[1409] ヒトにおける歩行中の四肢間反射の刺激肢特異性
Keywords:歩行, 四肢間協調, 感覚入力
【はじめに,目的】
ヒトの直立二足歩行を制御する脊髄神経活動は,四足歩行様の特徴を有することが知られている(Zehr and Duysens 2004)。例えば,ある肢の運動を支配する脊髄神経機構は,遠隔肢の律動運動や感覚入力の干渉作用を受ける(Nakajima et al. 2012)。また,このような四肢間の神経学的な干渉作用は,運動課題や刺激される神経等に依存して,異なる動態を示す(Sasada et al. 2010;Nakajima et al. 2013)。しかしながら,ヒトの歩行中における四肢間反射結合の機能的差異およびその神経メカニズムは十分に明らかにされていない。そこで,本研究の目的は,歩行運動遂行中の下肢筋を支配する脊髄神経機構に対する遠隔肢感覚神経刺激の影響を刺激肢間で比較することであった。
【方法】
健常成人7名(平均年齢27歳)を対象とした。実験課題は,トレッドミル歩行(速度4 km/h)とした。右脚のヒラメ筋から表面筋電図を双極誘導法により記録した。遠隔肢由来の感覚入力は,被験側と対側の浅腓骨神経,同側の橈骨神経浅枝,対側の橈骨神経浅枝に対する電気刺激(幅1ミリ秒の5連発矩形パルス,パルス間3ミリ秒)により,それぞれ惹起された。各神経への刺激強度は,知覚閾値の1.5,2.0,2.5,3.0倍とした。脊髄単シナプス反射経路の興奮性を反映する指標として,Hoffmann反射(H反射)を用いた。同側の膝窩部後脛骨神経への電気刺激(幅1ミリ秒の単発矩形パルス)により,ヒラメ筋のH反射を誘発した。同側後脛骨神経刺激と遠隔肢感覚神経刺激間の時間間隔は約100ミリ秒に設定した。なお,神経刺激は同側立脚相初期に行った。H反射誘発時におけるヒラメ筋運動神経群の興奮性の指標として,背景筋電図量を算出した。ヒラメ筋運動神経群に対するシナプス後効果の指標として,遠隔肢神経の単独刺激を行った際の全波整流後加算平均筋電図の振幅を算出した。遠隔肢神経刺激による効果は,刺激を行わない場合の振幅に対する百分率として表した。また,遠隔肢神経への刺激強度を独立変数,刺激効果を従属変数とした直線回帰分析を行うことにより,回帰係数を算出し,これを刺激効果の利得として扱った。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,所属機関の倫理委員会の承認を得て,全ての対象者に対して,十分な説明を行い,書面で同意を得た上で,本研究を実施した。
【結果】
遠隔肢感覚神経への刺激を行った場合,ヒラメ筋のH反射の振幅は有意に減少した。この効果は,同側の橈骨神経浅枝刺激あるいは対側の橈骨神経浅枝刺激を行った場合に比べ,対側の浅腓骨神経刺激の場合で最も顕著であった。刺激効果の利得も同様の変化を示した。刺激神経間あるいは刺激強度間において,背景筋電図量および加算平均筋電図の振幅に,統計学的に有意な刺激効果を認めなかった。
【考察】
ヒトの歩行中,足関節底屈筋由来のH反射経路は,上肢に比べ,対側足部由来の感覚入力の影響をより強く受け,その興奮性を減弱させることが明らかになった。H反射に対する効果が刺激間隔100ミリ秒付近において認められたことや,背景筋電図量あるいは加算平均筋電図に刺激効果が認められなかったことなどから,本研究において認められたH反射に対する遠隔肢神経刺激効果には,脊髄運動神経細胞群に対するシナプス後効果ではなく,シナプス前機序,おそらくヒラメ筋Ia線維のシナプス前抑制の変化が関与することが強く示唆された。また,四肢間反射結合の刺激肢特異性は立位においては認められなかったことから,歩行運動中に動員される神経システムが,四肢間反射結合の強さを肢特異的に調節し,下肢筋由来の一次求心性線維由来の感覚流入の制御に貢献することが推察された。
【理学療法学研究としての意義】
中枢神経疾患患者において認められる筋伸張反射の亢進は,筋の剛性を高め,歩行中の身体重心の円滑な移動を阻害する。本研究で得られた知見は,歩行中に,四肢間反射結合を介して筋伸張反射を制御可能であることを示唆しており,痙性歩行の改善に向けて,電気刺激療法における刺激パラダイムの開発等に応用可能である。
