第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

スポーツ3

Sun. Jun 1, 2014 9:30 AM - 10:20 AM ポスター会場 (運動器)

座長:相澤純也(東京医科歯科大学医学部附属病院スポーツ医学診療センターアスレティックリハビリテーション部門)

運動器 ポスター

[1392] 足趾把持力と足関節機能が跳躍力に及ぼす影響

大江実穂, 福本貴彦 (畿央大学)

Keywords:足趾把持力, 床反力, スパイクジャンプ

【はじめに,目的】
バレーボールにおいて,アタッカーはより高い位置でプレイすることが求められており,身長以外には跳躍力が大きく関わる。そこで,助走時のステップ幅の減少によりジャンプ高は低下すること,歩行時の足趾把持力と歩幅の増大には相関がみられることに注目した。足趾把持力によってステップ幅が増大し,ジャンプ高が高くなるのではないかと考えた。また,バレーボール選手の傷害特性は膝関節傷害が最も多く,その内訳はジャンパー膝が最も多いと報告されている。ジャンパー膝は,踏切時の身体重心が後方のフォームをとり,軸足優位のジャンプになるため軸足の罹患率が高い。足趾把持力の向上により重心位置は前方移動するという報告から,足趾把持力によって身体重心が前方のフォームをとるのではないかと考えた。以上より,足趾把持力がジャンプ高に与える影響を検討し,ジャンパー膝との関連を明らかにすることを目的とした。
【方法】
下肢に重篤な運動器疾患や疼痛を有さない,バレーボール経験のある健常大学生男子12人を対象にした。足指筋力測定器(T.K.K.3362,竹井機器工業株式会社)を用いて,足趾把持力を測定した。背もたれ付きの椅子に腰かけ,股関節,膝関節90°,足関節中間位とした。底屈筋力は等速運動器(System3 v3.33,BIODEX)を用いて,膝関節伸展位にて,求心性30°/s,60°/sで測定した。重心移動とジャンプ高は三次元動作解析システム(MA8000,ANIMA)を用いて,3回測定を行った。重心移動はFxピークを制動力とし,また,床反力の合成値を算出した。ジャンプ高は,腸骨稜マーカーの最高位から腸骨稜と床間の高さを除した値を求めた。統計学的解析は,各測定項目の関係性を検討するため,スピアマンの順位相関行列を算出し,有意水準を0.05未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての被験者に対して,研究内容を口頭にて説明し,書面による同意を得た。
【結果】
踏切時の先行肢をLL,後続肢をTLとし,制動力の後方成分を正とする。LL足趾把持力はLL制動力(r=.60,p=.03),TL合成値(r=.60,p=.03)に正の相関,TL足趾把持力はTLの制動力(r=.59,p=.04),Fz成分(r=.64,p=.02),合成値(r=.66,p=.02)に正の相関があった。ステップ幅とLL最大仕事量60°/s(r=.64,p=.02),LL総仕事量60°/s(r=.68,p=.02),TL制動力(r=.64,p=.03)に正の相関があった。LLは床反力成分それぞれに正の相関があるが,TL制動力はジャンプ高(r=.64,p=.02),Fz成分(r=.85,p=.00),合成値(r=.90,p=.00)に正の相関がある。
【考察】
足趾把持力と足関節機能がスパイクジャンプのジャンプ高やジャンパー膝に及ぼす影響について検討した。TL足趾把持力はTLの制動力,Fz成分,合成値と相関があり,TL制動力とジャンプ高に相関がある。また,TLのFy成分はTLの床半力や足趾把持力などと相関はない。足趾把持力の向上により,Fy成分が減少し歩行率,歩行速度が向上したという報告から,足趾把持力によって踏切時の足部の運動方向が進行方向と平行になり,TL床反力の利用が効率よく行われることで,ジャンプ高に影響を及ぼすと考えられる。一方,LL足趾把持力はLL制動力と相関があり,LLのFy成分は同側の床反力にそれぞれ相関があることから,LLは踏切時の運動方向の変換がTLに比べて劣っていると考えられる。しかし,LL最大仕事量,総仕事量60°/sとステップ幅,TL制動力とステップ幅に相関がある。仕事量は動作時の推進筋能力,制動能力,同時収縮能力などを評価する指標になる。つまり,LL底屈筋が効率よく働くことで,TLの振り出しが増大すると考える。ステップ幅が制限されるとTL制動力が減少し,ジャンプ高に影響するという報告や,TL制動力とジャンプ高に相関があるという結果から,ステップ幅によってジャンプ高は高くなるといえる。また,足趾把持力は底屈筋力やステップ幅に相関がみられないため,ステップ幅とジャンプ高の関連については,足趾把持力よりもLL底屈筋に強く関与すると考えた。踏切時にLLに疼痛が出現するジャンパー膝群では,後方重心のためにLLで制動しLL優位のジャンプをすると報告されている。床反力の利用がLLよりもTLで効率よく行われているという本研究の結果はLLのジャンパー膝に罹患しにくいと思われる。しかし,ジャンパー膝は過用を背景に持つ疾患であり,偏ったフォームはジャンパー膝のリスクになることから,両脚での踏切が求められる。
【理学療法学研究としての意義】
足趾把持力による効率よいTLの床反力の利用とLL底屈筋の機能によるステップ幅の増大が,ジャンプ高に影響すると示唆される。両脚の床反力の利用が同程度行われることで,ジャンプ高を高くし,ジャンパー膝のリスクを軽減すると考えられる。