第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

その他3

2014年6月1日(日) 09:30 〜 10:20 ポスター会場 (神経)

座長:蔵品利江(総合南東北病院リハビリテーション科)

神経 ポスター

[1397] 神経筋疾患を対象としたライトレスピロメーターによる肺活量測定の検者内信頼性

吉永龍史1, 蓬原春樹1, 渕香緒里1, 荒井慎一1, 斉田和子2, 竜田庸平3 (1.独立行政法人国立病院機構宮崎東病院, 2.同神経内科, 3.宮崎医療福祉専門学校理学療法士養成学科)

キーワード:肺活量, 神経筋疾患, 信頼性

【はじめに,目的】
病態の進行とともに肺活量が低下していく神経筋疾患において,弱化した咳の力を効果的に代償するための呼吸リハビリテーションは,最大吸気位である肺活量から救急蘇生用バッグより1~3回加圧を繰り返し肺内に送気される空気を得る最大強制吸気量(以下,MIC)を導入し,肺や胸郭のコンプライアンスを維持しておくことが重要である。したがって,これらの専門的な呼吸機能評価を定期的に行うことは,原疾患の進行状態を的確に把握することができる。神経筋疾患における肺活量の低下は,自力での咳嗽力の低下につながり,痰の排出が困難になることから経時的な測定が必要となる。そこで,肺活量やMICの測定には,携帯が可能な簡易流量計であるライトレスピロメーターが簡便な方法として臨床場面で使用されている。しかし,このライトレスピロメーターを用いた測定に関しては,信頼性に関する先行研究がなく,測定誤差などが生じている可能性も否定できないため検証する必要がある。
本研究の目的は,ライトレスピロメーターを用いた肺活量測定の同日内の検者内信頼性を相対信頼性と絶対信頼性から明らかにすることとした。
【方法】
対象は,当院に入院あるいは外来通院されている神経筋疾患で,本研究概要についての内容を十分に理解することができ,本人による同意が可能であった患者11例(ミオパチー1名,筋ジストロフィー:デュシェンヌ型4名,福山型1名,進行性2名,筋緊張性1名,筋強直性2名)であった(年齢39.7±18.4歳,男性3名,女性7名,体重37.5(36.7-47.2)kg,身長148.9±7.0cm,BMI19.4±4.7)。除外基準は,気管切開を施行している,あるいは随意的に呼吸運動をコントロールできないと判断される患者とした。
方法は,まずすべての対象者にライトレスピロメーターによる肺活量の測定に関する説明のオリエンテーションを実施し,2,3回練習を行った後に測定を開始した。その際の声掛けは,説明方法が異ならないよう事前に作成した説明文書を用いて統一して行った。測定器具は,呼気ガス分析用のフェイスマスクを装着した英国フェラリスメディカル社製Halo scale wright respirometerであった。検者内信頼性の測定方法は,同一検者が同日に肺活量を3回実施する再検査法であった。
統計解析は,検者内信頼性の検討には,肺活量の変動をみるため相対信頼性の級内相関係数(以下,ICC)(1,1)を用い,また絶対信頼性の検討は測定標準誤差(以下,SEM)と最小化検変化量の95%信頼区間(以下,MDC95)を算出した。固定誤差および比例誤差の有無は,Bland-Altman分析によって被験者の1回目と2回目の測定値間の誤差について検討した。すべての統計解析は,R 2.8.1(CRAN,free softwere)を使用した。なお,いずれも有意水準は両側5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,事前に当院倫理委員会の承諾を受けて行った。また,すべての被験者には事前に研究の内容を十分に説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
1回目,2回目,3回目の肺活量の平均値±標準偏差は,それぞれ660±317ml,666±352ml,686±362mlであった。ICC(1,1)は0.93(95%信頼区間0.85-0.98),SEMは87ml,MDC95は183mlであった。Bland-Altman分析より,系統誤差は固定誤差の95%信頼区間が-148.8~97.9ml,比例誤差の無相関検定の相関係数がr=-0.29(p=0.38)であり,両者ともに認められなかった。
【考察】
本研究結果より,ライトレスピロメーターを用いた同一検者の同日内の相対信頼性を示すICCは,95%信頼区間を含め0.8以上であったことから,良好であったと考えられる。次に絶対信頼性を示すBland-Altman分析の結果より,固定誤差と比例誤差といった系統誤差は認められなかった。よって,本研究におけるオリエンテーションや声掛けの統一などの条件下で行ったことが,測定の精度の向上につながったとものと考える。次に,本研究ではさらにSEMにより測定結果にどの程度の誤差が生じるか,またMDC95を算出することで,得られた2つの測定値の変化量が,測定誤差によるものであるという境界値を統計学的に推定した。SEMの結果より検者内信頼性は,肺活量の±87mlの標準的な誤差が生じることが示された。本研究結果から求められたMDC95より,肺活量が183ml以内の測定値の変化は測定誤差によるもので,同値より大きな変化は「真の変化」と判断されることが明らかとなった。
【理学療法学研究としての意義】
ライトレスピロメーターを用いた肺活量の測定の信頼性を検討することは,神経筋疾患に対して肺や胸郭のコンプライアンスを維持することを目的に行う肺活量やMICの測定に用いることができ,今後,簡易的かつ短時間で評価を行え,リハビリテーションの効果判定が可能となる。