ヒトの直立二足歩行を制御する脊髄神経活動は,四足歩行様の特徴を有することが知られている(Zehr and Duysens 2004)。例えば,ある肢の運動を支配する脊髄神経機構は,遠隔肢の律動運動や感覚入力の干渉作用を受ける(Nakajima et al. 2012)。また,このような四肢間の神経学的な干渉作用は,運動課題や刺激される神経等に依存して,異なる動態を示す(Sasada et al. 2010;Nakajima et al. 2013)。しかしながら,ヒトの歩行中における四肢間反射結合の機能的差異およびその神経メカニズムは十分に明らかにされていない。そこで,本研究の目的は,歩行運動遂行中の下肢筋を支配する脊髄神経機構に対する遠隔肢感覚神経刺激の影響を刺激肢間で比較することであった。
【方法】
健常成人7名(平均年齢27歳)を対象とした。実験課題は,トレッドミル歩行(速度4 km/h)とした。右脚のヒラメ筋から表面筋電図を双極誘導法により記録した。遠隔肢由来の感覚入力は,被験側と対側の浅腓骨神経,同側の橈骨神経浅枝,対側の橈骨神経浅枝に対する電気刺激(幅1ミリ秒の5連発矩形パルス,パルス間3ミリ秒)により,それぞれ惹起された。各神経への刺激強度は,知覚閾値の1.5,2.0,2.5,3.0倍とした。脊髄単シナプス反射経路の興奮性を反映する指標として,Hoffmann反射(H反射)を用いた。同側の膝窩部後脛骨神経への電気刺激(幅1ミリ秒の単発矩形パルス)により,ヒラメ筋のH反射を誘発した。同側後脛骨神経刺激と遠隔肢感覚神経刺激間の時間間隔は約100ミリ秒に設定した。なお,神経刺激は同側立脚相初期に行った。H反射誘発時におけるヒラメ筋運動神経群の興奮性の指標として,背景筋電図量を算出した。ヒラメ筋運動神経群に対するシナプス後効果の指標として,遠隔肢神経の単独刺激を行った際の全波整流後加算平均筋電図の振幅を算出した。遠隔肢神経刺激による効果は,刺激を行わない場合の振幅に対する百分率として表した。また,遠隔肢神経への刺激強度を独立変数,刺激効果を従属変数とした直線回帰分析を行うことにより,回帰係数を算出し,これを刺激効果の利得として扱った。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,所属機関の倫理委員会の承認を得て,全ての対象者に対して,十分な説明を行い,書面で同意を得た上で,本研究を実施した。
【結果】
遠隔肢感覚神経への刺激を行った場合,ヒラメ筋のH反射の振幅は有意に減少した。この効果は,同側の橈骨神経浅枝刺激あるいは対側の橈骨神経浅枝刺激を行った場合に比べ,対側の浅腓骨神経刺激の場合で最も顕著であった。刺激効果の利得も同様の変化を示した。刺激神経間あるいは刺激強度間において,背景筋電図量および加算平均筋電図の振幅に,統計学的に有意な刺激効果を認めなかった。
【考察】
ヒトの歩行中,足関節底屈筋由来のH反射経路は,上肢に比べ,対側足部由来の感覚入力の影響をより強く受け,その興奮性を減弱させることが明らかになった。H反射に対する効果が刺激間隔100ミリ秒付近において認められたことや,背景筋電図量あるいは加算平均筋電図に刺激効果が認められなかったことなどから,本研究において認められたH反射に対する遠隔肢神経刺激効果には,脊髄運動神経細胞群に対するシナプス後効果ではなく,シナプス前機序,おそらくヒラメ筋Ia線維のシナプス前抑制の変化が関与することが強く示唆された。また,四肢間反射結合の刺激肢特異性は立位においては認められなかったことから,歩行運動中に動員される神経システムが,四肢間反射結合の強さを肢特異的に調節し,下肢筋由来の一次求心性線維由来の感覚流入の制御に貢献することが推察された。
【理学療法学研究としての意義】
中枢神経疾患患者において認められる筋伸張反射の亢進は,筋の剛性を高め,歩行中の身体重心の円滑な移動を阻害する。本研究で得られた知見は,歩行中に,四肢間反射結合を介して筋伸張反射を制御可能であることを示唆しており,痙性歩行の改善に向けて,電気刺激療法における刺激パラダイムの開発等に応用可能である。