第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

福祉用具・地域在宅10

2014年6月1日(日) 09:30 〜 10:20 ポスター会場 (生活環境支援)

座長:工藤俊輔(秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻理学療法学講座)

生活環境支援 ポスター

[1385] 脳性麻痺児の入浴支援

山本裕子, 佐藤史子, 永井志保 (横浜市総合リハビリテーションセンター)

キーワード:脳性麻痺, 生活支援, 入浴

【はじめに,目的】
脳性麻痺児では発達段階に合わせた動作の獲得も必要だが,成長とともに日常生活活動の介助負担が増大することが多い。特に入浴動作は移動,移乗,更衣,洗体動作を複合したものであり,その中でも浴槽利用は,幼児期からの抱きかかえ方法を継続していることが多く,成長とともに介助負担を感じやすい。更に入浴は,本人の能力・環境・介助者能力の要素が大きく影響するため,入浴方法の決定に苦慮する動作である。本人の能力を活かした浴槽利用を検討する場合に腰かけた状態で下肢を浴槽に出入りさせる方法(以下,腰かけ跨ぎ移乗での浴槽利用)があり,この行為は腰かけ跨ぎ,浴槽内姿勢保持,浴槽内立ち上がりの連続した動作である。本稿では,腰かけ跨ぎ移乗での浴槽利用の可否を示す身体能力を明らかにすることを目的とした。
【方法】
平成22~24年度に当センターの在宅リハビリテーション事業で脳性麻痺児の浴槽利用を支援した中で,腰かけ跨ぎ移乗での浴槽利用を達成した8名を対象とした。対象者は,痙直型両麻痺2名,痙直型四肢麻痺3名,混合型四肢麻痺3名。粗大運動能力分類システムGMFCSレベルIII~IV。年齢9~19才。定型発達での入浴が自立となる年齢や体格に達しており,動作誘導に応じられる認知機能を有していた。調査はカルテより後方視的に行った。調査項目は,入浴動作能力として,腰かけ跨ぎ,浴槽内姿勢保持,浴槽内立ち上がりの3項目と,基本動作能力として,床上移動能力(以下,移動能力),座位保持能力,立ち上がり能力を調査した。なお,今回の調査では介助者因子を調査項目から除外した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究にあたり,対象者および家族に対して口頭と書面にて説明し同意を得た。
【結果】
浴槽利用が自立だったのは3名。腰かけ跨ぎ,浴槽内姿勢保持,浴槽内立ち上がりの3項目ともに自立だった。3名の移動能力は交互性の手膝這い。座位保持能力は,背,上肢支持なしでの腰かけ座位が可能で,片足を挙上した際の座位保持も可能。床座位では上肢操作や姿勢変換が可能。床からの立ち上がりは支持物があれば可能だった。浴槽利用が軽介助だったのは2名。腰かけ跨ぎ,浴槽内立ち上がりの2項目に介助を要していた。2名の移動能力は非交互性の手膝這いや肘這い。座位保持能力は,背,上肢支持ありの腰かけ座位が安定し,かつ片足を挙上した際の座位保持も可能。床座位では上肢操作が可能で,床座位での姿勢変換は限られていた。床や低い台からの立ちあがりは前方から上肢を誘導することが必要だった。浴槽利用が重介助と判断されたのは3名。腰かけ跨ぎ,浴槽内立ち上がりの2項目に介助を要し,特に浴槽内立ち上がりが重介助だった。3名の移動能力は肘這い以下。背,上肢支持ありの腰かけ座位が安定し,かつ片足を挙上した際の座位保持も可能。床座位では上肢支持が必要で,上肢操作や姿勢変換は困難だった。床からの立ちあがりは前方からの介助が困難で,後方からの体幹介助が必要だった。
【考察】
腰かけ跨ぎ移乗での浴槽利用は,腰かけ跨ぎ,浴槽内姿勢保持,浴槽内立ち上がりの連続した動作から成り立っており,結果より,適応を判断するには,腰かけ座位能力,床座位での姿勢変換能力,床や低い台からの立ち上がり能力の3項目を最低限評価することが有効と考えられた。腰かけ跨ぎは,腰かけ座位で下肢を浴槽に出入りさせる方法であるため片足を挙上した際の座位保持能力の評価が有効となる。交互性の手膝這いでは骨盤下肢の左右分離運動と体幹保持の要素が関与しており,合わせて移動能力を確認することも有効と考える。浴槽内姿勢保持は床座位姿勢を基準とするが,浴槽利用という一連の動作で考えると浴槽内姿勢から立ち上がり開始姿勢への姿勢変換の要素が関与しており,評価項目として床座位での姿勢変換能力を評価することが有効となる。浴槽内立ち上がりは,立ち上がり開始姿勢の保持と足底面への重心移動の要素が関与しており,床や低い台からの立ち上がり能力を評価することが有効となる。以上より,3項目の身体能力は腰かけ跨ぎでの浴槽利用の適応を判断するうえで重要な評価項目と考えられた。これらの身体能力評価をもとに,実際に腰かけ跨ぎ移乗での浴槽利用を達成する場合は,身体能力を補填する環境設定や,浴槽利用を継続できる自立度や介助量の見極めが必要となり,介助量が多ければリフト等福祉機器の適応となる。
【理学療法学研究としての意義】
脳性麻痺児者の障害像はさまざまで,且つ入浴動作は複合動作となるため,評価尺度が確立されていない。評価の視点が整理されることで,発達段階に合わせたタイムリーな生活支援を行うための一助となる可能性がある。