第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

人体構造・機能情報学6

Sun. Jun 1, 2014 9:30 AM - 10:20 AM ポスター会場 (基礎)

座長:縣信秀(常葉大学保健医療学部理学療法学科)

基礎 ポスター

[1360] 廃用性筋萎縮の回復過程におけるヌクレオプロテインの促進効果

中西亮介, 平山佑介, 藤野英己 (神戸大学大学院保健学研究科)

Keywords:筋肥大, 再荷重, 栄養サポート

【はじめに,目的】
長期臥床などの不活動によって廃用性筋萎縮が惹起される。この廃用性筋萎縮は運動機能の低下を引き起こし,活動性の低下に繋がる。一方,廃用時は食欲の低下により低栄養状態が生じるとされており,その低栄養状態では筋の合成に関わるシグナルを低下させることが報告されている(Bonjou, 2013)。そこで筋萎縮の回復を促すために運動療法が実施されるが,より効果的に運動の効果を引き出し,回復期間を短縮するためには他の介入との併用が有効であると考えた。
廃用からの回復初期に栄養サポートを併用し,筋萎縮の回復促進効果が観察されるかを検証することを目的とした。また,栄養サポートにはアミノ酸を多く含む栄養補助食品であるヌクレオプロテインに着目した。アミノ酸は筋タンパク質の合成を促進する効果があると報告されている(Pasiakos, 2012)。ヌクレオプロテインを荷重運動と併用摂取することで,筋萎縮後の回復効果を促進する作用により筋萎縮からの回復期間の短縮が期待できると考えられる。本研究では荷重刺激による廃用性筋萎縮からの回復過程におけるヌクレオプロテインの回復促進作用について検証した。
【方法】
12週齢の雌性Wistarラット26匹を用い,対照群(CON群),後肢非荷重群(HU群),後肢非荷重期間終了後に再荷重を行った群(HUR群),後肢非荷重期間終了後に再荷重を行い,ヌクレオプロテインを摂取した群(HUR+NP群)に区分した。ヌクレオプロテイン(日産化学工業)は800mg/kg/日をゾンデで経口摂取した。HU群はMorey法により14日間の非荷重を行い,HUR群,HUR+NP群では非荷重後に5日間の回復期間を設けた。実験期間終了後にヒラメ筋を摘出しATPase染色(pH4.2)を施し,染色所見より筋線維横断面積(CSA)を計測した。また,筋のタンパク合成に関与するリボソームタンパク質S6の総タンパク質発現量(S6)及びリン酸化タンパク質発現量(p-S6)をWestern Blot法により測定し,S6のリン酸化の割合を算出した(p-S6/S6)。得られた測定値の統計処理には二元配置分散分析とFisherの最小有意差法による多重比較検定及び,一元配置分散分析とTukeyによる多重比較検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の承認を得たうえで実施した。
【結果】
HU群のCSAはCON群と比較して有意に低値を示した。また,HUR群はHU群と比較して有意に高値を示した。一方,HUR+NP群はHUR群と比較して有意に高値を示した。
p-S6/S6の発現量は,CON群とHU群の間に差は見られなかった。一方,HUR群はHU群と比較して有意に高値を示し,HUR+NP群はHUR群と比較して有意に高値を示した。
【考察】
本研究では不活動により生じた骨格筋の萎縮は5日間の再荷重によってHU群に比較してCSAの回復効果が見られた。さらにS6の発現もHU群に比較して増加した。筋萎縮の回復過程において筋タンパク質合成の促進が必須である。S6はタンパク質合成の促進に重要な役割を果たすといわれている(Drummond, 2009)。荷重刺激などのメカニカルストレスによりS6が活性化されることが知られている(sugiura, 2004)。このため本研究での荷重効果によりS6が活性化され,タンパク質合成を促進し,結果としてHUR群のCSAの回復が観察されたと考えられる。また,HUR+NP群ではHUR群に比較してCSAの高い回復効果が観察された。S6の活性もHUR群よりも高い発現が観察された。アミノ酸は筋タンパク質合成の制御因子であるmTORを活性化させるといわれている(Tremblay, 2001)。
また,S6はmTORの下流因子であり,アミノ酸によりmTORが活性化されたことでS6が活性化する。そのため荷重によるS6の活性化にヌクレオプロテインに含まれるアミノ酸がS6を活性化させる効果が加わり,タンパク質の合成をより促進し,HUR+NP群におけるCSAの高い回復へとつながったと示唆される。これらの結果から後肢非荷重後の再荷重時にヌクレオプロテイン摂取することで筋タンパク質合成を促進させ,結果として筋萎縮からの回復を促進させたと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
筋萎縮の早期回復手段の確立は,早期離床を促す観点から非常に重要である。本研究において筋萎縮後に再荷重とヌクレオプロテインを併用することでその回復効果を高めることが実証された。本研究の成果から従来の荷重刺激と栄養サポートを組み合わせることで,筋萎縮の早期回復効果を高める介入手段となり得ることが示唆された点が理学療法分野において意義があると考える。