[1369] 健常者と変形性股関節症患者における前額面の自覚的身体垂直認知の差異
キーワード:垂直認知, 変形性股関節症, 健常者
【はじめに,目的】
変形性股関節症(Hip OsteoArthrities以下,HOA)では疼痛・筋力低下・可動域制限・脚長差など様々な原因による代償的な姿勢戦略の影響で体幹や下肢の左右非対称性を有することが多く,これが慢性化することで立位姿勢や歩行にも影響を与えていると考えられる。臨床上人工股関節置換術(以下,THA)後で股関節機能が改善し脚長補正された患者で立位姿勢や歩行において自己の身体が傾いているにもかかわらず垂直と判断する症例を経験する。HOA患者での体の傾きに関する先行研究はほとんどなく,今回脚長の影響のない座位にて身体軸を測定し健常者・HOA患者における差異を比較・検討した。
【方法】
対象は,骨関節疾患および神経疾患を有さない健常成人5名(年齢57.2±4.7歳,身長154.2±6.4cm,体重51.4±10.2kg,女性5名)・THA目的で入院した患者6名(年齢64.2±3.9歳,身長156.2±6.2cm,体重52.6±5.8kg,女性6名)とし主観的視覚的垂直(以下Subjective Visual Vertical;SVV)・主観的身体垂直認知(以下Subjective Postural Vertical;SPV)を測定した。
対象者を垂直認知測定機器(以下,Vertical board;VB)に足部非接地で座らせ,体幹をベルトで固定した。座面の開始位置は,前額面で左右15°,20°傾けた位置とし,検者が開始肢位から反対方向に2.5°/秒の速さで座面を傾けた。対象者は垂直と判断した位置で合図をし,その際の角度をVBに設置されたデジタル角度計(マイゾックス社製)から記録した。角度の定義は,鉛直位を0°として,健常者は右側へ偏倚していた場合はプラス,左側はマイナスとし,変股患者は罹患側をプラス,非罹患側をマイナスとした。開眼・閉眼にてそれぞれSVV・SPVの測定を計16回行なった。開始位置・開閉眼の測定順序は,開始角度(15°・20°),開閉眼がpseudo-randomになるようABBA法を用いて設定した。
得られたデータから,方向性の誤差を示す傾斜方向性は健常者・変股患者のそれぞれSVV8回・SPV8回から中央値を算出し,分散の大きさを示す動揺性は標準誤差を算出した。健常者SVVと変股患者SVV・健常者SPVと変股患者SPVのそれぞれの差をMann-Whitney U testを用い,統計学的有意水準は5%とし算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究の実施に際しては,当院の倫理委員会の承認のもと,すべての対象者に事前に本研究の目的・方法・研究への参加の任意性と同意撤回の自由,プライバシー保護についての十分な説明を行い,同意を得られた者のみ行った。
【結果】
傾斜方向性は健常者のSVVで-0.2±1.5°(mean±SD),SPVで0.5±1.6°,HOA患者のSVVで-0.9±2.2°,SPVで-0.4±1.6°,動揺性は健常者SVVで0.4±0.1,SPVで0.6±0.1,HOA患者のSVVで0.8±0.1,SPVで0.3±0.3であった。傾斜方向性ではSVV・SPVともに有意差を認めなかった。動揺性においてSPVは差を認めなかったが健常者SVVとHOA患者SVVにおいて有意差を認めた(p<0.05)。
【考察】
垂直認知の偏倚は脳損傷後の患者ではしばしばみられるが,HOA患者での検討はほとんどなく,今回健常者群・HOA群での比較・検討を行なった。
今回の結果より,動揺性において健常者SVVとHOA患者SVVにおいて有意差を認めた。HOAでは病態進行に伴い,関節軟骨退行変性や摩耗といった関節破壊や臼蓋や大腿骨頭の変形など構築学的変化が生じ,股関節の疼痛,可動域制限,筋力低下などを来し股関節機能の低下を招く。その影響は運動連鎖により隣接する骨盤,体幹にも波及している。これに加え歩行障害は長年の動作異常による身体イメージの変容や中枢神経系の誤った運動学習の繰り返しにより形成されると考えられる(奥村2009)。長年の経過によりこのような状態が慢性化することで身体軸の偏倚が生じ,平均としてはある程度視覚垂直は保たれるが,判断のばらつきは大きくなったと考えられる。また有意差はないものの傾斜方向性においてHOAでは非罹患側へ身体軸が傾いている傾向がみられた。今回,脳損傷のない慢性疾患などでも垂直認知の判断に影響を及ぼすことがわかった。その他,垂直認知に関係する因子や,術後の変化などに関して今回は明らかに出来なかったため,今後検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
