第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

生体評価学2

Sun. Jun 1, 2014 9:30 AM - 10:20 AM ポスター会場 (基礎)

座長:丸山倫司(九州中央リハビリテーション学院理学療法学科)

基礎 ポスター

[1373] 健常成人における咳嗽誘発試験の試み

井上拓保, 坂野歩規, 秋元秀明 (社会医療法人河北医療財団河北リハビリテーション病院)

Keywords:咳嗽誘発試験, 最大咳嗽量, 誤嚥性肺炎

【はじめに,目的】
厚生労働省の「平成23年度人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると,肺炎は死亡原因の第3位となり,内閣府の「平成25年版高齢社会白書」によると,2012年10月1日現在の高齢化率は24.1%(前年23.3%)で2020年には29.1%と予測されている。誤嚥性肺炎は高齢者に多いとされており,予防法の一つにとして随意的咳嗽力が有用であると多くの研究で報告されている。しかし臨床上,随意的な咳嗽は困難な場合が多く代替方法としてクエン酸やカプサイシン,酒石酸などで誘発された反射的咳嗽を評価しているが閾値に関する報告が殆どであり,最大咳嗽量に関する報告は少ない。そこで,今後の臨床応用を視野に入れ,健常成人における随意的最大咳嗽量とクエン酸濃度の違いによる反射的最大咳嗽量について検討することを本研究の目的とした。
【方法】
被験者は呼吸器・循環器疾患の既往歴がなく過去に喫煙歴のない非喫煙者を対象とし,健常成人24名(男性9名,女性15名,年齢26.5±3.3歳,身長165.5±10.0 cm,体重58.7±9.8kg,BMI21.4±2.7)。被験者には咳嗽評価として随意的咳嗽を一方向弁付きのフェイスマスクとピークフローメーター(PHILIPS社)を用いて最大咳嗽量を3回実施し最大値を計測した。加えて,反射的咳嗽は咳嗽誘発試験にて濃度1%,10%,20%のクエン酸溶液をコンプレッサー式ネブライザー(MEDIC-AID社:Porta-Neb)にて1分間噴霧し,各クエン酸濃度で誘発された咳嗽の最大値と誘発された咳嗽回数,そして誘発されるまでの時間を計測した。各クエン酸濃度の施行順はランダムとし,咳嗽が5回誘発された時点で噴霧は終了とした。統計処理はJSTATバージョン15.0を用い,各クエン酸濃度を1%,10%,20%とし各クエン酸濃度で誘発された反射的最大咳嗽量と随意的最大咳嗽量について一元配置分散分析(有意水準5%未満)とPearsonの相関係数を用いて相関性(有意水準5%未満)を検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は被験者に対してヘルシンキ宣言に基づき研究内容の趣旨ついて十分な説明を行い,同意を得た。
【結果】
随意的最大咳嗽は平均460.0±151.8mL/秒であった。1%は誘発された被験者が3名だけであったため参考値とした(平均値256.7±40.4 mL/秒・誘発回数3±1.7回・誘発時間27.7±17.9秒(それぞれ300mL/秒・2回・47.4秒,220mL/秒・5回・12.5秒,250mL/秒・2回・23.3秒,))。10%は18名誘発され,平均243.9±66.9 mL/秒・誘発回数4.89±0.5回・誘発時間7.7±4.6秒,20%は24名全員誘発され,平均224.6±67.2 mL/秒・誘発回数4.8±0.7回・誘発時間7.4±7.9秒となった。随意的最大咳嗽量と10%(p<0.0001)では有意な差を認めたが,有意な相関を示さなかった(p=0.40,r=0.2)。随意的最大咳嗽量と20%(p<0.0001)では有意な差を認め,24名全員で有意な中等度の相関を示した(p=0.03,r=0.5)。10%と20%(p=0.27)では有意な差を認めなかった。
【考察】
咳嗽反射は4相の過程を成す(①咳嗽の誘発,②深い吸気,③圧縮(声門を閉鎖),④早い呼気)。咳嗽反射は気道内の分泌物や異物を気道外に排除するための生態防御反応であり,知覚神経終末(咳受容体)が機械的あるいは化学的に刺激され迷走神経求心路(無髄神経であるC線維)を介して延髄の弧束核の咳嗽中枢に伝達され咳嗽反射が惹起される。随意的咳嗽は大脳皮質性の制御が可能である。Claarらによると反射的咳嗽(Reflex Cough)は大脳皮質性で調整と抑制ができるが,刺激物質が強い場合は大脳皮質性の制御なしに産生されるだろうと報告している。一方でAddingtonらによると固形物や液体,化学刺激物が声門に触れたときに発生する咽頭呼気反射(Laryngeal Cough Reflex)は大脳皮質性の制御が初期の吸気を伴わず強い呼気を行うと報告している。本研究は,濃度10%のクエン酸溶液では大脳皮質性制御が生じ,20%では大脳皮質性の制御なしに反射的咳嗽が出現したと考えられ,10%と20%で反射的最大咳嗽量に差は認められず20%のみで随意的最大咳嗽量と相関関係を示したと考えられる。本研究では,随意的外咳嗽が困難な場合に,クエン酸による咳誘発試験の誘発閾値濃度に加え,最大咳嗽量の評価するためには濃度20%のクエン酸溶液が有用であるという可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
咳嗽誘発試験の評価法確立は,誤嚥性肺炎の予防の一つとして確立している随意的咳嗽力の評価とそのトレーニングと共に,理学療法を実施するために重要な要素の一つである。