[1340] 免荷による歩容変化は再荷重によっても回復しない
キーワード:免荷, 歩行, ラット
【はじめに,目的】
組織損傷後や手術後の長期間にわたる固定や免荷は骨量低下や筋萎縮の原因となり,特に下肢においては移動能力の低下や社会復帰の遅延につながる。その予防策として,術後早期もしくは免荷期間中からの介入が実施されているが,それらは骨量・筋量維持を目的としたものが主であり,動作の質的維持を目的にしたものは少ない。また,免荷による動作(歩容)の変化を経時的に観察した研究も少数である。Canu(2005)らは,ラットの後肢を2週間免荷すると歩容が不可逆的に変化し,その後再び荷重されて1週間後も回復しなかったと報告している。しかし,より長期間の経過や筋萎縮との関係は依然報告されていない。そこで今回,2週間後肢免荷したラットを再び荷重条件に戻し,2週間後の歩容を3次元動作解析機にて分析するとともに筋重量を測定した。本研究の目的は,後肢免荷を要因としたラットの歩容変化と再荷重後の回復,および筋萎縮との関連を調査し,免荷に対する理学療法介入の必要性を補強することである。
【方法】
対象として8週齢のWistar系雄性ラット(n=20)を用いた。準備期間として全対象を7週齢時点から1週間トレッドミルを用いて歩行を学習させた後,免荷/再荷重群(n=8),自由飼育群(n=8)に振り分けた。実験期間4週間のうち前半2週を免荷期間として免荷/再荷重群に対して尾部懸垂を実施し,後半2週では懸垂を解除して自由飼育とした。自由飼育群については4週間自由飼育を継続した。各群において実験期間の2週目と4週目に各4匹ずつ体重測定と歩行観察後に安楽死させ,両側下肢から前脛骨筋・趾伸筋・腓腹筋・ヒラメ筋を摘出し湿重量を測定した。さらに,時系列比較のため,4匹のラットに対して上記と同様の処置を実験開始時点で実施した。歩容の解析には三次元動作解析装置キネマトレーサー(キッセイコムテック)を用いた。両側後肢の上前腸骨棘・大転子・膝関節裂隙・外果・第五中足骨頭にマーカーを添付して各群ラットの歩行を記録し,膝・足関節角度および後肢振幅中心(以下CO)を解析した。統計手法には対応のないt検定もしくはクラスカルワリス検定を用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験は所属施設の動物実験委員会の承認を得て実施された。
【結果】
2週間免荷時点で免荷/再荷重群の体重(g)は自由飼育群よりも有意に軽く(212.0±13.3 vs 249.7±17.5,P<0.01),筋湿重量/体重比(mg/g)も抗重力筋群(腓腹筋・ヒラメ筋)については有意に小さかった(腓腹筋:3.99±0.22 vs 4.87±0.19,ヒラメ筋:0.21±0.05 vs 0.43±0.03,共にP<0.01)。特にヒラメ筋については自由飼育群の約48%に留まった。一方,抗重力筋群の拮抗筋群(屈筋群)については二群間に有意差を認めなかった(前脛骨筋:1.59±0.06 vs 1.63±0.06,趾伸筋:0.49±0.03 vs 0.44±0.08,共にP>0.05)。続く2週間の再荷重後にはヒラメ筋が0.33±0.02 vs 0.39±0.03(P<0.01)と自由飼育群の約84%まで回復し,その他の筋群では有意な二群間差が認められなかった(腓腹筋:4.55±0.16 vs 4.68±0.20,前脛骨筋:1.62±0.11 vs 1.55±0.04,趾伸筋:0.42±0.02 vs 0.41±0.02,各P>0.05)。歩行時の関節角度(°)については,2週免荷時点で立脚中期の膝・足関節が有意に伸展しており(膝:85.9±1.2 vs 102.4±11.7,足関節:78.9±1.7 vs 114.1±4.1,共にP<0.01),再荷重2週後でも群間差が継続していた(膝:79.6±3.6 vs 104.2±4.9,足関節:88.4±6.3 vs 121.6±1.8,共にP<0.01)。COは2週免荷時点で有意に減少(前方へ偏移)しており(89.6±2.1 vs 101.7±4.4,P<0.01),再荷重2週後も群間差が継続していた(90.0±2.3 vs 99.4±5.5,P<0.01)。
【考察】
2週間免荷時に膝および足関節を伸展させた歩容となった要因としては,低下した抗重力筋群の筋張力を,各関節のモーメントアームを短くとることによって代償していたと考えられた。さらに,再荷重2週後においても同様の歩容変化が継続していたことは,筋張力低下の代償として獲得された歩容が,再荷重されても筋湿重量の回復のみに呼応して回復するわけではないことを示唆している。またCOが再荷重2週後も前方へ偏移していたことは,免荷によって対象ラットの後肢筋群において屈筋群が優位となり,それが再荷重後も継続した可能性を示唆している。
【理学療法学研究としての意義】
今回の実験より,一定期間の免荷によって生じた下肢筋群の萎縮は再荷重によって回復し得るが,萎縮が回復する過程で歩容が不可逆的に変化してしまう可能性が示された。本研究の結果から,免荷後の早期復帰を目指して介入を実施する際には筋量・骨量回復と並んで,適切な運動様式の獲得を目的とした理学療法介入が必要であると考えられる。
