第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

運動制御・運動学習5

Sun. Jun 1, 2014 9:30 AM - 10:20 AM 第3会場 (3F 301)

座長:谷浩明(国際医療福祉大学小田原保健医療学部理学療法学科)

基礎 口述

[1341] 一次運動野への反復4連発磁気刺激が運動知覚の感度に及ぼす影響

岡和田愛実1,2, 金子文成1, 柴田恵理子1, 青木信裕1 (1.札幌医科大学保健医療学部理学療法学第二講座, 2.禎心会病院リハビリテーション部)

Keywords:一次運動野, 運動検出閾値, 反復4連発磁気刺激

【はじめに,目的】関節運動の知覚には,筋紡錘からの求心性入力が最も重要な役割を果たす(Collins et al, 2005)。筋紡錘のIa群求心性感覚線維が発射すると,対側の一次体性感覚野(S1)の3a野や2野,一次運動野(M1),運動前野,補足運動野,頭頂葉,帯状回が賦活する(Romaiguere et al, 2003)。つまり,それらの脳部位が関節運動の知覚に関わる可能性が高いと理解できるが,逆にその興奮性が変化することによって関節運動の知覚も変化する可能性がある。しかし,それを示した報告はなく,それらの領域と知覚の因果は明らかでない。過去の研究から,M1に対する反復4連発磁気刺激(QPS)でM1とS1の興奮性を同時に増大させることが報告されている(Hamada et al, 2008,Nakatani et al, 2012)。そこで,我々は知覚に関わる脳部位の中でもM1とS1に着目し,M1とS1の興奮性増大による関節運動知覚の感度変化を明らかにする目的で本研究を実施した。
【方 法】対象は健康な右利きの成人男性とした。本研究は実験1と実験2からなる。M1とS1の興奮性を増大させる方法として,4連発の刺激間隔が5msec(QPS-5)を用いた。実験1ではQPS前後でM1の興奮性変化を検証するために,MEPを測定した。実験2ではQPS前後で関節運動知覚の感度変化を検証するために検出閾値を測定した。QPSは2種類行い,課題1ではQPS-5をM1に実施した。課題2では,コントロールとして偽の刺激(Sham)を実施した。QPSは,右短母指外転筋(APB)のhot spotに対して運動時閾値の90%の強度で行った。実験1と2の測定は,15分間隔でQPS前に2回(pre1,2),QPS後に5回(post0,15,30,45,60)測定した。実験1のMEP測定は,単発TMSを用いて右APBから記録した。刺激強度は,安静時閾値の1.2倍とし,8回の平均振幅を算出した。実験2の運動検出閾値測定は,他動的に被験者の右母指CM関節を掌側内転させ,その際に被験者が運動を知覚した角度変化量を測定した。モータの角速度は1deg/secと3deg/secとし,試技数はそれぞれ5回とした。そして,最大値と最小値を除いた3試技分の平均値を個人の代表値とした。MEPと運動検出閾値は,pre1を基準とした各測定時期の比を算出した。そして,それぞれ各測定時期(pre2,post0,15,30,45,60)および課題条件(QPS-5,Sham)の2つを要因とした反復測定二元配置分散分析により解析した。2つの要因間で交互作用があった場合,その後の検定として単純主効果の検定を行った。いずれも有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学倫理委員会の承認を得ており,また,ヘルシンキ宣言に沿って実施した。さらに,事前に研究内容等の説明を十分に行った上で,同意が得られた被験者を対象として実験を行った。
【結果】MEP振幅は,各測定時期と課題条件に交互作用があった。そしてQPS-5では,pre2と比較してpost0,15,30,45,60で有意にMEP振幅が増大したのに対して,Shamでは変化がなかった。また,post0,15,30,45では,Shamと比較してQPS-5において有意にMEP振幅が増大した。一方,運動検出閾値は,角速度1deg/secと3deg/secの両方で,各測定時期と課題条件に交互作用があった。そして1deg/secにおいて,QPS-5ではpre2と比較してpost15で有意に運動検出閾値が低下した。それに対して,Shamでは変化がなかった。また,post0,15,30,45では,Shamと比較してQPS-5において有意に運動検出閾値が低下した。さらに3deg/secにおいて,QPS-5ではpre2と比較してpost0,15,45で有意に運動検出閾値が低下した。それに対して,Shamでは変化がなかった。また,post0,15,30,45,60では,Shamと比較してQPS-5において有意に運動検出閾値が低下した。
【考察】実験2の結果から,末梢からの感覚入力が変化しないにも関わらず,QPS-5前と比較して,後には関節運動知覚の感度が増大した。関節運動の知覚には,S1の3a野や2野,M1,運動前野,補足運動野,頭頂葉,帯状回などの脳部位が影響する。実験1の結果から,本研究ではQPS-5後にM1の興奮性が増大した。また先行研究より,QPS-5によってM1とともにS1の興奮性が増大することが報告されている。このことから,関節運動知覚の感度が増大したのは,QPS-5後にM1とS1の特に3aや2野の興奮性が増大したことが起因しているものと考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究により,M1に対するQPSを行うことで,関節運動の知覚が向上することが示された。理学療法の対象となる症例では,感覚鈍麻により協調的な運動を行えなかったり,運動学習が進まない症例が多くいる。そのような症例に対して,理学療法前のコンディショニングとしてQPSを用いることにより,運動がより効率的に行える可能性がある。