[1371] 医療療養病床における理学療法実態調査
キーワード:医療療養病床, ADL重症度, 多施設間調査
【目的】
維持期リハビリテーションにおいて,医療依存度が高く在宅での療養生活が困難な対象者は療養病床に入院していることが多く,日常生活活動(以下;ADL)にも多くの制限があり,特に重度化した症例に対する理学療法の効果が示しにくいことを経験する。このような実情に関し単一施設での実践報告はあるものの,多施設による調査は少ないのが現状である。そこで療養病床における理学療法の実態調査を行ない,ADL重症度別の実践内容やその効果判定について,まとめたので報告する。
【方法】
一般社団法人兵庫県理学療法士会(以下;県士会)の会員名簿より,兵庫県阪神地区にある療養病床を有する病院に調査協力を依頼し,了承の得られた7施設62名に調査用紙を郵送した。理学療法を終了した直近の2症例の理学療法施行前後のADL区分点数(後述),理学療法の内容,理学療法の効果判定指標としたものについて回答を求め,無記名にて返送を依頼した。
【説明と同意】
本研究は神戸学院大学倫理審査委員会(承認番号HEB130417-2)の承認を得ている。対象者の人権擁護に関しては,個人情報保護法に則り,調査票の返信を以て同意したものとみなした。また会員名簿の使用については県士会理事会にて承認を得た。
【結果】
42名から調査表が返送された(回収率67.7%,年齢20歳代16名,30歳代20名,40歳代5名,50歳代1名)症例数は82症例であり,記載漏れのあるものを除く79例を分析した。
理学療法開始時のADL区分点数は,重度群(ADL区分3:24-23点)33例,中等度群(ADL区分2:22-11点)34例,軽度群(ADL区分1:10-0点)13例であり,ADL区分3群に対して,理学療法の内容と効果判定について,χ2検定を行った。解析はSPSS ver.18 J for Windowsを用い,有意水準は5%とした。
理学療法の内容は,軽度群ほど筋力強化,立位練習,寝返り練習,起き上がり練習,歩行練習を行っていた。また,重度群ほど体位変換,座位練習,車椅子乗車を行っており,入浴動作,排泄動作練習は行っていなかった。その他は有意差が認められなかった。
効果判定に使用した指標は,軽度群ほど筋力・筋持久力,基本動作,ADL指標を用いており,重度群ほど車椅子乗車回数を用いている。その他は有意差が認められなかった。
【考察】
療養病床の理学療法実践において,軽度群では筋力強化,立位練習,寝返り動作,起き上がり動作,歩行練習を行っている。つまり機能障害へのアプローチと並行して基本動作の練習を行いADLの改善を目指しているものと思われる。一方の重度群では,体位変換,座位練習,車椅子乗車練習を主として行なっている。今村は療養病床死亡退院例の約2割は肺炎が原因であり,全身調整運動や車椅子座位等の自動・他動運動の重要性を示している。今回の調査でも,離床を促していく目的の全身調整運動を行なっていると思われる。その結果,二次的障害である褥瘡の予防や肺炎の予防等をも目指していると考えられる。入浴・排泄動作に対する理学療法は,重度群に対しては行われていなかった。これは,ADL障害が重度であるため,特別浴槽の利用やバルーンを留置していることが予測され,理学療法の関与が少なかったためと思われる。
効果判定に関しては軽度群ほど,筋力・筋持久力,基本動作,ADLの変化を指標として用いている。つまり,理学療法の内容と同様に,軽度群では機能レベルの改善が基本動作,ADLに反映されることが予測されるため,効果判定として使用されるのであろう。一方,重度群では車椅子乗車の回数を用いている。当初,われわれはADLが重度でほぼ臥床状態にある症例に対しては,QOLの向上を意図したコミュニケーションや反応の変化等を効果判定指標として捉えているのではないかと予測していた。しかし今回の調査で重症例に対しては車椅子乗車回数を全身状態の指標にし,全身状態を管理し離床を図りQOLを向上させようとしていることが分かった。
療養病床において,主にADL軽症例は機能障害レベルから基本動作に着目し理学療法を実践している。重症例において機能障害レベルや基本動作での変化が求めにくい場合でも,車椅子の乗車回数といった全身状態の安定性に左右される指標にし,全身状態の管理にも重点を置きながら理学療法を実践していることが確認された。
【理学療法学研究としての意義】
療養病床における理学療法の実態に関し,多施設間調査を行った。療養病床で行われている理学療法の実態を明らかにしたという点で意義あるものと思われる。