組織損傷後や手術後の長期間にわたる固定や免荷は骨量低下や筋萎縮の原因となり,特に下肢においては移動能力の低下や社会復帰の遅延につながる。その予防策として,術後早期もしくは免荷期間中からの介入が実施されているが,それらは骨量・筋量維持を目的としたものが主であり,動作の質的維持を目的にしたものは少ない。また,免荷による動作(歩容)の変化を経時的に観察した研究も少数である。Canu(2005)らは,ラットの後肢を2週間免荷すると歩容が不可逆的に変化し,その後再び荷重されて1週間後も回復しなかったと報告している。しかし,より長期間の経過や筋萎縮との関係は依然報告されていない。そこで今回,2週間後肢免荷したラットを再び荷重条件に戻し,2週間後の歩容を3次元動作解析機にて分析するとともに筋重量を測定した。本研究の目的は,後肢免荷を要因としたラットの歩容変化と再荷重後の回復,および筋萎縮との関連を調査し,免荷に対する理学療法介入の必要性を補強することである。
【方法】
対象として8週齢のWistar系雄性ラット(n=20)を用いた。準備期間として全対象を7週齢時点から1週間トレッドミルを用いて歩行を学習させた後,免荷/再荷重群(n=8),自由飼育群(n=8)に振り分けた。実験期間4週間のうち前半2週を免荷期間として免荷/再荷重群に対して尾部懸垂を実施し,後半2週では懸垂を解除して自由飼育とした。自由飼育群については4週間自由飼育を継続した。各群において実験期間の2週目と4週目に各4匹ずつ体重測定と歩行観察後に安楽死させ,両側下肢から前脛骨筋・趾伸筋・腓腹筋・ヒラメ筋を摘出し湿重量を測定した。さらに,時系列比較のため,4匹のラットに対して上記と同様の処置を実験開始時点で実施した。歩容の解析には三次元動作解析装置キネマトレーサー(キッセイコムテック)を用いた。両側後肢の上前腸骨棘・大転子・膝関節裂隙・外果・第五中足骨頭にマーカーを添付して各群ラットの歩行を記録し,膝・足関節角度および後肢振幅中心(以下CO)を解析した。統計手法には対応のないt検定もしくはクラスカルワリス検定を用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験は所属施設の動物実験委員会の承認を得て実施された。
【結果】
2週間免荷時点で免荷/再荷重群の体重(g)は自由飼育群よりも有意に軽く(212.0±13.3 vs 249.7±17.5,P<0.01),筋湿重量/体重比(mg/g)も抗重力筋群(腓腹筋・ヒラメ筋)については有意に小さかった(腓腹筋:3.99±0.22 vs 4.87±0.19,ヒラメ筋:0.21±0.05 vs 0.43±0.03,共にP<0.01)。特にヒラメ筋については自由飼育群の約48%に留まった。一方,抗重力筋群の拮抗筋群(屈筋群)については二群間に有意差を認めなかった(前脛骨筋:1.59±0.06 vs 1.63±0.06,趾伸筋:0.49±0.03 vs 0.44±0.08,共にP>0.05)。続く2週間の再荷重後にはヒラメ筋が0.33±0.02 vs 0.39±0.03(P<0.01)と自由飼育群の約84%まで回復し,その他の筋群では有意な二群間差が認められなかった(腓腹筋:4.55±0.16 vs 4.68±0.20,前脛骨筋:1.62±0.11 vs 1.55±0.04,趾伸筋:0.42±0.02 vs 0.41±0.02,各P>0.05)。歩行時の関節角度(°)については,2週免荷時点で立脚中期の膝・足関節が有意に伸展しており(膝:85.9±1.2 vs 102.4±11.7,足関節:78.9±1.7 vs 114.1±4.1,共にP<0.01),再荷重2週後でも群間差が継続していた(膝:79.6±3.6 vs 104.2±4.9,足関節:88.4±6.3 vs 121.6±1.8,共にP<0.01)。COは2週免荷時点で有意に減少(前方へ偏移)しており(89.6±2.1 vs 101.7±4.4,P<0.01),再荷重2週後も群間差が継続していた(90.0±2.3 vs 99.4±5.5,P<0.01)。
【考察】
2週間免荷時に膝および足関節を伸展させた歩容となった要因としては,低下した抗重力筋群の筋張力を,各関節のモーメントアームを短くとることによって代償していたと考えられた。さらに,再荷重2週後においても同様の歩容変化が継続していたことは,筋張力低下の代償として獲得された歩容が,再荷重されても筋湿重量の回復のみに呼応して回復するわけではないことを示唆している。またCOが再荷重2週後も前方へ偏移していたことは,免荷によって対象ラットの後肢筋群において屈筋群が優位となり,それが再荷重後も継続した可能性を示唆している。
【理学療法学研究としての意義】
今回の実験より,一定期間の免荷によって生じた下肢筋群の萎縮は再荷重によって回復し得るが,萎縮が回復する過程で歩容が不可逆的に変化してしまう可能性が示された。本研究の結果から,免荷後の早期復帰を目指して介入を実施する際には筋量・骨量回復と並んで,適切な運動様式の獲得を目的とした理学療法介入が必要であると考えられる。