[1364] 痛覚誘発電位の呼吸性変動:sLORETAによる発生源の推定
キーワード:誘発電位, 痛覚刺激, 呼吸
【はじめに,目的】
われわれは一昨年や昨年の本学会で,痛み刺激に対する痛みの主観,痛覚誘発電位,交感神経活動が呼吸相で異なり,呼息の時に軽減することを報告してきた。今回は,痛み刺激を与えた際の脳活動領域の広がりや強さが呼吸相で異なるのかをsLORETA;standardized low resolution brain electromagnetic tomographyを用いて検討した。
【方法】
対象は健常人15名(19~21歳,男性13名)で,平均身長170.6(160~178)cmであった。被験者はヘッドレスト付の肘掛け椅子に座り,リラックスした状態を保った。左手背に表皮内電気刺激を与えて痛みを誘発し,被験者毎に痛みを感じる最小強度(痛覚閾値)を決定した。頭皮上31chから脳波,鼻孔から呼気CO2濃度を連続的に記録し,CO2濃度が20 mmHgを越えた時(呼息)か下回った時(吸息)に閾値の3~4倍強度で表皮内電気刺激した。刺激に対する慣れが生じないように1試行10分未満で,刺激間隔を数十秒あけて呼息,吸息各相10回刺激した。十分な休息をとり2試行を行い,各相で計20回の記録を得た。同様の実験を,閾値の強度と刺激強度0 mA(sham刺激)でも行った。
脳波は加算平均して,呼息時と吸息時刺激のそれぞれについて,刺激後170~190 ms(N200)と350~370 ms(P400)の脳内発生源をsLORETAを用いて痛み刺激とsham刺激の間で比較した。P400についてはさらに,呼息時と吸息時刺激の脳内発生源を比較した。また,痛覚誘発電位のCz記録でN200がしばしば不明瞭なため,N200明瞭群とN200不明瞭群とで脳活動領域について痛み刺激とsham刺激とを比較した。これらの解析は,無料のアカデミックソフトウェアであるLORETA-KEY(http://www.uzh.ch/keyinst/loreta.htm)を用いて行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属機関倫理委員会の承認を得ており,対象者には実験内容を十分に説明し,書面により同意を得た。
【結果】
本研究において,Cz記録でのN200が明瞭な(平均振幅-4 μV超)被験者は15名中9名で,不明瞭な(平均振幅0~-4 μV)被験者は6名であった。その振幅は明瞭群で-8.2±0.9 μV(mean±SE),不明瞭群で-0.9±0.6 μVであり,不明瞭群で小さかった。N200の明瞭,不明瞭にかかわらず,sham刺激に比べて痛み刺激時に前帯状皮質や上・中前頭回に発生源が推定されたが(p<.05),明瞭群では前頭葉凸面の活動が大きかった。呼息時,吸息時いずれの刺激においても,痛み刺激時とsham刺激時の間で有意差のある脳内活動領域を求めることができなった。
一方でP400については全例で明瞭に出現し,呼息時,吸息時ともにsham刺激時に比べ痛み刺激時で一次体性感覚野,二次体性感覚野,島,前帯状皮質,前頭前野などの広範な領域が活動した(p<.01)。また,痛み刺激時の脳内発生源を呼息時と吸息時で比較すると,呼息時に比べ吸息時の刺激では島前部および眼窩前頭皮質の活動が有意に強かった(p<.01)。
【考察】
本研究では痛み刺激に伴い,一次・二次体性感覚野,島,前帯状皮質,前頭前野などが活動した。これは,fMRIやPETを用いた先行研究と同様の結果であった。また,本研究では呼息時に比べ吸息時の刺激で島前部や眼窩前頭皮質に有意に大きな活動が認められた。これには,痛み刺激に伴うこれら領域の活動が吸息時に増大した可能性,あるいは呼息時に減少した可能性の2つが考えられる。昨年報告した健常者10例の検討では,閾値刺激200回中,呼息時で78%,吸息時では18%,痛みを生じず,その際の脳電位,交感神経反応のいずれも無反応であった。この結果は呼息時に痛覚情報が中枢神経系に入力しづらいことを示唆している。したがって,本研究の結果も吸息時に活動が増加したというよりは,呼息時に痛み情報がgatingされた結果,中枢神経系への痛覚入力が減少し,痛覚関連領域の活動が減少したと考えられる。
本研究では15名中6名の被験者でCz記録でのN200が不明瞭であった。呼吸相でのN200脳内発生源を特定できなかった背景には,このようなN200出現の個体差が影響していると考えられる。一方で,N200の明瞭,不明瞭にかかわらず痛みに関係する前帯状皮質は活動した。これらのことから,痛みの客観的評価にはN200よりP400を用いる方が妥当であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
われわれはこれまで,呼吸によって痛みの程度に変化が生じることを報告してきた。今回,その関連脳領域をsLORETAを用いて明らかにした。これらの研究結果は呼吸によって痛みを制御できることを示唆して
