[1362] 1.25気圧による高気圧高濃度酸素療法が骨格筋のTCA回路にもたらす即時的な影響
キーワード:高気圧高濃度酸素療法, TCA回路, 骨格筋
【はじめに,目的】
100%酸素を用いて,2から3気圧まで加圧する高気圧高濃度酸素療法は,血流量の増加や代謝を促進し,筋損傷などの創傷治癒に有効であるとされている。しかし,理学療法で高気圧高濃度酸素療法を実施する場合は2気圧以下での使用に制限されることが多く,一般的に,通常空気による1.25気圧前後の加圧が用いられている。理学療法で広く用いられている1.25気圧による高気圧高濃度酸素療法の効果を検証した研究は少なく,2から3気圧環境で確認されている血流量増加や代謝促進効果に関して,1.25気圧でも同等の効果があるかどうかは不明である。また,これまでに,高気圧高濃度酸素療法の即時効果は検証されておらず,骨格筋のエネルギー代謝を促進させるために必要な1回の暴露時間は不明である。骨格筋のエネルギー代謝に関する1.25気圧の影響を明らかにし,さらに必要暴露時間の情報が得られれば,創傷治癒に対する理学療法に貢献できると思われる。本研究では,エネルギー代謝の中心的役割を担うTCA回路に着目し,1.25気圧による高気圧高濃度酸素療法が骨格筋の代謝に与える即時的な影響を検証した。
【方法】
8週齢のWistar系雄ラットを,高気圧高濃度酸素環境へ30分(HB30m群),1時間(HB1h群),3時間(HB3h群)暴露する群に区分した。対照群(Cont群)には1気圧で飼育した同一週齢のWistar系雄ラットを用いた。高気圧高濃度酸素環境は,通常空気を使用して1.25気圧に加圧したカプセルを用いた。なお,1.25気圧に達したカプセル内の酸素濃度は26.5%であった。それぞれの暴露時間終了後,直ちにヒラメ筋と長指伸筋を摘出し,液体窒素を用いて急速凍結し,-80℃で保存した。得られた凍結サンプルは11.5%スクロース,0.1%トリトン-X100,1mM DTT,5%プロテアーゼインヒビターカクテルを含む5倍量の10mM HEPESバッファー(pH 7.3)を用いてホモジナイズし,15000xgにて遠心分離後,上清を用いて,吸光光度法にて,クエン酸合成酵素(CS)活性を測定した。また,10μm厚の凍結切片を作製し,コハク酸脱水素酵素(SDH)染色を行い,染色所見を用いて筋線維のSDH活性を測定した。統計処理には一元配置分散分析を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の承認を受けて行った。
【結果】
CS活性に関して,ヒラメ筋と長指伸筋ともに,HB30m群,HB1h群,HB3h群,Cont群の間に有意差を認めなかった。SDH活性に関して,ヒラメ筋と長指伸筋ともに,全ての筋線維タイプにおいて,全ての群間に有意差を認めなかった。
【考察】
3時間以内の1.25気圧への1回の暴露では,遅筋ならびに速筋における,TCA回路の活性に顕著な即時的変化を及ぼさなかった。先行研究では,100%酸素を用いて2気圧以上に加圧した環境に暴露することにより,骨格筋の代謝が促進したとされている。本研究は,加圧に用いた気体と気圧が有効性を示した先行研究と異なっていることから,骨格筋の代謝を促進するには,26.5%以上の酸素濃度と1.25気圧以上の加圧が必要である可能性が示唆された。加えて,高気圧高濃度酸素環境への暴露期間も,その効果に関係していると思われる。筋損傷の治癒に対して有効性を示した先行研究では,一定の暴露時間を長期間継続している。本研究では1回の暴露に対する即時効果を検証したため,暴露期間が不十分であった可能性がある。高酸素や低酸素に暴露された骨格筋ではPGC1-αの発現量が変化し,ミトコンドリア新生や血管新生に関与するタンパク質の発現が調整される。疾患を有さない通常モデル動物では,PGC1-α発現を介したミトコンドリア新生や血管新生には少なくても数週間の適応期間を要することから,本研究でターゲットとしたクエン酸合成酵素とコハク酸脱水素酵素の合成にも,数週間の持続的な暴露時間や,長期にわたる複数回の暴露期間が必要であると思われる。今後は,1.25気圧による高気圧高濃度酸素療法の,長期適応の検証が必要であると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法で広く用いられている1.25気圧前後の高気圧高濃度酸素療法の効果判定を行うには,即時適応だけでなく,長期適応を評価する必要性が示唆されたことは,理学療法学研究として意義があると考える。
