconer et al.1985)の推奨する手法で求めた。恐怖の程度はvisual analogue scale(VAS)にて評価した。VASは左端を全く恐く感じない,右端を最大の恐怖と規定し,各条件中の主観的な恐怖の程度を測定した。
統計解析には,4条件(静止立位2条件×視覚指標距離2条件)の2回の平均値のVAS,総軌跡長,矩形面積,CIを比較するために,二元配置分散分析[静止立位条件(恐怖なし条件,恐怖条件)×視覚指標距離(近位条件,遠位条件)]を実施した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に遵守して実施した。全ての被験者に対して,研究内容を紙面および口頭にて説明し同意を得た。なお,本研究は本学研究倫理委員会にて承認されている(H25-24)。
【結果】
VASは,恐怖の要因のみ有意な主効果(F1,7=6.40,P=0.03)を認め,交互作用(F1,7=0.31,P=0.59)を認めなかった。総軌跡長は,視覚指標距離の要因のみ有意な主効果(F1,7=21.21,P=0.0025)を認め,交互作用(F1,7=0.73,P=0.41)を認めなかった。矩形面積は,恐怖の要因の主効果(F1,7=0.04,P=0.84),視覚指標距離の要因の主効果(F1,7=2.16,P=0.18),交互作用(F1,7=0.12,P=0.73)共に認めなかった。CIは恐怖の要因の主効果(F1,7=0.07,P=0.79),視覚指標距離の要因の主効果(F1,7=2.18,P=0.18)を認めず,交互作用(F1,7=5.65,P=0.049)のみ認めた。後検定の結果,恐怖条件においてのみ遠位条件より近位条件で有意な増加を認めた(F1,7=14.83,P<0.01)。
【考察】
本研究の結果より,VASにおいて恐怖の要因で主効果を認めたことから,本実験の恐怖条件は被験者の恐怖を誘発していたと考えられる。視覚指標距離は,恐怖条件においても,平地条件と同様に近位条件で総軌跡長が減少し,矩形面積は変化を認めなかった。これにより,恐怖条件下においても視覚指標距離を近くに設定することは,姿勢動揺の範囲には影響しないが,姿勢動揺の減少を促す可能性が示された。また,VASは視覚指標距離が近くなることで変化を認めないが,総軌跡長が有意に減少したことから,視覚指標距離の変化は対象者の主観的な恐怖を直接的に変化させないが,姿勢動揺を減少させる可能性があることが示唆された。また,恐怖条件において,CIは視覚指標距離が近くなることで増加したことから,下腿筋の同時活動の増加が姿勢制御の減少に貢献したことが考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,恐怖条件において視覚指標距離を近くすることで姿勢が安定し,その背景として筋活動の変化があることを示した。この結果は,恐怖により姿勢制御が不安定化している対象者に対する介入可能性の一助になると考える。