第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

人体構造・機能情報学6

Sun. Jun 1, 2014 10:25 AM - 11:15 AM 第4会場 (3F 302)

座長:肥田朋子(名古屋学院大学リハビリテーション学部)

基礎 口述

[1413] 解剖学的観察を用いた内転筋群における股関節回旋作用の検討

平野和宏1, 木下一雄2, 河合良訓3, 安保雅博4 (1.東京慈恵会医科大学葛飾医療センター, 2.東京慈恵会医科大学附属柏病院, 3.東京慈恵会医科大学解剖学講座, 4.東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座)

Keywords:解剖, 内転筋, 回旋

【目的】近年,機能解剖学に関する報告が認められるも,深層筋における報告は少なく,その知見は十分とは言い難い。内転筋群は大きな筋群であるが,筋電図を用いた大内転筋の機能についての報告は散見されるも,それ以外の筋に関しては報告がほとんど認められず,その機能については明確になっていない。骨格筋の機能を理解するには,解剖学的観察は有効な手段である。その利点は,関節角度の変化に伴う筋の短縮や伸張の度合いを3次元的に観察できるため,筋の作用が理解可能な点である。本研究では,解剖学的観察所見を基に,恥骨筋,長内転筋,短内転筋(以下;3筋)の回旋作用について検討することを目的とした。
【方法】当大学解剖学講座に提供された,肉眼的に股関節に明らかな障害のない献体3体5肢(男性2名,女性1名,73歳~78歳)を用いた。献体の固定方法は,厚生労働大臣の承認する死体解剖資格取得者により,アルコール36%,グリセリン13,5%などを含む混合固定液を大腿動脈から注入し固定した。骨盤は恥骨結合および仙骨を切断し,下肢は膝関節から切断,表皮及び結合組織,脈管系,表層筋を除去して3筋を剖出した実験標本を作製した。作製した実験標本を用いて股関節中間位における3筋の3次元的な走行を確認し,股関節中間位からの他動的な股関節内旋・外旋運動に伴う筋の伸張・短縮を観察した。尚,解剖学的観察においては,死体解剖資格を有する指導者のもと実施した。
【倫理的配慮】本研究は,当学の倫理委員会の承認を得て施行した。
【結果】各筋の起始停止として,恥骨筋は恥骨上枝から起始し,小転子のすぐ遠位の恥骨筋線に停止,長内転筋は恥骨稜の下部から起始し,大腿骨粗線に停止,短内転筋は恥骨下枝から起始し,恥骨筋線および大腿骨粗線近位部に停止しており,3筋ともに恥骨から起始し,大腿骨の後面へ停止していた。走行として3筋は内旋の回転軸と直交に近い走行であった。3筋は恥骨から起始し,大腿骨の後面へ停止していることから,観察のみでは外旋作用を持つと考えられたが,股関節中間位から他動的に内旋すると3筋は短縮し,外旋すると伸張した。頭側から尾側方向にて起始停止の位置関係を観察すると,内旋で起始停止は近づき,外旋で起始停止は離れた。また,内旋時に3筋は大腿骨に巻き込まれるように短縮することが確認された。さらに,股関節内旋には内転が伴い,内転を伴わない内旋を行うと,頚部と臼蓋がimpingementを起こしやすいことが確認された。
【考察】現在,身体運動への個々の骨格筋の寄与は,徒手筋力検査法(Manual Muscle Testing;以下MMT)における知識が一般的である。しかしながら,骨格筋は3次元的な走行を持っているため,関節角度の変化やOpen Kinetic Chain(開放運動連鎖 以下;OKC)とClosed Kinetic Chain(閉鎖運動連鎖運動 以下;CKC)の違いによっても関節に及ぼす機能は変化する場合がある。MMTにおける股関節内旋筋は中殿筋,小殿筋,大腿筋膜張筋とされている。関節の回転トルクを発揮する場合,関節の回転軸に直交する筋走行ならば強い回転トルクを発揮できるが,回転軸に平行する筋走行では回転トルクは発揮できない。中殿筋,小殿筋,大腿筋膜張筋は股関節屈曲位であれば強い内旋トルクを発揮するのには有利な走行であるが,股関節中間位では回転軸に平行する走行となるため,内旋トルクを発揮するには不利な形態である。一方,3筋は内旋の回転軸と直交に近い走行であるため,内旋トルクを発揮するのに有利な形態であり,今回の結果からも他動的な内旋時に3筋の短縮が確認された。以上の事から,3筋は股関節中間位における内旋の機能があると考える。しかし,内旋時に3筋は大腿骨に巻き込まれるように短縮することが確認されており,大腿骨側が動くOKCよりは,骨盤側が動くCKCのときに内旋に作用しやすいと考えられる。今回,股関節中間位からの他動的な内旋を行ったところ,内転を伴いながら内旋することが確認された。肩関節であれば骨頭から直接長軸方向に上腕骨が伸びているため,軸回転としての内外旋が可能であるが,股関節は頚体角と大腿骨頚部が存在することや,骨頭と臼蓋の関係からも内転を伴わない内旋を行うと,頚部と臼蓋がimpingementを起こしやすくなることを確認しており,これらのことから生理的な動きとしては内転を伴いながら内旋するものと考える。この複合運動は,実際の動作としてはknee inを連想させるものであった。
【理学療法学研究としての意義】今回,その機能が明確とは言えない恥骨筋,長内転筋,短内転筋の3筋の股関節回旋作用について,解剖学的観察を用いて検討した。骨格筋の機能を理解することは,精度の高い理学療法介入の一助になると考えられ,理学療法学研究としての意義があると考える。