第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節17

Sun. Jun 1, 2014 9:30 AM - 10:20 AM 第11会場 (5F 501)

座長:永井聡(広瀬整形外科リウマチ科リハビリテーション)

運動器 口述

[1351] 変形性股関節症患者における歩行効率と加速度由来歩容指標との関連

久郷真人1, 前川昭次1, 小島弓佳1, 谷口匡史1, 三村朋大2, 川崎拓3 (1.滋賀医科大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.滋賀医科大学整形外科学講座, 3.滋賀医科大学医学部附属病院リハビリテーション科)

Keywords:変形性股関節症, 歩行効率, 加速度計

【はじめに】変形性股関節症(Hip osteoarthritis:股OA)患者では股関節機能障害により歩行能力が低下し,Trendelenburg歩行を代表とする異常歩行を呈すことが多い。さらに,異常歩行は正常な歩行パターンを乱しエネルギー消費を増加させるため,疲労を生じやすく非効率的な歩行となることが予測される。しかし,股OA患者の歩行効率について生理学的観点から検討した報告はほとんどない。また近年,小型で簡便な3軸加速度計を用いた歩容評価に関する報告は散見するが,歩行効率と加速度計由来の歩容指標との関連性を検討した報告は見当たらない。そこで今回,生理学的観点からみた歩行効率と加速度計由来の歩容指標との関連について検討した。
【対象と方法】対象は2012年9月から2013年9月までの間に初回人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:THA)目的に当院に入院した女性末期股OA患者11名11股(平均年齢61.5±4.9歳,身長154.3±6.1cm,体重58.1±14.8kg,BMI24.1±4.2kg/m2)とした。尚,すでに反対側THAの既往がある者,THA再置換術患者,過去に股関節以外に手術の既往を有する者,歩行能力を阻害する神経系・循環器疾患合併者,5分以上の連続歩行が困難な者は対象から除外した。歩行効率の評価には間接的熱量計算法を用い,呼気ガス分析装置(ミナト医科学社製エアロモニタAE-310s)にて測定した。測定条件はトレッドミル上での指定速度(2.5km/h)での歩行とした。また,不慣れや精神的不安による影響を考慮し,事前に指定速度にて5分間練習をさせたのちに測定を実施した。尚,安全面を考慮し全ての被験者には歩行中片側の手すりを把持させるようにした。計測は,歩行中の酸素摂取量が定常状態に達しているとされる3分から4分までの1分間のデータを用い,得られたデータより酸素摂取量VO2(ml/kg/min)を求めた。さらに,VO2を指定歩行速度(m/min)により求めた1分あたりの移動距離で除することで1mあたりの酸素摂取量(ml/kg/m)を歩行効率の指標として算出した(Cost of Walking:以下,Cw)。同時に小型3軸加速度計(MicroStone社製MVP-RF8,サンプリング周波数100Hz)を用いて歩容評価を行った。被験者の腰背部正中の仙骨直上および靴の両側踵部に加速度計を固定し,安定した10歩行周期分の加速度波形から,歩行中の体幹動揺性の指標であるRoot Mean Square(RMS)と歩行周期変動性の指標であるStride-to-stride time valiability(STV)を算出した。尚,RMSは指定歩行速度の二乗値で除して調整した。その他,股関節可動域(屈曲,伸展),両下肢最大等尺性筋力(股関節外転筋力,膝関節伸展筋力,Nm/kg),歩行能力(Timed up & Go test),歩行時股関節痛(Visual Analog Scale),荷重対称性(Weight Bearing Asymmetory),日本整形外科学会股関節機能判定基準(Japanease Orthopaedic Association:JOA hip score),脚長差(棘果長左右差),除脂肪量指数および体脂肪率(Parama-tech社X-scan)を測定した。統計処理はCwと諸変数との関連を正規性検定をしたのち,PearsonおよびSpearmanの相関係数を求めた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】当研究は本学倫理委員会の承諾を得て行った(24-53)。また,対象者には研究の趣旨を書面および口頭にて十分な説明を行い,同意を得て行った。
【結果】対象者の平均VO2は12.49±2.17 ml/kg/min,平均Cwは0.29±0.05 ml/kg/mであった。また,加速度計各成分のRMSの平均値は垂直成分18.27±1.64,側方成分2.71±0.60,前後成分11.50±3.00であった。Cwと各評価項目との関連についてはJOA hip scoreとの間に負相関(r=-.822,p<.01),反対側膝伸展筋力との間に負相関(r=-.636,p=.03),RMS側方成分との間に正相関(r=.636,p=.03)が示された。
【考察】先行報告より,Cwは歩行速度の影響を受けることから,その影響を除外するために指定歩行速度条件での計測を行った。結果,CwとJOA hip scoreとの間に高い相関が示され,Cwは股関節機能を反映し,股OA患者の歩行能力指標としての有用性が示唆された。また,反対側膝関節伸展筋力は反対側下肢筋力を反映していると考えられ,反対側下肢機能による代償作用と歩行効率が関連することが考えられた。さらに,歩行時の側方への動揺性との関連性も示された。これは,代償動作として生じる体幹や骨盤の側方動揺に対して,姿勢保持のためのエネルギー消費が増加することが考えられた。しかし,本研究では関節運動や筋活動とCwとの関連性の検討は行っておらず,今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】股OA患者における生理学的観点からの歩行評価に関する報告は少ない。先行研究にて,歩行の効率性は社会参加のための歩行能力の影響因子でもあることから,本研究は新たな理学療法の立案の一助として意義のあるものと思われる。