100%酸素を用いて,2から3気圧まで加圧する高気圧高濃度酸素療法は,血流量の増加や代謝を促進し,筋損傷などの創傷治癒に有効であるとされている。しかし,理学療法で高気圧高濃度酸素療法を実施する場合は2気圧以下での使用に制限されることが多く,一般的に,通常空気による1.25気圧前後の加圧が用いられている。理学療法で広く用いられている1.25気圧による高気圧高濃度酸素療法の効果を検証した研究は少なく,2から3気圧環境で確認されている血流量増加や代謝促進効果に関して,1.25気圧でも同等の効果があるかどうかは不明である。また,これまでに,高気圧高濃度酸素療法の即時効果は検証されておらず,骨格筋のエネルギー代謝を促進させるために必要な1回の暴露時間は不明である。骨格筋のエネルギー代謝に関する1.25気圧の影響を明らかにし,さらに必要暴露時間の情報が得られれば,創傷治癒に対する理学療法に貢献できると思われる。本研究では,エネルギー代謝の中心的役割を担うTCA回路に着目し,1.25気圧による高気圧高濃度酸素療法が骨格筋の代謝に与える即時的な影響を検証した。
【方法】
8週齢のWistar系雄ラットを,高気圧高濃度酸素環境へ30分(HB30m群),1時間(HB1h群),3時間(HB3h群)暴露する群に区分した。対照群(Cont群)には1気圧で飼育した同一週齢のWistar系雄ラットを用いた。高気圧高濃度酸素環境は,通常空気を使用して1.25気圧に加圧したカプセルを用いた。なお,1.25気圧に達したカプセル内の酸素濃度は26.5%であった。それぞれの暴露時間終了後,直ちにヒラメ筋と長指伸筋を摘出し,液体窒素を用いて急速凍結し,-80℃で保存した。得られた凍結サンプルは11.5%スクロース,0.1%トリトン-X100,1mM DTT,5%プロテアーゼインヒビターカクテルを含む5倍量の10mM HEPESバッファー(pH 7.3)を用いてホモジナイズし,15000xgにて遠心分離後,上清を用いて,吸光光度法にて,クエン酸合成酵素(CS)活性を測定した。また,10μm厚の凍結切片を作製し,コハク酸脱水素酵素(SDH)染色を行い,染色所見を用いて筋線維のSDH活性を測定した。統計処理には一元配置分散分析を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の承認を受けて行った。
【結果】
CS活性に関して,ヒラメ筋と長指伸筋ともに,HB30m群,HB1h群,HB3h群,Cont群の間に有意差を認めなかった。SDH活性に関して,ヒラメ筋と長指伸筋ともに,全ての筋線維タイプにおいて,全ての群間に有意差を認めなかった。
【考察】
3時間以内の1.25気圧への1回の暴露では,遅筋ならびに速筋における,TCA回路の活性に顕著な即時的変化を及ぼさなかった。先行研究では,100%酸素を用いて2気圧以上に加圧した環境に暴露することにより,骨格筋の代謝が促進したとされている。本研究は,加圧に用いた気体と気圧が有効性を示した先行研究と異なっていることから,骨格筋の代謝を促進するには,26.5%以上の酸素濃度と1.25気圧以上の加圧が必要である可能性が示唆された。加えて,高気圧高濃度酸素環境への暴露期間も,その効果に関係していると思われる。筋損傷の治癒に対して有効性を示した先行研究では,一定の暴露時間を長期間継続している。本研究では1回の暴露に対する即時効果を検証したため,暴露期間が不十分であった可能性がある。高酸素や低酸素に暴露された骨格筋ではPGC1-αの発現量が変化し,ミトコンドリア新生や血管新生に関与するタンパク質の発現が調整される。疾患を有さない通常モデル動物では,PGC1-α発現を介したミトコンドリア新生や血管新生には少なくても数週間の適応期間を要することから,本研究でターゲットとしたクエン酸合成酵素とコハク酸脱水素酵素の合成にも,数週間の持続的な暴露時間や,長期にわたる複数回の暴露期間が必要であると思われる。今後は,1.25気圧による高気圧高濃度酸素療法の,長期適応の検証が必要であると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法で広く用いられている1.25気圧前後の高気圧高濃度酸素療法の効果判定を行うには,即時適応だけでなく,長期適応を評価する必要性が示唆されたことは,理学療法学研究として意義があると考える。