第49回日本理学療法学術大会

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生体評価学1

2014年6月1日(日) 09:30 〜 10:20 ポスター会場 (基礎)

座長:桒原慶太(北里大学メディカルセンターリハビリテーションセンター)

基礎 ポスター

[1367] 脳卒中後の抑うつ症状とアパシーの関連要因

北地雄, 鈴木淳志, 尾崎慶多, 高橋美晴, 柴田諭史, 原島宏明, 新見昌央, 宮野佐年 (総合東京病院リハビリテーション科)

キーワード:脳卒中, 抑うつ症状, アパシー

【目的】脳卒中後の抑うつ症状とアパシーはよく知られた症状であり,機能回復を阻害する因子であるといわれている。脳卒中後の抑うつ症状とアパシーはその神経基盤や責任病巣,さらには脳卒中後の回復の程度が異なり,これらの症状は一部オーバーラップしつつ別々に存在することが示唆されている。これらのことは,抑うつ症状とアパシーを別々に評価し,症状に合わせた治療の必要性があることを示唆する。本研究の目的は,脳卒中後回復期の抑うつ症状とアパシーおよび,それらと身体機能,日常生活動作,QOLとの関連を調査することである。
【方法】対象は2013年6月以降に脳卒中により当院回復期病棟に入院した,同意のもとCES-D(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)とやる気スコアの聴取が可能であった連続症例23名(内訳:男性20名,女性3名,年齢69.9±13.8歳,発症からの期間27.6±19.5日,右半球病巣6名,左半球病巣6名,両側3名,脳幹6名,小脳2名,MMSE25.9±4.6点)であった。抑うつ症状の評価としてCES-Dを,アパシーの評価としてやる気スコアを,身体機能の評価としてFBS,10m歩行,TUG,膝伸展筋力,下肢BS(Brunnstrom stage),上肢FMA(Fugl-Meyer Assessment),ABMS(Ability for Basic Movement Scale)を,日常生活の評価としてBI,mRSを,QOLの評価としてSS-QOL(Stroke Specific Quality of Life)をその他にVitality Indexや自尊感情尺度などを調査した。CES-Dおよびやる気スコアとも16点をカットオフとして採用し,それぞれ抑うつ症状の有無,アパシーの有無を判断した。統計学的解析はCES-Dとやる気スコア,およびそれらと各調査測定項目との関連を相関係数にて検討した。そして,抑うつ症状の有無およびアパシーの有無で各調査測定項目の群間比較を行った。抑うつ症状およびアパシーに影響の強い変数を抽出するため,それぞれと相関を認めた項目を独立変数とした回帰分析(ステップワイズ法)も行った。SPSS version 17.0を用い5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮】本研究は,当院リハビリテーション科における標準的評価のデータベースからの解析であり,全て匿名化された既存データのみで検討を行った。
【結果】抑うつ症状およびアパシーとも,有りは8名,無しは15名であり,うち抑うつ症状およびアパシーのどちらか一方のみを呈していたのは4名であった。どちらも発生率は約35%となった。抑うつ症状およびアパシーのどちらか一方,および両方を呈するものは12名であり,発生率は約52%であった。抑うつ症状を評価するCES-DはSS-QOL(下位項目は気分,視覚),自尊感情尺度と,アパシーを評価するやる気スコアはSS-QOL(下位項目は社会的役割,思考),ABMS,非麻痺側膝伸展筋力,Vitality Index,年齢と相関を認めた。抑うつ症状の有無による二群間の比較はCES-Dのみに有意差を認めた。アパシーの有無による比較ではCES-D,やる気スコア,SS-QOL(下位項目はセルフケア,思考,上肢機能),麻痺側膝伸展筋力,自尊感情尺度に有意差を認めた。CES-Dと相関を認めた項目との回帰分析の結果,気分が抽出された(調整済みR2=0.239,標準偏回帰係数-0.530)。一方,やる気スコアでは年齢が抽出された(調整済みR2=0.215,標準偏回帰係数0.511)。
【考察】濱らの先行研究と一致し,抑うつ症状とアパシーは一部オーバーラップしつつ別々に存在していた。出現率は抑うつおよびアパシーともに約35%であり,これもおよそ先行研究と一致した。CES-Dおよびやる気スコアの両方と相関を認めたのはSS-QOLのみであり,抑うつ症状,アパシーともにQOLに与える影響が大きいことが示唆された。また,QOL以外にもそれぞれ気分や年齢からの影響も大きいことが示唆された。一方で身体機能評価や日常生活評価の指標との関連は少なく,発症後比較的早期からそれらと抑うつ症状およびアパシーが関連しない可能性を示唆する。症状の有り無しで比較するとアパシーの方が有意差を認めた項目が多かった。このことは抑うつ気分よりもアパシー,すなわち意欲低下の方が即時的に身体機能や日常生活に影響を与える可能性を示唆する。また,抑うつの程度と自尊感情の程度は関連を示し,アパシーを呈さない群より有する群は自尊感情が低かった。このことは脳卒中というイベントが自己に対する評価感情を変えうることを示唆する。
【理学療法学研究としての意義】縦断的研究から抑うつ症状やアパシーが脳卒中の回復に影響を与えることは明白である。本研究は脳卒中発症の比較的早期から抑うつ症状とアパシーが一部オーバーラップしつつ別々に存在することを確認した。このことは早期からそれぞれを評価し,個人に合わせた治療戦略を立てる必要性を示唆するものである。