第49回日本理学療法学術大会

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生体評価学2

2014年6月1日(日) 09:30 〜 10:20 ポスター会場 (基礎)

座長:丸山倫司(九州中央リハビリテーション学院理学療法学科)

基礎 ポスター

[1372] 横隔膜の移動距離と換気量の関係

堀本佳誉1, 吉田晋1, 大谷拓哉2, 三和真人2 (1.北海道医療大学リハビリテーション科学部理学療法学科, 2.千葉県立保健医療大学健康科学部リハビリテーション学科)

キーワード:超音波, 横隔膜, 換気量

【目的】
重症心身障害児・者(以下,重症児者)は呼吸器機能障害の発生頻度が高く,その主な原因に脊柱と胸郭の変形により生じる胸郭と横隔膜の運動制限があげられる。よって,重症児者の呼吸機能障害の発生頻度を低くするためには,胸郭と横隔膜の運動制限を早期に発見し,早期に対応する必要がある。
従来,横隔膜の運動は放射線による透視下にて計測されてきた。また,胸郭や横隔膜の運動を同時に,非侵襲的に計測する方法としてMRIが用いられている。しかし,各検査とも所用時間や設備,費用上の制限が大きいため,臨床的利用としては実用性に乏しい。
近年,横隔膜の移動距離を簡便,非侵襲的に計測する方法として,超音波画像診断装置が用いられている。そこで本研究では,超音波画像診断装置を用いて計測された横隔膜の移動距離と,その際の換気量の関係を明らかにする。
【方法】
対象は,呼吸機能検査を行い,呼吸機能に問題の無いことが確認された健常成人10名(22.2±0.1歳)とした。計測は背臥位で行った。被験者は安静呼吸を基準として,任意に5段階で徐々に換気量を増加させた。これを3セット行うこととし,この際の横隔膜の移動距離および換気量を計測した(以下pre test)。また,1日以上間隔を開けた後,再度同様の計測を行った(以下post test)。
横隔膜の移動距離は,コンベックス型プローブ(2.8-5.0Hz)を接続した超音波画像診断装置(本多電子社製HS2100)を用いて計測を行った。計測の際には,B-mode画面にて横隔膜を同定し,M-mode画面にて横隔膜の移動距離を計測した。換気量の計測には,ヒト呼吸キット(AD Instruments社製PTK10)を用いた。超音波画像診断装置の動画データおよび換気量データはLabChart proのMotion Capture(AD Instruments社製PL3516)を用いて同期させた。
pre test,post testの各テストにおいて,各被験者の横隔膜の移動距離と換気量の相関係数を求めた。
また,横隔膜の移動距離を独立変数,換気量を従属変数として回帰分析を行った。有意なモデルが得られた場合,得られた回帰直線を用いて,横隔膜の移動距離が1cm,2cm,3cm,4cm,5cmの時の推定される換気量を求めた。横隔膜の各移動距離における推定換気量の再テスト信頼性において,相対信頼性を求めるために級内相関係数(ICC)を,絶対信頼性を求めるためにBland-Altman分析を用いた。統計処理にはR2.8.1を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者は研究意義と実験方法を口頭と書面で説明し,同意が得られた人とした。なお,本研究は千葉県立保健医療大学倫理委員会の承認(2012-015)を得て実施した。
【結果】
各テストにおいて,各被験者の横隔膜の移動距離と換気量の間に有意な相関関係が認められた(p<0.05,r=0.76~0.99)。
また,回帰分析の結果,有意なモデルが得られた(R2=0.62~0.98)。pre testの推定換気量は横隔膜の移動距離が1cmでは243±251ml,2cmでは814±241ml,3cmでは1384±355ml,4cmでは1955±516ml,5cmでは2526±693mlであった。post testではそれぞれ,166±140ml,895±432ml,1623±776ml,2352±1125ml,3080±1475mlであった。推定換気量の相対信頼性はICC値が0.04~0.61であった。絶対信頼性に関しては,横隔膜の移動距離が1cm,2cmでは最小可検誤差はそれぞれ558ml,729mlであった。3cm,4cm,5cmでは比例誤差が認められ,それぞれ10.8%,13.3%,14.8%であった。
【考察】
重症児者は重度の知的障害があり,一般的な呼吸機能検査を行うことが出来ない。本研究では,重症児者の呼吸機能を胸郭や横隔膜の運動から推測するための基礎研究として,横隔膜の移動距離と換気量の関係を明らかにすることを目的とした。
本研究の結果,全ての被験者,pre test,post testにおいて,横隔膜の移動距離と換気量の間には有意で,高い相関関係が認められた。このことから,横隔膜の移動距離の計測により呼吸機能を推測できる可能性が示唆された。
しかし,回帰直線を用いて横隔膜の移動距離から推測される推定換気量の再テスト信頼性を求めた結果,相対信頼性は低く,誤差が大きい結果となった。この原因として,横隔膜の運動を計測する際のプローブの位置と角度を厳密に設定しなかったことが考えられた。また横隔膜の運動のみでなく,胸郭の運動も換気量に大きな影響を与えることから,これらの運動を同時に計測し,複合的な要因として換気量との関係を検討する必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
乳幼児期の患者や重症児者など,一般的な呼吸機能検査が困難な患者の呼吸機能の推測のための基礎研究として意義のあると考える。
謝辞 本研究はJSPS科研費24700546の助成を受けたものです。