維持期リハビリテーションにおいて,医療依存度が高く在宅での療養生活が困難な対象者は療養病床に入院していることが多く,日常生活活動(以下;ADL)にも多くの制限があり,特に重度化した症例に対する理学療法の効果が示しにくいことを経験する。このような実情に関し単一施設での実践報告はあるものの,多施設による調査は少ないのが現状である。そこで療養病床における理学療法の実態調査を行ない,ADL重症度別の実践内容やその効果判定について,まとめたので報告する。
【方法】
一般社団法人兵庫県理学療法士会(以下;県士会)の会員名簿より,兵庫県阪神地区にある療養病床を有する病院に調査協力を依頼し,了承の得られた7施設62名に調査用紙を郵送した。理学療法を終了した直近の2症例の理学療法施行前後のADL区分点数(後述),理学療法の内容,理学療法の効果判定指標としたものについて回答を求め,無記名にて返送を依頼した。
【説明と同意】
本研究は神戸学院大学倫理審査委員会(承認番号HEB130417-2)の承認を得ている。対象者の人権擁護に関しては,個人情報保護法に則り,調査票の返信を以て同意したものとみなした。また会員名簿の使用については県士会理事会にて承認を得た。
【結果】
42名から調査表が返送された(回収率67.7%,年齢20歳代16名,30歳代20名,40歳代5名,50歳代1名)症例数は82症例であり,記載漏れのあるものを除く79例を分析した。
理学療法開始時のADL区分点数は,重度群(ADL区分3:24-23点)33例,中等度群(ADL区分2:22-11点)34例,軽度群(ADL区分1:10-0点)13例であり,ADL区分3群に対して,理学療法の内容と効果判定について,χ2検定を行った。解析はSPSS ver.18 J for Windowsを用い,有意水準は5%とした。
理学療法の内容は,軽度群ほど筋力強化,立位練習,寝返り練習,起き上がり練習,歩行練習を行っていた。また,重度群ほど体位変換,座位練習,車椅子乗車を行っており,入浴動作,排泄動作練習は行っていなかった。その他は有意差が認められなかった。
効果判定に使用した指標は,軽度群ほど筋力・筋持久力,基本動作,ADL指標を用いており,重度群ほど車椅子乗車回数を用いている。その他は有意差が認められなかった。
【考察】
療養病床の理学療法実践において,軽度群では筋力強化,立位練習,寝返り動作,起き上がり動作,歩行練習を行っている。つまり機能障害へのアプローチと並行して基本動作の練習を行いADLの改善を目指しているものと思われる。一方の重度群では,体位変換,座位練習,車椅子乗車練習を主として行なっている。今村は療養病床死亡退院例の約2割は肺炎が原因であり,全身調整運動や車椅子座位等の自動・他動運動の重要性を示している。今回の調査でも,離床を促していく目的の全身調整運動を行なっていると思われる。その結果,二次的障害である褥瘡の予防や肺炎の予防等をも目指していると考えられる。入浴・排泄動作に対する理学療法は,重度群に対しては行われていなかった。これは,ADL障害が重度であるため,特別浴槽の利用やバルーンを留置していることが予測され,理学療法の関与が少なかったためと思われる。
効果判定に関しては軽度群ほど,筋力・筋持久力,基本動作,ADLの変化を指標として用いている。つまり,理学療法の内容と同様に,軽度群では機能レベルの改善が基本動作,ADLに反映されることが予測されるため,効果判定として使用されるのであろう。一方,重度群では車椅子乗車の回数を用いている。当初,われわれはADLが重度でほぼ臥床状態にある症例に対しては,QOLの向上を意図したコミュニケーションや反応の変化等を効果判定指標として捉えているのではないかと予測していた。しかし今回の調査で重症例に対しては車椅子乗車回数を全身状態の指標にし,全身状態を管理し離床を図りQOLを向上させようとしていることが分かった。
療養病床において,主にADL軽症例は機能障害レベルから基本動作に着目し理学療法を実践している。重症例において機能障害レベルや基本動作での変化が求めにくい場合でも,車椅子の乗車回数といった全身状態の安定性に左右される指標にし,全身状態の管理にも重点を置きながら理学療法を実践していることが確認された。
【理学療法学研究としての意義】
療養病床における理学療法の実態に関し,多施設間調査を行った。療養病床で行われている理学療法の実態を明らかにしたという点で意義あるものと思われる。