第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

福祉用具・地域在宅10

Sun. Jun 1, 2014 9:30 AM - 10:20 AM ポスター会場 (生活環境支援)

座長:工藤俊輔(秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻理学療法学講座)

生活環境支援 ポスター

[1382] 脳性まひ児への新しい短下肢装具の開発を目的とした異分野研究の試み

米津亮1, 草田俊介2, 中川智皓2, 新谷篤彦2, 﨑田博之3, 三木由紀子3, 瓦井義広3, Abdorahmani Abbas1, 野中紘士1, 谷口芙紗子4, 伊藤智博2, 奥田邦晴1 (1.大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科, 2.大阪府立大学大学院工学研究科, 3.大阪府立母子保健総合医療センターリハビリテーション科, 4.森之宮病院リハビリテーション科)

Keywords:脳性まひ, 短下肢装具, 動作解析

【はじめに】
短下肢装具は,脳性まひ児の理学療法において広く普及された下肢装具の1つである。その機能的役割は,下肢支持機能の補完により立位・歩行などの運動発達を促進することと異常な関節運動の出現を軽減させることが挙げられる。特に,異常な関節運動の出現は,脳性まひ児にとって関節の変形・拘縮に結び付くために,日常生活活動へ支障をきたしかねない。このため,脳性まひ児の理学療法においてこの装具を日常的に装着することは,ごく自然な治療行為として定着している。
しかし,ほとんどの短下肢装具は足関節の可動範囲を極端に狭めた構造となっており,本来動作中に生じる足関節の運動やその他の関節運動が制限される。このことにより,脳性まひ児は非効率的な運動を強いられている側面もある。そこで,我々は脳性まひ児がより効率的な運動を実施できる短下肢装具の開発に向けて,リハビリテーション学的知見と工学的知見を融合させた異分野研究を展開するに至った。本報告の目的は,我々の展開する異分野研究の取り組みについて紹介することである。
【方法】
本活動の目的を達成するため,府下の臨床施設と所属する大学の工学研究科の協力を得て,下記に示す3プロセスの研究計画を立案した。研究活動期間は平成24年11月1日から平成25年10月31日の一年間である。
まず,脳性まひ児と健常児の立ち上がり動作に焦点を当て,4台のカメラで構成された動作解析装置(Kinema Tracer:キッセイコムテック社製)と2枚の床反力計(TF-3040-A:テック技販社製)を用いて計測を実施した。この計測から,体幹・股関節・膝関節・足関節の関節角度データを収集した。
次に,第一段階で収集したデータを基に,コンピュータ上に脳性まひ児と健常児の人間モデルを作成するとともにラグランジュ方程式にあてはめ,その運動力学的特徴を比較することで短下肢装具の制御系設計を構築した。
最後に,考案した短下肢装具の制御系設計を基に,脳性まひ児の短下肢装具を試作した。
【倫理的配慮】
本研究は,大阪府立大学研究倫理委員会の承諾(受付番号2012-PT11)を得たうえで実施した。
【結果】
解析結果より,脳性まひ児の立ち上がり動作においては,体幹前傾角度と下腿前傾角度は健常児より早い段階でピークに達する傾向が示された。その一方で,体幹前傾角度は健常児よりも大きく,下腿前傾角度は小さい傾向が示された。
これらの結果から,体幹部の運動をトリガーとして下腿の前傾運動をより適切なタイミングで,かつより大きな背屈運動を再現できる短下肢装具の試作を行った。
【考察】
今回の取り組みの最大の特徴は,脳性まひ児の動作をコンピュータ上で再現できる人間モデルを作成した点にある。この人間モデルを構築することで,試作したいと考える短下肢装具の設計を容易に考案できるようになる。この結果,今回の研究期間内に短下肢装具のプロトタイプ版の作製まで活動を展開できた。
今後は,試作した短下肢装具を脳性まひ児に実際に利用してもらい,どれだけ効率的な運動を再現できるか検証することが必要となる。
【理学療法学研究としての意義】
より適切な短下肢装具の装着は,脳性まひ児の日常生活活動の支援だけでなく,関節の変形・拘縮といった二次障害の予防にも寄与すると思われる。このように,工学分野など他分野の専門性を理学療法領域に応用展開することは,新たなイノベーションを創出することに直結する意味で,今後の理学療法士の研究活動として意義の大きいものと捉えている。
【謝辞】
本研究は,独立行政法人 科学技術振興機構平成24年度「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)探索タイプ」(研究課題:障がい児の体幹-足部運動連鎖型補装具の開発)の支援を受け実施した。