第49回日本理学療法学術大会

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生体評価学1

2014年6月1日(日) 09:30 〜 10:20 ポスター会場 (基礎)

座長:桒原慶太(北里大学メディカルセンターリハビリテーションセンター)

基礎 ポスター

[1368] 嚥下に関係する脳領域の加齢変化

玉利誠1,2,3, 宇都宮英綱2, 高橋精一郎2 (1.福岡国際医療福祉学院, 2.国際医療福祉大学大学院, 3.久留米大学バイオ統計センター)

キーワード:嚥下, 加齢, 拡散テンソル

【はじめに】
一般に,高齢者は嚥下機能が低下すると考えられており,加齢は誤嚥のリスクファクターの一つとされている。近年のf-MRIを用いた研究により,嚥下時に多数の脳領域が活動することが知られているが,先行研究のほとんどが若年者を対象としており,嚥下に関係する脳領域の加齢に伴う器質的変化については明らかにされていない。そこで本研究では,嚥下に関係すると考えられている脳領域の加齢変化を,拡散テンソル解析から得られる各種定量値を用いて客観的に捉えることを目的とした。
【方法】
対象は,F病院予防医学センターの脳ドック受診者で,27~75歳(49.1±8.53歳)の健常成人48名(男性37名,女性11名)とした。対象者は全例右利きで,頭部MRI画像に明らかな異常所見を認めず,反復唾液飲みテストにより嚥下機能が正常と判定されることを条件とした。静磁場強度1.5TMRI(PHLIPS社製Achieva 1.5T)を用い,Single shot EPI,スライス厚3.6mm,FOV 224×224mm,画素128×128,b値=800,MPG傾斜磁場15軸にて,拡散強調画像と拡散テンソル画像を撮像した。加えて,T1強調画像,T2強調画像,FLAIR画像を撮像した。撮像は放射線技師が行った。撮像されたFLAIR画像を神経放射線科医とともに視覚的に評価し,脳室周囲病変(Periventricular Hyperintensity;PVH),及び深部皮質下白質病変(Deep and Subcortical White Matter Hyperintensity;DSWMH)について5段階でグレード判定を行った。その後,PHLIPS社製EXTENDED MR WORK SPACE R2.6.3.1を用い,嚥下に関係すると考えられている脳領域(帯状束,内包前脚,内包膝,内包後脚,尾状核,被殻,視床,島)を関心領域とし,拡散異方性(fractional anisotropy;FA)とみかけの拡散係数(apparent diffusion coefficient;ADC)の値を抽出した。統計学的処理として,年齢とPVH・DSWMHのグレード,及び,年齢と関心領域のFA値・ADC値について,Spearmanの順位相関係数を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,本大学の倫理審査委員会,及びF病院の倫理審査委員会の承認を受け,すべての対象者に研究の目的と方法を十分に説明し,同意を得たうえで行った。
【結果】
年齢とPVH・DSWMHのグレードとの間に関連が認められた(r=0.509,p<0.001)。また,年齢と両側視床,及び右側帯状束のADC値との間に関連が認められた(左側視床:r=0.305,p<0.05,右側視床:r=0.342,p<0.05,右側帯状束:r=0.303,p<0.05)。その他の関心領域については,FA値・ADC値ともに関連は認められなかった。
【考察】
加齢に伴う脳の器質的変化として,組織学的な脱髄やグリオーシスが考えられている。本研究においても,年齢とPVH・DSWMHのグレードが関連したことから,加齢に伴う脳の器質的変化が支持された。また,拡散テンソル解析は生体内の水分子の拡散現象を非侵襲的に測定するため,髄鞘の希薄化によりFA値の低下やADC値の増加が認められることが知られている。本研究では年齢と両側視床,及び右側帯状束のADC値との間に正の相関が認められたが,f-MRIを用いた先行研究により,視床は嚥下時に両側性に活動し,随意的な嚥下においてより大きな活動を示すとされている。また,帯状束は近傍の帯状回から広範囲に投射路を集め,前後の帯状回を連絡する矢状方向の線維であり,前部帯状回は嚥下に先立つ食物の認識や注意,感情,自律神経反応,運動計画と運動開始に関与し,後部帯状回は感覚を用いた嚥下の制御に関与していると考えられている。これらのことから,加齢に伴う視床と帯状束の器質的変化が,嚥下機能に何らかの影響を及ぼす可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
訪問リハビリテーションの普及に伴い,理学療法士が咽頭期嚥下に問題を抱える対象者と接する機会が増えている。本研究は,嚥下に関係する脳領域の加齢変化に関する基礎的研究であり,従来の撮像法では指摘できなかった脳の器質的変化を客観的に捉えることにより,加齢によって生じる誤嚥の臨床診断や画像診断の一助となると考える。