第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

福祉用具・地域在宅9

Sun. Jun 1, 2014 9:30 AM - 10:20 AM ポスター会場 (生活環境支援)

座長:田中康之(千葉県千葉リハビリテーションセンター地域連携部地域支援室)

生活環境支援 ポスター

[1377] 短下肢装具による背屈制動が対側下肢の荷重応答期に及ぼす影響について

糸数昌史 (国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科)

Keywords:短下肢装具, 動作分析, 歩行

【はじめに,目的】
短下肢装具(以下AFO)は成人,小児問わず,下肢機能に問題のある多くの対象者に用いられている。底屈制動機能つきAFOの普及により,歩行動作時のロッカーファンクションの重要性が注目されており,脳卒中片麻痺患者を中心に多くの報告がなされている。以前から筆者らは背屈方向への関節運動の制御がアンクルロッカー機能を改善し,脳性麻痺や二分脊椎症などの立脚期の膝屈曲傾向のある患者に対しての有効性を報告してきた。そこで,本研究では,底背屈方向への制動機能を備えたAFO(以下GSRein)を試作し,AFOによる背屈制動が対側下肢の運動に及ぼす影響について検討を行なった。
【方法】
対象者は下肢に運動麻痺を呈している患児3名(Case1:脳炎後遺症による左片麻痺,Case2:末梢神経障害による右下肢弛緩性麻痺,Case3:L5残存レベルの二分脊椎症)とした。計測動作は10m直線路内の自由歩行とし,条件は裸足,既存のAFO,GSReinの3条件とした。GSReinの制御要素は理学療法士の観察による歩行分析の結果と本人の意見を元に適切なものを選択し,計測前に5分程度の練習時間を設定し,5~6試行をランダムに実施した。歩行の評価は対象者の麻痺側側方のランドマーク(第5MP関節,足関節外果,膝関節外側,股関節大転子,肩峰)にマーカーを貼付し,矢状面からのビデオカメラを用いて撮影した。撮影した動画は動画解析ソフトDartfishとSkillspectorを用いて歩行速度,左右ステップ長,左右立脚時間比,下肢関節角度を算出した。また各条件における試作装具の着用感(歩きやすさ)について聴取した。データ分析は,各パラメータを条件間で比較し,Kruskal-Wallis検定を用いて,それぞれの条件間の統計処理を行った。なお,危険率は5%未満で判定した。
【倫理的配慮】
本研究は国際医療福祉大学倫理委員会の承認を受けた。また,対象者とその家族には本研究の目的・方法・リスクの説明を行い,書面による同意を得た。
【結果】
対象者の歩行分析の結果から,歩行速度とステップ長には有意な変化が認められなかった。しかし,装具側下肢の単脚支持期がGSReinの条件で延長した。その前後の両脚支持期では初期接地から荷重応答期にかけての前半の両脚支持期が短縮し,前遊脚期から遊脚初期にかけての後半の両脚支持期が延長した。立脚期全体では既存のAFOが68%,試作装具が65%と短縮した。関節角度は,立脚期の膝関節屈曲角度はGSReinで減少し,対側下肢の荷重応答期時の最大膝屈曲角度は既存のAFOで増加していた。試作装具の着用感については,既存のAFOよりもGSReinのほうが歩きやすいとの肯定的な意見もあったが,装具が重い,違いがわからないなどの感想も聞かれた。
【考察】
GSReinは底屈側,背屈側と2つの制御ユニットによって,足関節のコントロールが可能であり,制御要素の変更により着用者の身体機能に合わせることが可能である。本研究では,特に背屈制動に注目してその効果を検討した。本研究の対象者は通常は底屈0°,背屈を10°程度に制限したAFOを着用しており,AFO着用時の立位姿勢では下腿カフの前方にもたれかかるようにすることで装具による支持を得ていることが多く,歩行時も立脚期早期に下腿を前傾させて支持性を補償しながら対側の下肢を振り出す歩容となっていた。結果として,背屈制動を付与したGSReinの条件では,立脚期における両脚支持期と単脚支持期の時間の割合が変化し,対側下肢の荷重応答期の膝屈曲角度が減少した。このことから,背屈制動の効果として下肢接地後の下腿が前方へ傾く速さをコントロールすることで,荷重応答期の過度の膝関節の屈曲を防ぎ,早期に単脚支持期へと移行することができたことと,立脚終期以降では対側下肢への円滑な荷重の受け渡しができたと考えられる。今回の3名の対象者は踵接地が可能であったが,初期接地に充分な膝関節の伸展が得られないことで足底全体を一度に接地させる患者も多く見受けられる。今後の課題として,そのようなケースにおいても背屈制動による下腿前傾角度のコントロールによる対側下肢の立脚期への影響を検討する必要がある。また,多くの対象者のデータを収集し,背屈制動の効果を確認することと,対象者へ装具の特性や着用時の動きをフィードバックし,適切な動作指導や装具の調整が行えるような手法の検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は短下肢装具の背屈制動機能の効果が対側下肢への運動に与える影響について検討した研究であり,装具の機能を有効に用いるために必要な新たな知見が得られた。そこから新たな装具療法の可能性や理学療法の展開につながると思われる。