[1350] 変形性股関節症患者における最大歩行速度での床反力垂直分力特性
キーワード:変形性股関節症, 床反力, 下肢筋力
【はじめに,目的】歩行時の床反力垂直分力は一般に二峰性を呈し,鉛直方向への身体の支持力を表す指標として歩行速度に影響を与える。変形性股関節症(股OA)では,股関節構造の破綻によって一側の下肢機能が低下すると,歩行立脚期に生じる床反力の制御が困難となり,患側と健側で異なる制御の歩行パターンを呈する。したがって股OA患者の歩行時の床反力垂直分力を分析することで,歩行における身体支持や制動,推進に関連する下肢機能を概ね把握できる可能性がある。特に最大速度で歩行する場合,それぞれの下肢機能に基づいた最大限の身体支持能力が歩行速度に及ぼす影響を分析できると考えられるが,これらを調査した研究は行われていない。本研究の目的は,1)股OA患者の最大歩行速度における患側と健側の床反力垂直分力の特徴を明らかにし,2)身体機能との関連を検討することである。
【方法】対象は,末期片側性股OA患者33名(男性3名,女性30名)とした。平均年齢,身長,体重は64.4±10.7歳,153.2±5.7 cm,体重53.1±8.8kgであった。測定項目は,最大歩行速度での床反力,身体機能(脚長差,疼痛,関節可動域,下肢筋力)とした。床反力の計測では,歩行時に連続して床反力垂直分力が計測可能な靴型下肢加重計(アニマ社製,ゲートコーダMP-1000)を用いて,約15mの歩行路をできるだけ速く歩行させ,最大歩行速度と床反力垂直分力を算出した。床反力波形から二峰性の同定が可能なデータを抽出し,床反力垂直分力の極値として単脚立脚期の前半と後半に生じる2つの峰の第1最大値(Fz1),第2最大値(Fz3)とその間の谷の最小値(Fz2),立脚期における単位時間当たりの面積値を平均荷重値として求め,いずれも体重で正規化した。脚長差は,股関節単純X線で涙痕間線から小転子頂点までの距離の差として計測した。疼痛は歩行時の股関節痛として,Visual Analogue Scaleを用いた。関節可動域は,ゴニオメーターを使用し,他動下肢伸展拳上角度と股関節伸展角度を計測した。下肢筋力は,徒手筋力測定器(アニマ社製,ミュータスF-100)を使用し,股関節伸展,股関節外転,膝関節伸展の最大等尺性筋力を2回測定し,最大値を採用した。股関節筋力,膝関節筋力のアーム長は,それぞれ大転子から腓骨外果の5cm近位,膝関節中心から腓骨外果の5cm近位までの距離とし,筋力測定値との積をさらに体重で除して算出した値を下肢筋力として用いた。統計解析は,患側と健側の床反力パラメータの比較はWilcoxonの符号付き順位検定を用い,歩行パラメータおよび身体機能の関連はSpearmanの順位相関係数を用いて検定した。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者には検査の内容を十分に説明し,理解が得られたのち同意を得て実施した。
【結果】二峰性の床反力波形が同定不可能であった5名は解析対象から除外した。患側と健側の床反力パラメータの比較では,Fz1(患側105.8±9.7%,健側120.7±9.8%),Fz2(患側87.5±6.9%,健側76.4±7.0%),Fz3(患側107.3±7.0%,健側113.6±9.9%),平均荷重値(患側76.3±4.7%,健側80.3±5.0%)でいずれも有意差を認めた。最大歩行速度は患側Fz1(r=0.712,p<0.01),健側Fz1(r=0.538,p<0.01)と正の相関を示したが,患側と健側のFz1では相関関係を示さなかった(r=0.190,p>0.05)。患側Fz1は患側筋力のうち股関節外転筋力(r=0.407,p<0.05),股関節伸展筋力(r=0.425,p<0.05)と正の相関を示したが,膝関節伸展筋力(r=0.305,p>0.05)とは相関関係を認めなかった。健側Fz1は健側の股関節外転筋力(r=0.553,p<0.01),股関節伸展筋力(r=0.512,p<0.01),膝関節伸展筋力(r=0.596,p<0.01)すべてと正の相関を示した。Fz1は下肢筋力以外の身体機能と相関を認めず,Fz2,Fz3,平均荷重値はすべての身体機能と相関を認めなかった。
