第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

人体構造・機能情報学5

Sun. Jun 1, 2014 9:30 AM - 10:20 AM 第4会場 (3F 302)

座長:前島洋(北海道大学大学院保健科学研究院)

基礎 口述

[1345] マウス神経障害性疼痛モデルに対する経皮的末梢神経電気刺激(TENS)が脊髄後角オピオイドレセプターに及ぼす影響

松尾英明1, 内田研造2, 中嶋秀明2, 渡邊修司2, 竹浦直人2, 久保田雅史1, 嶋田誠一郎1, 馬場久敏2 (1.福井大学医学部付属病院リハビリテーション部, 2.福井大学医学部器官制御医学講座整形外科学領域)

Keywords:神経障害性疼痛, 経皮的末梢神経電気刺激(TENS), オピオイドレセプター

【はじめに,目的】
神経障害性疼痛は,神経系の機能障害や損傷により引き起こされ,臨床症状として,アロディニア,痛覚過敏,持続痛や自発痛をもたらし,日常生活活動に障害をきたす。経皮的末梢神経電気刺激(TENS)は,神経障害性疼痛患者に対して,疼痛の緩和を目的にリハビリテーション領域で行われてきた治療手段の一つである。神経障害性疼痛患者あるいは動物モデルを対象にした研究からTENSが,有効である可能性が報告されているが,その組織学的検討を行った報告は少なく,その作用機序については十分に明らかにされていない。これまで我々は,神経障害性疼痛モデルマウスに対するTENSの効果について検討を行ってきた。その結果,TENSは神経障害性疼痛モデルマウスの痛覚過敏を改善し,神経障害性疼痛の発現や持続に関与する脊髄後角表層のグリア活性を抑制する事を報告してきた。しかしながら,TENSの鎮痛メカニズムについては,まだ明らかにできていない。これまでの先行研究から,TENSの鎮痛メカニズムには脊髄後角におけるオピオイドレセプターが関与する事が仮説として考えられるが,神経障害性疼痛モデルでは脊髄後角のオピオイドレセプターが減少する事が報告されており,未だ議論の余地が残る。今回,我々はマウス神経障害性疼痛モデルに対するTENSが,行動学的評価および脊髄後角におけるオピオイドレセプターに及ぼす効果を検討した。
【方法】
対象は9週齢ICRマウス(n=30)とした。神経障害性疼痛モデル群であるspared nerve injury(以下SNI)手術を施行したマウスをSNI群,SNI術後にTENS治療を行ったマウスをTENS群,Sham手術を行ったマウスをSham群とした。SNI手術は,左坐骨神経の分枝である左総腓骨神経,左脛骨神経を6-0絹糸で結紮し,遠位部を切断し,左腓腹神経を温存する手術である。TENS群には,SNI術後翌日からTENSを行った。TENSは,電気刺激装置を使用し,左側の腰髄支配領域である傍脊柱筋の直上の皮膚を刺激した。TENSは,麻酔下にて行い,周波数100Hz,刺激強度は筋収縮が生じない最大強度,刺激時間は30分間とし,毎日1回実施した。行動学的評価は,痛覚検査装置を使用し,左後肢を機械的刺激および熱的刺激に対する疼痛閾値について評価した。機械的刺激に対する疼痛閾値の評価として,漸増する圧刺激を足底に加え,逃避反応が生じた際の圧力を評価するPaw pressure testを実施した。熱的刺激に対する疼痛閾値の評価として,輻射熱刺激装置を用いて,一定の熱刺激を足底に加え,逃避するまでの時間を評価するHargreaves testを実施した。モデル作成前に行動学的評価を行い,モデル作成翌日から7日間毎日,行動学的評価とTENSを行った。術後8日目に安楽死させ,L4-5髄節の脊髄を採取し,蛋白質を抽出し,電気泳動の後,Western blotting法にてオピオイドレセプターの2つのサブタイプであるμオピオイドレセプター,δオピオイドレセプターの半定量化をそれぞれ行った。統計は,一元配置分散分析ののち,Bonferroniの多重比較を行い,有意水準を5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,実験動物に対する処置などの取り扱い方法について福井大学動物実験委員会の承認を得て実施している。
【結果】
SNI群では,術後1日目から7日目まで継続して,Sham群と比較し,機械的および熱的刺激に対する疼痛閾値の低下を認めた。TENS群では,SNI術後翌日には疼痛閾値の低下を認めたが,術後2日目から7日目まで徐々に機械的および熱的刺激に対する疼痛閾値低下の改善を認めた。Western blotting法にて,μおよびδオピオイドレセプターは,SNI群ではSham群と比較しオピオイドレセプターの減少を認めたが,TENS群ではSNI群と比較し有意に増加していた。
【考察】
神経障害性疼痛モデル動物に対するTENSは,疼痛閾値の低下を抑制する事が報告されており,本研究もこれを支持する結果であった。また,神経障害性疼痛モデル動物では,脊髄後角における疼痛抑制系であるオピオイドレセプターが減少する事が報告されている。本研究の結果からTENSは,神経障害性疼痛モデルマウスのオピオイドレセプターの維持に関与し,TENSの鎮痛機序として作用する可能性がある事が推察された。
【理学療法学研究としての意義】
神経障害性疼痛モデルに対するTENSの効果を行動学的評価から検討した報告は散見されるが,その鎮痛機序を検討した報告は少ない。本研究は,神経障害性疼痛に対するTENSの鎮痛効果およびメカニズムを基礎研究から明らかにしようとするものであり,理学療法研究として意義があると考えている。