主観的な判断によるSVV・SPVの偏倚の評価の確立により今後理学療法の効果判定や治療戦略の構築に大きく寄与することと考えられる。
変形性股関節症(Hip OsteoArthrities以下,HOA)では疼痛・筋力低下・可動域制限・脚長差など様々な原因による代償的な姿勢戦略の影響で体幹や下肢の左右非対称性を有することが多く,これが慢性化することで立位姿勢や歩行にも影響を与えていると考えられる。臨床上人工股関節置換術(以下,THA)後で股関節機能が改善し脚長補正された患者で立位姿勢や歩行において自己の身体が傾いているにもかかわらず垂直と判断する症例を経験する。HOA患者での体の傾きに関する先行研究はほとんどなく,今回脚長の影響のない座位にて身体軸を測定し健常者・HOA患者における差異を比較・検討した。
【方法】
対象は,骨関節疾患および神経疾患を有さない健常成人5名(年齢57.2±4.7歳,身長154.2±6.4cm,体重51.4±10.2kg,女性5名)・THA目的で入院した患者6名(年齢64.2±3.9歳,身長156.2±6.2cm,体重52.6±5.8kg,女性6名)とし主観的視覚的垂直(以下Subjective Visual Vertical;SVV)・主観的身体垂直認知(以下Subjective Postural Vertical;SPV)を測定した。
対象者を垂直認知測定機器(以下,Vertical board;VB)に足部非接地で座らせ,体幹をベルトで固定した。座面の開始位置は,前額面で左右15°,20°傾けた位置とし,検者が開始肢位から反対方向に2.5°/秒の速さで座面を傾けた。対象者は垂直と判断した位置で合図をし,その際の角度をVBに設置されたデジタル角度計(マイゾックス社製)から記録した。角度の定義は,鉛直位を0°として,健常者は右側へ偏倚していた場合はプラス,左側はマイナスとし,変股患者は罹患側をプラス,非罹患側をマイナスとした。開眼・閉眼にてそれぞれSVV・SPVの測定を計16回行なった。開始位置・開閉眼の測定順序は,開始角度(15°・20°),開閉眼がpseudo-randomになるようABBA法を用いて設定した。
得られたデータから,方向性の誤差を示す傾斜方向性は健常者・変股患者のそれぞれSVV8回・SPV8回から中央値を算出し,分散の大きさを示す動揺性は標準誤差を算出した。健常者SVVと変股患者SVV・健常者SPVと変股患者SPVのそれぞれの差をMann-Whitney U testを用い,統計学的有意水準は5%とし算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究の実施に際しては,当院の倫理委員会の承認のもと,すべての対象者に事前に本研究の目的・方法・研究への参加の任意性と同意撤回の自由,プライバシー保護についての十分な説明を行い,同意を得られた者のみ行った。
【結果】
傾斜方向性は健常者のSVVで-0.2±1.5°(mean±SD),SPVで0.5±1.6°,HOA患者のSVVで-0.9±2.2°,SPVで-0.4±1.6°,動揺性は健常者SVVで0.4±0.1,SPVで0.6±0.1,HOA患者のSVVで0.8±0.1,SPVで0.3±0.3であった。傾斜方向性ではSVV・SPVともに有意差を認めなかった。動揺性においてSPVは差を認めなかったが健常者SVVとHOA患者SVVにおいて有意差を認めた(p<0.05)。
【考察】
垂直認知の偏倚は脳損傷後の患者ではしばしばみられるが,HOA患者での検討はほとんどなく,今回健常者群・HOA群での比較・検討を行なった。
今回の結果より,動揺性において健常者SVVとHOA患者SVVにおいて有意差を認めた。HOAでは病態進行に伴い,関節軟骨退行変性や摩耗といった関節破壊や臼蓋や大腿骨頭の変形など構築学的変化が生じ,股関節の疼痛,可動域制限,筋力低下などを来し股関節機能の低下を招く。その影響は運動連鎖により隣接する骨盤,体幹にも波及している。これに加え歩行障害は長年の動作異常による身体イメージの変容や中枢神経系の誤った運動学習の繰り返しにより形成されると考えられる(奥村2009)。長年の経過によりこのような状態が慢性化することで身体軸の偏倚が生じ,平均としてはある程度視覚垂直は保たれるが,判断のばらつきは大きくなったと考えられる。また有意差はないものの傾斜方向性においてHOAでは非罹患側へ身体軸が傾いている傾向がみられた。今回,脳損傷のない慢性疾患などでも垂直認知の判断に影響を及ぼすことがわかった。その他,垂直認知に関係する因子や,術後の変化などに関して今回は明らかに出来なかったため,今後検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
主観的な判断によるSVV・SPVの偏倚の評価の確立により今後理学療法の効果判定や治療戦略の構築に大きく寄与することと考えられる。