[1366] 年代別,および利き足,非利き足における足趾運動覚についての検討
キーワード:足趾運動覚, 年代別, 利き足
【はじめに,目的】
近年,高齢者の転倒予防に対し,足趾の役割が注目されている。介護予防教室においても,タオルギャザー等のトレーニングや,履き物等の指導が積極的に取り入れられている。しかし,メカノレセプターの多数存在する足部においては,運動機能に加え,感覚的な要素もきわめて重要である。感覚には表在感覚と深部感覚があり,表在感覚については,モノフィラメントにより数量化された検査が行なわれているが,深部感覚に関しては数量化したものはみられず,未だ主観的な評価がなされている。我々は,DYJOCボード・プラスを利用して独自のプログラムを作成し,浮き趾例における足趾の運動覚について調査を行なっている。今回は,この検査による年代別の足趾運動覚および左右の足趾(利き足と非利き足)の運動覚について調査を行ない,注目すべき知見を得たので報告する。
【方法】
18歳~89歳の健常男女122名を対象とし,29歳以下(A群,25名),30~44歳(B群,24名),45歳~59歳(C群,27名),60歳~74歳(D群,21名),75歳以上(E群,25名)の5群に分類した。測定には酒井医療(株)製DYJOCボード・プラスを使用し,傾斜板を前後方向にのみ動くように設定した。被検者を椅子座位,膝関節90°屈曲位で足趾のみを傾斜板に載せ,中足骨付近から踵までは傾斜板と同じ高さの台に乗せた。課題としては画面に出現する目標点に足趾の底背屈運動のみで自分のカーソルを到達させる運動を行なわせ,目標点に到達後0.5秒保持されると次の目標点が出現するように設定した。目標点は,80°30°60°10°90°20°70°30°80°30°60°10°90°20°70°30°の順で出現し,計16回の施行とした。計測前に練習を行なった後,左右それぞれの足趾に対し計測を実施した。得られたデータから今回検討する項目は,足趾運動時間(全運動に要した時間)と足趾運動効率(目標点に到達する正確性)とした。この運動効率とはディジョックボード・プラスにおける解析項目の一つで,角度の変動を移動距離にみたて,始点からターゲット到達点間の直線距離に対しての移動効率を示し,100%に近いほど正確な運動が行なわれ,数値が小さくなるほど効率が悪いことになる。各群間における運動時間,運動効率について,それぞれ一元配置の分散分析を行ない,主効果の認められたものに対しては, Tukeyの多重比較検定を実施した。また,ボールを蹴る足を利き足,他方を非利き足として,群ごとに運動時間,運動効率に対し対応のあるt検定を実施し,利き足,非利き足の運動覚について検討した。なお,有意水準は,5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,T大学倫理審査委員会の承認を得ており,被験者に対しては口頭,書面にて説明を行ない,同意を得て実施した。
【結果】
運動時間,運動効率ともに,E群は他の群との間に有意差が見られ,運動時間は高値,運動効率は低値を示した(p<0.05)。また,A群とD群の間にも有意差が見られ,D群において,運動時間は高値,運動効率は低値を示した(p<0.05)。その他の群間には有意差は見られなかった。利き足と非利き足を比較したt検定の結果,D群,E群において,非利き足における運動時間の高値と運動効率の低値が有意であった(p<0.05)。A群,B群,C群においては,有意差は見られなかった。
【考察】
今回の結果から,E群いわゆる後期高齢者において,足趾の運動覚の低下が見られた。対象者は,特に重篤な下肢疾患のない者,認知症のない者としたが,この年代においては下肢に退行性病変を有し,メカノレセプターの機能低下が生じていることや,運動覚のみではなく,運動調整に必要な足趾の可動性,筋力や柔軟性が低下していることが伺える。さらに注目すべきことは,高齢者においては利き足と非利き足に有意差が見られたことである。利き足は「機能脚」と言われ,運動遂行能力や足関節の反応時間,垂直跳躍力等に,非利き足は「支持脚」と言われ,体重を支持に,それぞれ優位性が報告されており,両者が協調することで,円滑な運動が遂行されている。しかし実際には,大腿四頭筋力や足趾把持力に左右差がないという報告も多く,これが,左右対称に行われる正常歩行を可能にしているとも考えられる。いずれにしても,非利き足の運動覚の低下は,この協調性や対称性を乱し,高齢者の転倒につながる一つの要因になる可能性があるのではないかと推察する。
【理学療法学研究としての意義】
高齢者転倒予防に対する足趾へのアプローチは,足趾把持力の向上に加え,足趾運動覚を向上させるようなものも重要である。また,運動覚が低下するだけではなく,左右差が出現することが確認でき,転倒に対する一要因になる可能性が示唆された。
