第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

福祉用具・地域在宅9

Sun. Jun 1, 2014 9:30 AM - 10:20 AM ポスター会場 (生活環境支援)

座長:田中康之(千葉県千葉リハビリテーションセンター地域連携部地域支援室)

生活環境支援 ポスター

[1379] 歩行補助具・下肢装具使用者の歩行能力低下はバランス機能の低下に起因するか?

水澤一樹 (新潟県立新発田病院リハビリテーション科)

Keywords:歩行能力, 歩行補助具, 下肢装具

【目的】歩行能力が低い症例に対して歩行補助具(補助具)や下肢装具(装具)を適用することは多い。同一症例に対し,補助具や装具の使用/非使用で歩行能力を比較すると,いずれも使用した方が歩行能力は高かったとする報告は多いため,歩行能力が低下した症例には補助具・装具を積極的に処方すべきである。また補助具・装具の使用者がそれぞれ非使用の状態では,非使用者と比較して歩行能力が低いとの報告は多いが,そもそも低下した身体機能を補うために補助具・装具を使用しているので当然である。なお補助具・装具の使用によって歩行能力をどの程度補えているのかは明確ではなかったため,補助具・装具の使用者がそれぞれを使用した状態と非使用者を比較した結果,補助具使用者で歩行速度・歩幅・歩行率,装具使用者では歩行速度・歩幅が非使用者よりも大きく低下していた(水澤,2013)。しかし先行研究では補助具と装具の交互作用,そしてバランス機能など歩行能力の決定因の影響という2点が考慮されていない。そこで本研究の目的は,上記2点を考慮し,補助具・装具使用者の歩行能力低下の原因を明確にすることである。
【方法】対象は歩行障害を有していた患者66名(補助具使用:39名,装具使用:22名)とした。歩行能力は10m歩行テストによる歩行の時間的・空間的パラメーター(歩行速度・歩幅・歩行率),バランス機能はBerg Balance Scale(BBS)によって評価した。10m歩行テストは3回ずつ実施し,歩行速度・歩幅・歩行率はいずれも平均を採用した。疲労などの影響を考慮し,測定順序は無作為に決定した。統計解析としては,歩行速度・歩行率・歩幅を従属変数,補助具・装具の使用/非使用を要因,BBS得点を共変量とした2元配置共分散分析を行った。有意水準はp=0.05とし,効果量(η2)も算出した。解析ソフトにはSPSS15.0 for Windowsを使用した。
【倫理的配慮】本研究ではヘルシンキ宣言を順守した。なお本研究は観察研究で,すべてのデータは日常の臨床において必要な項目であるが,対象者には十分な説明を行い,同意を得た。
【結果】要因が補助具の使用/非使用の場合,歩行速度・歩幅は回帰の平行性を仮定できなかったが,歩行率では仮定できた。また要因が装具の使用/非使用の場合,歩行速度・歩幅・歩行率のすべてで回帰の平行性を仮定できた。回帰の平行性を仮定できた変数はいずれも回帰の傾きが0ではなかったため,2元配置共分散分析を行うと,補助具の使用/非使用によって歩行率のみ主効果(η2=0.05)を認め,交互作用は認めなかった。
【考察】0.01≦η2<0.06であれば,共分散分析の効果量は小とされるため,歩行補助具の使用者と非使用者における歩行率の差の程度は決して大きくない。すなわち補助具使用者の歩行能力低下の主たる原因はバランス機能である。しかし歩行能力の決定因のひとつであるバランス機能の影響を除去しても,補助具使用者では歩行率が有意に低下しており,バランス機能以外の要因も少なからず影響していた。なお装具使用者の歩行能力低下の主たる原因がバランス機能の低下とは考え難く,下肢筋力といった他の歩行能力の決定因の影響が予想される。また交互作用を認めなかったため,歩行能力の改善を治療方針とする際は,補助具の使用と装具の使用は個別に捉えればよい。
【理学療法研究としての意義】補助具・装具使用者に対する歩行能力改善を目標とした治療方針の参考となる基礎的知見である。