第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節18

Sun. Jun 1, 2014 9:30 AM - 10:20 AM 第12会場 (5F 502)

座長:南角学(京都大学医学部附属病院リハビリテーション部)

運動器 口述

[1352] 人工足関節全置換術前後の関節可動域とADLの関係性

小俣訓子1, 高倉義幸1, 唄大輔2, 高倉義典1,3 (1.高倉整形外科クリニック, 2.平成記念病院リハビリテーション課, 3.西奈良中央病院整形外科)

Keywords:人工足関節全置換術, 関節可動域, ADL

【はじめに,目的】
変形性足関節症や関節リウマチなどによる関節由来の疼痛および変形により日常生活活動動作(以下,ADL)に支障を呈す症例に対し,人工足関節全置換術(total ankle arthroplasty以下,TAA)や足関節固定術が行われる。TAAは関節の損傷度合,年齢と活動性,耐久年数の考慮,活動性などにより選択され,除痛と関節可動性の温存が目的といわれている。しかし,股関節や膝関節の人工関節置換術と比べTAAの文献は少なく,更に術前後のADLを理学療法の観点から述べている文献は踏襲した限り見当たらない。そこで当クリニックでTAAを施行した症例の術前後における関節可動域(以下,ROM)とADLの関係性を調査したので報告する。
【方法】
対象は当クリニックで2011年10月~2013年3月にTAAを行った変形性足関節症17症例,関節リウマチ1例の計18例,年齢62歳~86歳,平均75.75歳,男性3名,女性13名(うち2名は両側)である。術前の理学療法は,周辺にある靭帯等の柔軟性向上と,術後に置換した足関節の安定化を図るための筋力増強練習を目的として行った。術後のギプス固定中は,足趾屈筋群の筋力低下予防と浮腫軽減を兼ねたグーパー体操を実施し,約4週間のギプス固定除去後は足関節の自動底背屈運動を開始した。インプラントと骨の生着が確認された後からは各運動方向の積極的なROM練習を追加した。また,長年の罹患に伴い短縮していた靭帯や筋の伸張性増大を目的として各運動方向の筋力増強練習を正しい運動様式で実施した。正座は,医師の許可を得た後に段階的に行い,最終的に実際の正座動作で確認した。階段昇降は,動作の特異性を考慮して低い段差から開始し徐々に高さを調節した後に実物の階段(20cm)で実施した。ROM測定は,底背屈は日本整形外科学会の測定法に準じ,内がえしと外がえしは日本足の外科学会の前足部と後足部の測定法を合計して測定した。術前後のROMを比較するため対応のあるt検定を用いて検討を行い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,対象となるTAAを受けた症例各位に対し口頭にて十分な説明を行い書面にて同意を得た。
【結果】
ROMについて,18足の平均±標準偏差の術前後変化は,背屈11.6±8.2°→13.8±4.7°底屈42.5±10.1°→45.2±10.6°内がえし48.0±11.1°→50.5±7.8°外がえし15.2±8.4°→21.9±10.3°であった。検定の結果,術前後において底屈,背屈,内がえしでは有意差が認められず,外がえしのみ有意差が認められた(p=0.02)。ADLについては,正座はタオル等の補高がなくとも可能となった症例が18例中,15例,足関節前面に補高を行えば可能となった症例が2例,人工膝関節置換術により遂行不可が1例であった。階段昇降については18例中,実用的に遂行可能となった症例は16例で,手すりを使用しなければ遂行できない症例が2例であった。また,期間については最短3ヶ月程で可能となる症例があったが大半は5~6ヶ月を要した。
【考察】
TAA前後のROMとADLの関係性について調査した。特に足関節のROM制限によって支障が生じやすいといわれている正座と階段昇降について調査した。ROMの検定結果は,外がえしのみに有意差が認められたが,これは変形性足関節症による距腿関節の変形のアライメントが正常化した結果によるものと考えられる。さらなる術後の大きなROM獲得にはTAA自身の形状にも影響すると考えられる。すなわち,使用したTNKankleの半径は生体より大きく,そのため術後のROMは多少制限を受ける。しかしながら足関節底屈と内がえしのROMが影響する正座は,術前とほぼ同等のROMが獲得でき,かつ疼痛が大幅に軽減または消失したことで可能となったと考えられる。また,足関節背屈ROMが大きく影響する階段昇降は,上記と同様の理由に加え,膝関節屈曲に伴う前足部支持の連動により問題なく可能となったと考えられる。手すりを要する症例については変形性膝関節症による膝の疼痛が理由であった。以上の結果から,他の荷重関節の置換術ではROMや動作に制限が生じるがTAAでは特にROM制限が認められず,疼痛軽減が認められた。これはTAAの目的を十分に果たしている結果と考えられる。ADL改善については,特に階段昇降において別途に連動のタイミング習得の練習を要し,かつ前足部支持や膝関節屈曲への負担を軽減する筋力増強練習も必要であると考える。これらのことからTAAにおいて術前後の理学療法の重要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
TAAに伴うROM制限は,ほぼ生じないこと。また,TAA後のADL改善には術前後の理学療法が重要であると考えられる。