【考察】荷重関節である股関節疾患では,床反力垂直分力前半の指標が歩行能力を反映し,患側では股関節周囲筋力,健側では股関節周囲筋力に加えて膝関節伸展筋力が関連した。これは,患側による鉛直方向の身体支持機能として,立脚初期に膝伸展筋力を有効に使用することが困難になっていることを示唆し,患側と健側のFz1値に相関はみられないことから,その病態には健側による代償機構を含めた歩行制御の変化が関与していると推察された。ゆえに歩行速度に応じた患側下肢機能が有効に作用しているかどうかを健側下肢との関係で個々に検討する必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究により,股OA患者の最大歩行速度に影響を与える床反力およびそれを支える下肢筋力の関連性が患側,健側各々について明確になった。本研究は,股OA患者の歩行機能の維持,改善において重要な情報を提供するものと考えられる。
【方法】対象は,末期片側性股OA患者33名(男性3名,女性30名)とした。平均年齢,身長,体重は64.4±10.7歳,153.2±5.7 cm,体重53.1±8.8kgであった。測定項目は,最大歩行速度での床反力,身体機能(脚長差,疼痛,関節可動域,下肢筋力)とした。床反力の計測では,歩行時に連続して床反力垂直分力が計測可能な靴型下肢加重計(アニマ社製,ゲートコーダMP-1000)を用いて,約15mの歩行路をできるだけ速く歩行させ,最大歩行速度と床反力垂直分力を算出した。床反力波形から二峰性の同定が可能なデータを抽出し,床反力垂直分力の極値として単脚立脚期の前半と後半に生じる2つの峰の第1最大値(Fz1),第2最大値(Fz3)とその間の谷の最小値(Fz2),立脚期における単位時間当たりの面積値を平均荷重値として求め,いずれも体重で正規化した。脚長差は,股関節単純X線で涙痕間線から小転子頂点までの距離の差として計測した。疼痛は歩行時の股関節痛として,Visual Analogue Scaleを用いた。関節可動域は,ゴニオメーターを使用し,他動下肢伸展拳上角度と股関節伸展角度を計測した。下肢筋力は,徒手筋力測定器(アニマ社製,ミュータスF-100)を使用し,股関節伸展,股関節外転,膝関節伸展の最大等尺性筋力を2回測定し,最大値を採用した。股関節筋力,膝関節筋力のアーム長は,それぞれ大転子から腓骨外果の5cm近位,膝関節中心から腓骨外果の5cm近位までの距離とし,筋力測定値との積をさらに体重で除して算出した値を下肢筋力として用いた。統計解析は,患側と健側の床反力パラメータの比較はWilcoxonの符号付き順位検定を用い,歩行パラメータおよび身体機能の関連はSpearmanの順位相関係数を用いて検定した。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者には検査の内容を十分に説明し,理解が得られたのち同意を得て実施した。
【結果】二峰性の床反力波形が同定不可能であった5名は解析対象から除外した。患側と健側の床反力パラメータの比較では,Fz1(患側105.8±9.7%,健側120.7±9.8%),Fz2(患側87.5±6.9%,健側76.4±7.0%),Fz3(患側107.3±7.0%,健側113.6±9.9%),平均荷重値(患側76.3±4.7%,健側80.3±5.0%)でいずれも有意差を認めた。最大歩行速度は患側Fz1(r=0.712,p<0.01),健側Fz1(r=0.538,p<0.01)と正の相関を示したが,患側と健側のFz1では相関関係を示さなかった(r=0.190,p>0.05)。患側Fz1は患側筋力のうち股関節外転筋力(r=0.407,p<0.05),股関節伸展筋力(r=0.425,p<0.05)と正の相関を示したが,膝関節伸展筋力(r=0.305,p>0.05)とは相関関係を認めなかった。健側Fz1は健側の股関節外転筋力(r=0.553,p<0.01),股関節伸展筋力(r=0.512,p<0.01),膝関節伸展筋力(r=0.596,p<0.01)すべてと正の相関を示した。Fz1は下肢筋力以外の身体機能と相関を認めず,Fz2,Fz3,平均荷重値はすべての身体機能と相関を認めなかった。
【考察】荷重関節である股関節疾患では,床反力垂直分力前半の指標が歩行能力を反映し,患側では股関節周囲筋力,健側では股関節周囲筋力に加えて膝関節伸展筋力が関連した。これは,患側による鉛直方向の身体支持機能として,立脚初期に膝伸展筋力を有効に使用することが困難になっていることを示唆し,患側と健側のFz1値に相関はみられないことから,その病態には健側による代償機構を含めた歩行制御の変化が関与していると推察された。ゆえに歩行速度に応じた患側下肢機能が有効に作用しているかどうかを健側下肢との関係で個々に検討する必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究により,股OA患者の最大歩行速度に影響を与える床反力およびそれを支える下肢筋力の関連性が患側,健側各々について明確になった。本研究は,股OA患者の歩行機能の維持,改善において重要な情報を提供するものと考えられる。