[1411] Patterned electrical stimulationと随意運動併用の脊髄相反性抑制への効果
Keywords:H反射, 電気刺激, 歩行
【はじめに,目的】
近年,中枢神経の可塑性が注目され,脊髄レベルでの可塑性の存在も示唆されている。不全脊髄損傷患者においても,トレッドミルによる歩行訓練の有効性が指摘されており,その機序として脊髄における神経回路の可塑性が考えられている(藤原,2005)。脊髄における可塑的変化には感覚入力が重要とされ,脊髄介在ニューロンにおける可塑的変化,特にIa抑制性介在ニューロンを介する相反性抑制の可塑的変化の関与が注目されている。Patterned electrical stimulation(PES)は歩行時におけるafferent burst類似の感覚刺激を電気刺激によって行うものであり,健常成人において,相反性抑制を増強させ,脊髄レベルでの可塑的変化を起こすと考えられている(Perez et al, 2003)。また,この脊髄介在ニューロンの可塑的変化は,皮質運動野の興奮性の変化により修飾されることが報告されている(Fujiwara et al, 2011)。そこで本研究では,PESと随意運動の併用が相反性抑制に及ぼす効果について検討した。
【方法】
対象は神経学的疾患の既往がない健常者12名とした。年齢は31.5±3.8歳(平均値±標準偏差),男性8名,女性4名であった。PES(100 Hz,10 pulsesの刺激trainを0.5 Hzで20分間)は腓骨頭部で総腓骨神経に行い,刺激強度は前脛骨筋のM波閾値とした。すべての対象者において,1)PESのみ,2)随意運動のみ(右足関節の背屈運動を0.5Hzで20分間),3)PES+随意運動の3条件の介入を実施した。評価は,ヒラメ筋H反射を用いた条件-試験刺激法により,相反性抑制を測定した。試験刺激は脛骨神経へ行い,刺激強度はヒラメ筋M波最大振幅の15~20%の振幅のH波が誘発できる強度とした。条件刺激は腓骨頭部で総腓骨神経を刺激し,強度は前脛骨筋のM波閾値とした。また条件-試験刺激間隔は,0,1,2 msとし,介入前評価において最も強く抑制が認められた条件-試験刺激間隔を選択した。[条件-試験刺激で得られたH波振幅/試験刺激のみで得られたH波振幅]をRI ratioとした。それぞれの20分間の介入の間に,介入開始後5分,10分,および20分にRI ratioを評価し,介入内容と介入時間による相反性抑制に対する効果の違いを検討した。統計解析は,介入(PESのみ,随意運動のみ,PES+随意運動)と,時間(介入前,介入開始後5分,10分,および20分)の2要因による反復測定分散分析後に,多重比較検定としてBonferroni補正した対応のあるt検定を用いた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
所属施設における倫理審査会での承認後,ヘルシンキ宣言に基づき,被験者に実験内容を十分に説明し,本人の意志により書面にて同意を得た。
【結果】
RI ratioは介入と時間の交互作用(F[6,66]=4.33,p=0.001)を認め,介入,時間ともに主効果(介入:F[2,22]=11.2,p<0.001,時間:F[3,33]=24.1,p<0.001)を認めた。課題内での介入前後の比較では,PES+随意運動群では介入前と比較し,開始後5分からRI ratioの減少を認めた(p<0.001)。PESのみ群および随意運動のみ群では介入開始10分までは有意なRI ratioの変化を認めず,介入開始後20分で有意なRI ratioの減少を認めた(p<0.05)。介入間の比較では,PES+随意運動群では,介入開始後5分で,他の2群に比較し有意なRI ratioの減少を認めた(p<0.05)。介入開始後20分においても,PES+随意運動群は随意運動のみ群に比較し,有意なRI ratioの減少を認めていた(p<0.05)。
【考察】
PESに随意運動を併用することにより,それぞれを単独で用いるより短時間での相反性抑制の修飾が可能であり,その相反性抑制増強効果も大きいものであった。脊髄Ia抑制介在ニューロンを介する相反性抑制は,運動皮質からの投射を受けていることが知られており,PESに随意運動を併用することによって,PESの効果をさらに増強することが可能であると考えられる。今後,相反性抑制増強の長期効果を検討するとともに,中枢神経疾患患者での検討を行う予定である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,運動障害に関係する相反性抑制を修飾する方法として,PESと随意運動の併用の有効性を示した。今後,中枢神経疾患に応用するための,基礎的研究として意義がある。
