第49回日本理学療法学術大会

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人体構造・機能情報学5

2014年6月1日(日) 09:30 〜 10:20 第4会場 (3F 302)

座長:前島洋(北海道大学大学院保健科学研究院)

基礎 口述

[1346] 生活習慣病を有する高齢者を対象とした筋力低下の実態調査

安延由紀子 (大阪大学大学院医学系研究科老年・腎臓内科学)

キーワード:高齢者, 生活習慣病, 筋力低下

【はじめに,目的】
近年高齢者の転倒,寝たきりのリスクのひとつとして,加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)が注目されている。一般にサルコペニアは,加齢に伴って生じる身体機能低下である「虚弱(Frailty)」の臨床的表現型として捉えられ,その頻度は75歳未満で15~30%,75~79歳で25~40%,80歳以上では50~60%とされている。一方で,近年増加している肥満高齢者にもサルコペニアの表現型が認められ,それは「サルコペニア肥満」と呼ばれており,単純な肥満より転倒リスクのみならず心血管病発症リスクが大きいことが問題となっている。しかし,肥満高齢者の背景にある生活習慣病とサルコペニアとの関連性についてはまだ明らかでなく,その関連性を解明し,予測因子を同定することは,高齢生活習慣病患者の健康寿命の延長に寄与すると考えられる。そこで我々は,生活習慣病患者を対象に,筋力低下の実態把握と関連する因子を明らかにすることを目的とし,検討を行った。
【方法】
対象は,2012年4月から2013年9月に大阪大学医学部附属病院老年・高血圧内科に入院した65歳以上の症例166例(男性:平均年齢74.4歳,BMI 23.3 kg/m2,女性:平均年齢75.8歳,BMI 22.8kg/m2)である。測定項目は,入院後3日以内に各種身体機能検査(握力,等尺性膝伸展筋力,身体計測,開眼片脚立ち時間,10m最大歩行速度,重心動揺検査,下肢荷重検査)を施行した。筋量は推定式を用いて算定した。また入院当日に看護師により転倒転落リスクアセスメントスコアの作成を行い,生活習慣病の有無や入院中に施行した各種検査との関連解析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
各種検査の施行にあたっては,その主旨・目的を説明の上,対象者から口頭で同意を得た。各種データの使用にあたっては,大阪大学医学部附属病院の臨床研究倫理審査委員会の承認の上で実施した。
【結果】
推定式を用いた筋量では,各年代における年代別基準値の-2SD以下の割合は,70~79歳の男性11%,女性25%,80歳以上の男性53%,女性23%であり,既報のサルコペニア頻度より少ない結果となった。一方,膝伸展筋力では70~79歳の男性29%,女性37%,80歳以上の男性80%,女性76%に筋力低下が認められ,既報のサルコペニア頻度に近いことが明らかとなった。また,筋量・筋力と他の測定項目との関連を見ると,筋量は握力のみと関連が認められたが,下肢筋力はほぼすべての項目において関連が認められた。
筋量と糖尿病,高血圧の関連については,年代別基準値の-2SD以下の筋量低下と糖尿病または高血圧の有無との間に関連を認めなかった。一方,筋力と糖尿病,高血圧の関連については,年代別基準値の-2SD以下の筋力低下と糖尿病の有無との間に有意な関連を認め(p=0.04)たが,高血圧では,筋力低下が多い傾向を認めた。
転倒アセスメントスコアと筋量,筋力との関連においては,筋量はどの項目とも関連を認めず,筋量の評価では実際の転倒リスクを反映しにくいことが示された。一方筋力においては,スコアの合計点数が高く,転倒の危険度が高い程,膝伸展筋力は低下する傾向を認めた。また,問診による転倒既往と筋量,筋力との関連についても筋力の方が筋量より強い関連を示した。
【考察】
今回の検討から,軽度肥満傾向の生活習慣病患者において,筋力低下を示す割合のほうが筋量低下を示す割合より,既報のサルコペニアの頻度に近いことが示された。生活習慣病では,筋肉の単なる量的な変化よりも神経系を含めた筋力発揮,すなわちダイナペニアへの影響のほうが強いことが示唆される。糖尿病で筋力低下が多く認められたことは,糖尿病で経時的な筋力低下が強いことが過去に報告されており,それを支持するものと考えられるが,運動習慣の関与を考慮する必要があり,現在その検討を行っている。転倒転落リスクアセスメントスコアでの問診による転倒既往については,筋力が筋量より関連が強いことが明らかとなったが,転倒予測にも筋力測定が有用であるかについては,現在前向き(1年後)の検討を行っており,それにより明らかにできると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
生活習慣病を有すると筋力低下がより多く認められ,筋力は筋量より運動機能と良く相関することから,高齢生活習慣病患者における筋力測定の有用性が,本研究により示唆された。生活習慣病を有する高齢者は近年増加傾向であり,心血管病発症リスクが非常に高いことから,こうした集団に潜んだ筋力低下を早期に発見し,高い身体活動度を維持することが重要であると考えられるため,その実態把握や予防策の開発に寄せられる期待は大きい。