第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節18

2014年6月1日(日) 09:30 〜 10:20 第12会場 (5F 502)

座長:南角学(京都大学医学部附属病院リハビリテーション部)

運動器 口述

[1356] 筋ポンプ作用時に足趾屈曲と足関節内反を加えると下肢の血流速度は上昇するのか?

瀬川槙哉1, 齊藤明2 (1.石巻赤十字病院リハビリテーション課, 2.秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻理学療法学講座)

キーワード:深部静脈血栓, 筋ポンプ, 複合運動

【はじめに,目的】
深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:以下DVT)の予防は術後管理や長期臥床時に重要であり,その原因静脈はヒラメ静脈,後脛骨静脈,腓骨静脈とされている。解剖学的には後脛骨静脈や腓骨静脈はヒラメ筋と後脛骨筋,足趾屈筋群に囲まれて存在しており,筋ポンプ作用の影響を受けやすいものと推察される。そのためDVTの予防のために行う足関節底背屈運動の際に,上記の血管に対して背側に位置する下腿三頭筋だけではなく,腹側に位置する足趾屈筋群,後脛骨筋を働かせ,両方向から筋収縮を加えることによって,より効果的な筋ポンプ作用が得られると考えるが,そのような報告はない。そこで本研究の目的は,足関節底背屈運動と足関節底屈時に足関節内反ならびに足趾屈曲を加えた底背屈運動における大腿静脈血流速度の測定を行い,DVTに効果的な運動を明らかにすることである。
【方法】
対象はA大学に在籍する健常男子学生33名を対象とした。測定には超音波診断装置(HI VISION Avius)を使用し,背臥位,股・膝関節伸展位で右大腿静脈血流速度をパルスドプラ法にて測定した。運動条件は①足関節底背屈(以下,単独運動群),②底屈時に足趾屈曲を行う足関節底背屈(以下,足趾複合運動群),③底屈時に足関節内反を行う足関節底背屈(以下,内反複合運動群)とした。手順は背臥位にて5分間の安静を保持し,安静時の血流速度を測定した。その後,各条件で測定をランダムに行い,測定間には3分間の休息を設けた。足関節底背屈の運動速度は50回/minとした。解析は運動開始後の20~40秒の間で波形が安定した状態を視覚的に確認し,最大血流速度(単位:cm/s)を計測した。また,運動中及び直後には脈拍を計測した。データ処理は運動時の血流速度を安静時の血流速度で除して,安静時に対する各運動条件での最大血流速度比を算出した。統計学的解析は各条件での最大血流速度比を比較するためFriedman検定を用いた。その後,有意差の認められたものに対しBonferroniの多重比較検定を行った。また各条件とも運動後と安静時の心拍数の差を求め,一元配置分散分析を用いて比較した。統計処理には,PASW Statistics18(IBM社製)を用い,危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には事前に研究目的および測定方法を十分に説明し書面で同意を得た。
【結果】
各条件での最大血流速度比の中央値(四分位範囲)は,単独運動群で2.64(1.94-3.71),足趾複合運動群では3.36(2.58-5.49),内反複合運動群では3.93(3.04-5.2)で足趾複合運動群及び内反複合運動群が単独運動群より有意に最大血流速度が速かった(それぞれp<0.01)。
安静時に対する各運動時の心拍数の差は,単独運動群3.03±0.96回/min,足趾複合運動群2.97±1.12回/min,内反複合運動群4±1.27回/minであり,各条件間では有意な差は見られなかった。
【考察】
単独運動群と複合運動群の血流速度に差が認められた理由の一つとして,下腿における筋と静脈の位置関係が考えられる。単独運動群では底屈時に主にヒラメ筋静脈での静脈環流が促される。これと比して複合運動群では底屈によるヒラメ筋静脈の圧迫に加え,足趾屈曲では後脛骨静脈,足関節内反では後脛骨静脈と腓骨静脈に対しての圧迫が更に加わると考えられる。よって,下腿深部静脈を背側・腹側の両方向から圧迫できる複合運動群では,単独運動群に比べ,より速い血流速度が得られたのではないかと考える。
また内反複合運動においては非荷重位の影響が大きいと考えられる。下腿三頭筋は非荷重位においては十分な筋収縮が得られないが,一方で後脛骨筋は非荷重位での筋活動が高いとの報告がある。本研究においても非荷重位で測定を行ったため,後脛骨筋の活動が高まり内反複合運動がより速い血流速度を得ることが出来たのではないかと考える。このことは特に内反複合運動が術後やベッド上での安静を要する時期のDVT予防に有用であると考える。
血流速度と心拍数の関係について,心拍数の上昇は,動脈血流量が増大を引き起こし,結果として静脈還流促進に伴う血流速度上昇が生じる可能性がある。本研究においては各運動群での心拍数の変化に有意差は認められず,各運動条件間の血流比較において心拍数の上昇が与える影響は少なかったものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
以上のことから底背屈単独運動に比べて複合運動では,より大きな静脈還流促進効果が期待でき,臨床において効果的なDVT予防方法となりうることが示唆された。一般に臨床場面では足関節の底背屈運動によってDVT予防を図ることが多いが,今回の研究の結果より底背屈単独運動だけではなく,足趾屈曲や足関節内反の複合運動で行うことで,より高いDVTの予防効果が期待される。