近年,中枢神経の可塑性が注目され,脊髄レベルでの可塑性の存在も示唆されている。不全脊髄損傷患者においても,トレッドミルによる歩行訓練の有効性が指摘されており,その機序として脊髄における神経回路の可塑性が考えられている(藤原,2005)。脊髄における可塑的変化には感覚入力が重要とされ,脊髄介在ニューロンにおける可塑的変化,特にIa抑制性介在ニューロンを介する相反性抑制の可塑的変化の関与が注目されている。Patterned electrical stimulation(PES)は歩行時におけるafferent burst類似の感覚刺激を電気刺激によって行うものであり,健常成人において,相反性抑制を増強させ,脊髄レベルでの可塑的変化を起こすと考えられている(Perez et al, 2003)。また,この脊髄介在ニューロンの可塑的変化は,皮質運動野の興奮性の変化により修飾されることが報告されている(Fujiwara et al, 2011)。そこで本研究では,PESと随意運動の併用が相反性抑制に及ぼす効果について検討した。
【方法】
対象は神経学的疾患の既往がない健常者12名とした。年齢は31.5±3.8歳(平均値±標準偏差),男性8名,女性4名であった。PES(100 Hz,10 pulsesの刺激trainを0.5 Hzで20分間)は腓骨頭部で総腓骨神経に行い,刺激強度は前脛骨筋のM波閾値とした。すべての対象者において,1)PESのみ,2)随意運動のみ(右足関節の背屈運動を0.5Hzで20分間),3)PES+随意運動の3条件の介入を実施した。評価は,ヒラメ筋H反射を用いた条件-試験刺激法により,相反性抑制を測定した。試験刺激は脛骨神経へ行い,刺激強度はヒラメ筋M波最大振幅の15~20%の振幅のH波が誘発できる強度とした。条件刺激は腓骨頭部で総腓骨神経を刺激し,強度は前脛骨筋のM波閾値とした。また条件-試験刺激間隔は,0,1,2 msとし,介入前評価において最も強く抑制が認められた条件-試験刺激間隔を選択した。[条件-試験刺激で得られたH波振幅/試験刺激のみで得られたH波振幅]をRI ratioとした。それぞれの20分間の介入の間に,介入開始後5分,10分,および20分にRI ratioを評価し,介入内容と介入時間による相反性抑制に対する効果の違いを検討した。統計解析は,介入(PESのみ,随意運動のみ,PES+随意運動)と,時間(介入前,介入開始後5分,10分,および20分)の2要因による反復測定分散分析後に,多重比較検定としてBonferroni補正した対応のあるt検定を用いた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
所属施設における倫理審査会での承認後,ヘルシンキ宣言に基づき,被験者に実験内容を十分に説明し,本人の意志により書面にて同意を得た。
【結果】
RI ratioは介入と時間の交互作用(F[6,66]=4.33,p=0.001)を認め,介入,時間ともに主効果(介入:F[2,22]=11.2,p<0.001,時間:F[3,33]=24.1,p<0.001)を認めた。課題内での介入前後の比較では,PES+随意運動群では介入前と比較し,開始後5分からRI ratioの減少を認めた(p<0.001)。PESのみ群および随意運動のみ群では介入開始10分までは有意なRI ratioの変化を認めず,介入開始後20分で有意なRI ratioの減少を認めた(p<0.05)。介入間の比較では,PES+随意運動群では,介入開始後5分で,他の2群に比較し有意なRI ratioの減少を認めた(p<0.05)。介入開始後20分においても,PES+随意運動群は随意運動のみ群に比較し,有意なRI ratioの減少を認めていた(p<0.05)。
【考察】
PESに随意運動を併用することにより,それぞれを単独で用いるより短時間での相反性抑制の修飾が可能であり,その相反性抑制増強効果も大きいものであった。脊髄Ia抑制介在ニューロンを介する相反性抑制は,運動皮質からの投射を受けていることが知られており,PESに随意運動を併用することによって,PESの効果をさらに増強することが可能であると考えられる。今後,相反性抑制増強の長期効果を検討するとともに,中枢神経疾患患者での検討を行う予定である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,運動障害に関係する相反性抑制を修飾する方法として,PESと随意運動の併用の有効性を示した。今後,中枢神経疾患に応用するための,基礎的研究として意義がある。