われわれは一昨年や昨年の本学会で,痛み刺激に対する痛みの主観,痛覚誘発電位,交感神経活動が呼吸相で異なり,呼息の時に軽減することを報告してきた。今回は,痛み刺激を与えた際の脳活動領域の広がりや強さが呼吸相で異なるのかをsLORETA;standardized low resolution brain electromagnetic tomographyを用いて検討した。
【方法】
対象は健常人15名(19~21歳,男性13名)で,平均身長170.6(160~178)cmであった。被験者はヘッドレスト付の肘掛け椅子に座り,リラックスした状態を保った。左手背に表皮内電気刺激を与えて痛みを誘発し,被験者毎に痛みを感じる最小強度(痛覚閾値)を決定した。頭皮上31chから脳波,鼻孔から呼気CO2濃度を連続的に記録し,CO2濃度が20 mmHgを越えた時(呼息)か下回った時(吸息)に閾値の3~4倍強度で表皮内電気刺激した。刺激に対する慣れが生じないように1試行10分未満で,刺激間隔を数十秒あけて呼息,吸息各相10回刺激した。十分な休息をとり2試行を行い,各相で計20回の記録を得た。同様の実験を,閾値の強度と刺激強度0 mA(sham刺激)でも行った。
脳波は加算平均して,呼息時と吸息時刺激のそれぞれについて,刺激後170~190 ms(N200)と350~370 ms(P400)の脳内発生源をsLORETAを用いて痛み刺激とsham刺激の間で比較した。P400についてはさらに,呼息時と吸息時刺激の脳内発生源を比較した。また,痛覚誘発電位のCz記録でN200がしばしば不明瞭なため,N200明瞭群とN200不明瞭群とで脳活動領域について痛み刺激とsham刺激とを比較した。これらの解析は,無料のアカデミックソフトウェアであるLORETA-KEY(http://www.uzh.ch/keyinst/loreta.htm)を用いて行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属機関倫理委員会の承認を得ており,対象者には実験内容を十分に説明し,書面により同意を得た。
【結果】
本研究において,Cz記録でのN200が明瞭な(平均振幅-4 μV超)被験者は15名中9名で,不明瞭な(平均振幅0~-4 μV)被験者は6名であった。その振幅は明瞭群で-8.2±0.9 μV(mean±SE),不明瞭群で-0.9±0.6 μVであり,不明瞭群で小さかった。N200の明瞭,不明瞭にかかわらず,sham刺激に比べて痛み刺激時に前帯状皮質や上・中前頭回に発生源が推定されたが(p<.05),明瞭群では前頭葉凸面の活動が大きかった。呼息時,吸息時いずれの刺激においても,痛み刺激時とsham刺激時の間で有意差のある脳内活動領域を求めることができなった。
一方でP400については全例で明瞭に出現し,呼息時,吸息時ともにsham刺激時に比べ痛み刺激時で一次体性感覚野,二次体性感覚野,島,前帯状皮質,前頭前野などの広範な領域が活動した(p<.01)。また,痛み刺激時の脳内発生源を呼息時と吸息時で比較すると,呼息時に比べ吸息時の刺激では島前部および眼窩前頭皮質の活動が有意に強かった(p<.01)。
【考察】
本研究では痛み刺激に伴い,一次・二次体性感覚野,島,前帯状皮質,前頭前野などが活動した。これは,fMRIやPETを用いた先行研究と同様の結果であった。また,本研究では呼息時に比べ吸息時の刺激で島前部や眼窩前頭皮質に有意に大きな活動が認められた。これには,痛み刺激に伴うこれら領域の活動が吸息時に増大した可能性,あるいは呼息時に減少した可能性の2つが考えられる。昨年報告した健常者10例の検討では,閾値刺激200回中,呼息時で78%,吸息時では18%,痛みを生じず,その際の脳電位,交感神経反応のいずれも無反応であった。この結果は呼息時に痛覚情報が中枢神経系に入力しづらいことを示唆している。したがって,本研究の結果も吸息時に活動が増加したというよりは,呼息時に痛み情報がgatingされた結果,中枢神経系への痛覚入力が減少し,痛覚関連領域の活動が減少したと考えられる。
本研究では15名中6名の被験者でCz記録でのN200が不明瞭であった。呼吸相でのN200脳内発生源を特定できなかった背景には,このようなN200出現の個体差が影響していると考えられる。一方で,N200の明瞭,不明瞭にかかわらず痛みに関係する前帯状皮質は活動した。これらのことから,痛みの客観的評価にはN200よりP400を用いる方が妥当であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
われわれはこれまで,呼吸によって痛みの程度に変化が生じることを報告してきた。今回,その関連脳領域をsLORETAを用いて明らかにした。これらの研究結果は呼吸によって痛みを制御できることを示唆して