第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

生体評価学1

2014年6月1日(日) 09:30 〜 10:20 ポスター会場 (基礎)

座長:桒原慶太(北里大学メディカルセンターリハビリテーションセンター)

基礎 ポスター

[1363] 近赤外分光法(NIRS)による局所筋の疲労評価(第2報)

森田正治1, 吉村美香2, 中村朋博3, 村松慶紀4, 小林宏5 (1.国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科, 2.学校法人高木学園福岡国際医療福祉学院理学療法学科, 3.特定特別医療法人弘医会福岡鳥飼病院リハビリテーション科, 4.東京理科大学大学院工学研究科機械工学専攻, 5.東京理科大学工学部機械工学科)

キーワード:近赤外線分光法(NIRS), 筋疲労, 表面筋電図

【はじめに,目的】
これまで代謝活動に関して行われてきた運動負荷における研究として,疲労物質の一つである血中乳酸の測定や代謝の結果として発生する呼気ガス分析などが行われてきた。一方,表面筋電図上,筋疲労に伴い,そのパワースペクトルの高周波成分から低周波成分へと移行し,かつ表面筋電図の振幅が大きくなるとされている。近年,運動中の局所筋における酸素動態を非侵襲的かつリアルタイムに観察する方法として,近赤外分光法(以下NIRS)が用いられるようになってきた。NIRSは生体組織内のヘモグロビンが酸素との結合状態により近赤外光の吸収特性が異なることを利用して,非観血的に血中酸素動態を計測する光計測法である。脳活動のイメージングやリハビリテーション,スポーツ科学など幅広い分野での応用が期待されている。一方,NIRSを用い,血中酸素動態を計測した研究はいくつか存在し,NIRSによる筋疲労評価の可能性は示唆されているが,いまだに確立されたものはない。第48回日本理学療法士学術大会において,健常成人を対象に運動強度の違いによる上腕二頭筋の疲労状態について,NIRSを用いて血中酸素動態を計測し,表面筋電図との関連について報告した。今回,同様の運動強度で前脛骨筋の疲労状態について分析を行った。
【方法】
整形外科疾患を有さない健常男性13名(平均年齢24.8±6.7歳)を対象とし,前脛骨筋の皮膚に筋電図(日本光電社製WEB-7000)及びNIRS(Spectratech inc.社製OEG-16)のプローブを1組ずつ取り付けた。運動強度の設定は,BIODEX system3により,規定の肢位にて最大等尺性収縮(以下MVC)を3回測定し,得られた値のうち最大値をMVCとして採用した。十分に休息を入れた後,同一肢位にてまず20%MVCで30秒間の等尺性収縮運動を30秒間の休憩をはさみ3回計測し,3回目の20%MVC計測後60秒間の休憩を入れ,80%MVCでも同様に計測を行った。3回目の80%MVC終了後も60秒間は同一肢位のままNIRSの計測を行った。得られた筋電図は整流平滑化(以下ARV)を行い,これを動作時間で積分した値を積分筋電図(以下IEMG)として筋使用量の評価に使用した。その後,高速フーリエ変換(以下FFT)を用いて,筋電位のパワースペクトルの2秒毎の平均周波数(以下MPF)を算出した。また,筋電図測定と同時にNIRSの計測も行った。使用した装置では,770nmと840nmの2波長の近赤外線吸収係数を使用し,血中の酸素化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの濃度変化量(⊿Coxy・D,⊿Cdoxy・D)を算出し,その差(⊿Hb・D)を筋疲労の値として採用した。統計学的分析はDr SPSS IIを用い,運動強度及び施行回数によるMPFと⊿Hb・Dの分析として,二元配置分散分析を適用した。また,運動強度の違いによる経時的な疲労の変化はDunnett法による多重比較を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,国際医療福祉大学倫理審査委員会の審査承認を受けた(承認番号:11-182)。研究協力者には書面を用いて口頭で研究内容を説明し,同意書を取り交わした。
【結果】
各運動強度におけるIEMGは,20%MVCよりも80%MVCで有意に高値を示した。また,MPFは,20%MVCよりも80%MVCで有意に低値を示した。さらに,各運動強度での施行回数増加に伴うMPFは20%MVCよりも80%MVCの方で有意に低下した。一方,血中酸素動態⊿Coxy・D,⊿Cdoxy・Dは,20%MVCでは動作終了後から動作前の値に漸近したが,80%MVCでは時間経過とともに差を生じ,運動後の⊿Hb・Dは20%MVCよりも80%MVCで有意に高値を示した。施行回数に伴う⊿Hb・Dは,20%MVCでは有意に低下したが,80%MVCでは有意に増加した。
【考察】
筋電図のFFT解析において,20%MVCでは一部の対象を除き,施行回数が増えても測定時間内の変化を示さなかったことから筋疲労をきたすまでに至らなかったと推測される。逆に,80%MVCでは測定時間の後半になるほど低周波領域への移行傾向を示し,筋疲労を表していたと思われるが,MPFの低下率と施行回数増加との関連は認めなかった。一方,NIRSを用いた新たな評価指標⊿Hb・Dは,低負荷の場合は低値を,逆に高負荷の場合は高値を示した。このことからも比較する対象の⊿Hb・Dの値が疲労程度に深く関与していることが明確であり,NIRSは局所筋の疲労評価には有効であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
NIRSは小型軽量で操作も簡単であることに加え,局所筋の筋疲労を非侵襲的に観察でき,臨床上のトレーニング効果を客観的にとらえることが可能である。また,NIRSでは,筋電図ではとらえられない運動後の状態を測定でき,トレーニング後の疲労回復を血中酸素動態で評価することが容易であり,リハビリテーション領域における有用性が期待できる。