近年,高齢者の転倒予防に対し,足趾の役割が注目されている。介護予防教室においても,タオルギャザー等のトレーニングや,履き物等の指導が積極的に取り入れられている。しかし,メカノレセプターの多数存在する足部においては,運動機能に加え,感覚的な要素もきわめて重要である。感覚には表在感覚と深部感覚があり,表在感覚については,モノフィラメントにより数量化された検査が行なわれているが,深部感覚に関しては数量化したものはみられず,未だ主観的な評価がなされている。我々は,DYJOCボード・プラスを利用して独自のプログラムを作成し,浮き趾例における足趾の運動覚について調査を行なっている。今回は,この検査による年代別の足趾運動覚および左右の足趾(利き足と非利き足)の運動覚について調査を行ない,注目すべき知見を得たので報告する。
【方法】
18歳~89歳の健常男女122名を対象とし,29歳以下(A群,25名),30~44歳(B群,24名),45歳~59歳(C群,27名),60歳~74歳(D群,21名),75歳以上(E群,25名)の5群に分類した。測定には酒井医療(株)製DYJOCボード・プラスを使用し,傾斜板を前後方向にのみ動くように設定した。被検者を椅子座位,膝関節90°屈曲位で足趾のみを傾斜板に載せ,中足骨付近から踵までは傾斜板と同じ高さの台に乗せた。課題としては画面に出現する目標点に足趾の底背屈運動のみで自分のカーソルを到達させる運動を行なわせ,目標点に到達後0.5秒保持されると次の目標点が出現するように設定した。目標点は,80°30°60°10°90°20°70°30°80°30°60°10°90°20°70°30°の順で出現し,計16回の施行とした。計測前に練習を行なった後,左右それぞれの足趾に対し計測を実施した。得られたデータから今回検討する項目は,足趾運動時間(全運動に要した時間)と足趾運動効率(目標点に到達する正確性)とした。この運動効率とはディジョックボード・プラスにおける解析項目の一つで,角度の変動を移動距離にみたて,始点からターゲット到達点間の直線距離に対しての移動効率を示し,100%に近いほど正確な運動が行なわれ,数値が小さくなるほど効率が悪いことになる。各群間における運動時間,運動効率について,それぞれ一元配置の分散分析を行ない,主効果の認められたものに対しては, Tukeyの多重比較検定を実施した。また,ボールを蹴る足を利き足,他方を非利き足として,群ごとに運動時間,運動効率に対し対応のあるt検定を実施し,利き足,非利き足の運動覚について検討した。なお,有意水準は,5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,T大学倫理審査委員会の承認を得ており,被験者に対しては口頭,書面にて説明を行ない,同意を得て実施した。
【結果】
運動時間,運動効率ともに,E群は他の群との間に有意差が見られ,運動時間は高値,運動効率は低値を示した(p<0.05)。また,A群とD群の間にも有意差が見られ,D群において,運動時間は高値,運動効率は低値を示した(p<0.05)。その他の群間には有意差は見られなかった。利き足と非利き足を比較したt検定の結果,D群,E群において,非利き足における運動時間の高値と運動効率の低値が有意であった(p<0.05)。A群,B群,C群においては,有意差は見られなかった。
【考察】
今回の結果から,E群いわゆる後期高齢者において,足趾の運動覚の低下が見られた。対象者は,特に重篤な下肢疾患のない者,認知症のない者としたが,この年代においては下肢に退行性病変を有し,メカノレセプターの機能低下が生じていることや,運動覚のみではなく,運動調整に必要な足趾の可動性,筋力や柔軟性が低下していることが伺える。さらに注目すべきことは,高齢者においては利き足と非利き足に有意差が見られたことである。利き足は「機能脚」と言われ,運動遂行能力や足関節の反応時間,垂直跳躍力等に,非利き足は「支持脚」と言われ,体重を支持に,それぞれ優位性が報告されており,両者が協調することで,円滑な運動が遂行されている。しかし実際には,大腿四頭筋力や足趾把持力に左右差がないという報告も多く,これが,左右対称に行われる正常歩行を可能にしているとも考えられる。いずれにしても,非利き足の運動覚の低下は,この協調性や対称性を乱し,高齢者の転倒につながる一つの要因になる可能性があるのではないかと推察する。
【理学療法学研究としての意義】
高齢者転倒予防に対する足趾へのアプローチは,足趾把持力の向上に加え,足趾運動覚を向上させるようなものも重要である。また,運動覚が低下するだけではなく,左右差が出現することが確認でき,転倒に対する一要因になる可能性が示唆された。